追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

再会して五分


 唐突な出来事に、周囲に居る者達は理解が追い付いていなかった。
 妹君であるスカーレット殿下も、ロボという未知の存在の手を取る姿にただただ困惑しているし、普段であれば状況の飲み込みが早いシアンも理解が追い付かないような表情である。
 そして、手を取られた当のロボ自身も、何事か分からず困惑している。

「アノ、スイマセン。ワタシト誰カヲ間違エテイマセンカ?」
「いや、貴女のような素晴らしき方を間違えるなど有り得ない!」

 そりゃそうだ。
 多分周囲に居た皆がそう思っただろう。ロボの姿を見間違えるとかまずない。

「いや、貴女はオレを知らないだろう。一度出会ってそれきりだったからな。だが、オレは貴女の事を決して忘れることが出来なかった!」
「昔何処カデ、オ会イシタノデショウカ」
「そうだ。五年前だ」

 だけどルーシュ殿下が見たのは金髪の美女……という事は、ロボが装甲を付けていない状態で見たはずだから、何故今の姿で分かったのだろうか。少なからず中に居るブロンドは見れないはずなのだが。

「いや、失礼した。会ったのはオレが一度見かけただけだからな。覚えていないのも無理はない」
「ソウデスカ。トイウ事ハ、ワタシノ名前モ……」
「ああ、申し訳ないが知ってはいない。聞かせて貰えるだろうか」
「ロボ、ト言イマス」
「ロボ……不思議な響きだ。耳に馴染み、何故か貴女に相応しいと思う名前だ」

 ええ……ロボって名付けたの俺なんだけどな……
 名乗る名前が無いまま活動していた時に、初めて見て「ロボ!?」と反応してしまったのが原因でロボがロボと名乗っているだけなんだけど……
 この世界にの機械類は古代ロスト技術テクノロジーであり、労働者という意味でのロボっていう単語も無いし。

「アリガトウゴザイマス、ワタシモ、気ニ入ッテイルンデスヨ」

 ……これもある意味前世の記憶を有しているが故に、気に入られたとかそういう類なのだろうか。前世で言う所の転生物類でよくあった、知識を持った状態故の周囲の惹き込み、になるのだろうか。
 気に入って貰えているのなら嬉しいが、複雑である。

「ロボさんは、シキに住まわれているのだろうか?」
「ハイ。四年ホド前カラ住ンデイマス。ソレマデハ各地ヲ、転々トシテイタノデスガ、クロクンニ受ケ入レラレタオ陰デ住ムコトガ出来テイマス。今ハコウシテ、教会ニ用ガアッテ来タリト、ナンデモ屋的ナ事ヲシテイマスヨ」
「おお、そうなのか! 様々な事を出来なければ出来ない芸当だ。貴女は素晴らしきお方だ!」
「ソウデショウカ? トリアエズアリガトウゴザイマス?」
「それと、その、女性にこのような事を聞くのは失礼だとは分かっているのだが……このシキでお付き合いしている方、もしくは所帯を持って住んでいるのだろうか」
「イエ? ワタシハ誰トモ付キ合ッタ事ハ、無イデス」
「そ、そうか!」
「?」

 あれは一種の恋は盲目、というヤツなのかな。
 そしてロボは自分に自信がないタイプなので、多分自分に恋い焦がれられている、という事が理解できていないだろうが。
 ロボ。本名ブロンド。
 中に居る(?)ブロンドは、俺も少しではあるが一度見た事は有る。立った状態で地面に付くようなとても長く綺麗な金色の髪で、碧と翠のオッドアイ。
 ただ、顔を含む肌の半分近くが火傷と解呪・偽装不可の呪いを受けており、その影響によって過去に親を含む周囲に迫害を受けたため、見られる事をひどく怖がっている。
 見た時もとても取り乱し、そのままシキを去るのではないかという騒動があったが。なお、色々あって今はシキにいる
 ……だから少し不安だ。
 もしかしたらルーシュ殿下は、ロボが外装が無い時に出会ったと話せば、ロボが取り乱す可能性もある。
 俺は例え不興を買おうとも、一旦邪魔をしようとロボ達に近付こうとした所で。

「以前ハ、何処デワタシヲ見タノデス?」
「帝国北部にある古代ロスト技術テクノロジーが眠る古代遺跡近くの川辺だ」
「――ッ!?」

 その言葉を聞き、ロボがなにかを感づいたかのようなリアクションを取ったので、もう遅いと思った。色々衝撃があって、動きが遅れてしまった。

「……ソノ時、ワタシハ、モシカシテ……」
「ああ。貴女はオレが話しかける前に去られた。夜ではあったが、今のような格好は両足だけで、金色の長い髪が美しかったのを覚えている」
「――ァ、――ェ、顔、顔ヲ――見ら、見られテ、ワタシ、ノ顔ヲ――」

 その言葉とロボの反応を見て、スカーレット殿下とブラウン以外の周囲の皆が会話を遮るべきか、フォローを淹れるべきかと身構えたのが分かった。
 ロボが顔を見られる事を恐怖しているのは周知の事実であり、ロボが精神的に不安定になっているのが分かる。

「そういえば名乗り遅れていたな、申し訳ない。女性に対してこのような対応をするなど、恥ずかしい限りだ」

 だが、ルーシュ殿下はその事に気付かず言葉を続ける。周囲の皆が止めようとはするが、

「オレの名前はルーシュRougeランドルフRandloph。一目惚れした貴女を追い求め、今まで旅を続けてきた」
「――ラン、ドルフ? ルー……シュ? ソノ名前ハ……」
「そうだ。国王たる父のレッド・ランドルフが長男、ルーシュだ。覚えてくれると嬉しい。そして……」

 その言葉に先程と違う意味でピシッ、と周囲が固まったのが分かった。
 シアン辺りはなんとなく初めの方から殿下達の姿に疑問顔であったけど、今の台詞で色々と察してどうしようかという表情になっている。あのような表情のシアンはレアである。
 そして、固まる俺達をよそに、ルーシュ殿下はロボの左手を取ったまま膝をつき、見上げる形で――

「ロボさん――オレの妃となってくれ!」

 愛の告白を、した。
 ……なにをやっているんだよ、あの方は……!





備考
ロボ
通常時装甲時は2m程度。
色々展開させると3m越え。
降り立ち装備を格納すると元の身長に近い160ちょっと。
160cm未満(中の人)
金髪ブロンドに碧い右目、翠の左目
中に居る女性は金髪の人族の女性。過去に外見に関しての迫害を受けたため素顔を見られる事をひどく恐怖している。
一度クロに見られた時は精神が危うくなったが、クロの反応・対応により落ち着いて、少しだけトラウマが払拭されている。
中にいるロボ’(本名ブロンド)の外見は美女……らしい。詳細はまだ不明。ただ肌に魔法でも隠すことが出来ないほど大きな火傷と呪いのような跡があるそうである。


ルーシュ・ランドルフ
赤(臙脂ルーシュ色)髪紫目(変装時は魔法で碧色)
190cm程度
第一王子
二十三歳
鍛えられた肉体があり体格は良いが何処かスマートな感もある現冒険者。
未婚。愛しき女性(ロボの事)を追い求めているのもあるが、あまり良縁に恵まれない。
双子の姉がおり、姉の事をとても苦手としている模様。

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