追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

結局は受け手次第


「……ふむ、ある程度は触れ合えたか」
「大丈夫でしょうか。体調や精神に問題などは有りませんか?」
「心配は無用だ、領主よ。オレが愛する国の民と触れ合っただけだ。少々オレの知っている相手と違っていただけである。うむ、いい勉強になった」

 一通り金・銀髪の方々を紹介し、ルーシュ殿下が一旦休憩をしたいと言って教会前に戻り適当な日陰にて休んでいた。
 少し疲れていたようには見えたが、ルーシュ殿下は心配無用と言い面白い体験をしたかのように笑っていた。……結構器の広い方なのかもしれないな。

「そうですか。……なにかお飲みになりますか?」
「大丈夫だ。……ふむ、だが、この地にも彼女は居ないのかもしれないな」
「残念です。ご期待にお答えできなくて、申し訳ございません」

 少々言い方が後ろ向きなのは、情報が少なくて会えない可能性が有るのを自覚しているからかもしれない。……決してシキに居たらこの雰囲気に慣れてしまうから、あまり居て欲しくないという願望で無い事を祈ろう。
 俺は謝罪の言葉を口にしつつ、ルーシュ殿下が教会前の広場の方を眺めていたので視線を同じ方向に向ける。

「ふっ、やりおったな命を救ってくれた子供達よ! けれど私もただではやられない。私はかつて雪を魔力で固めて姉様に本気で怒られた過去を持つ女! 油断すると反撃の狼煙が上がる!」
「子供達には決してやらないでください!」

 視線の先、ヴァイオレットさんとスカーレット殿下の方は、現在教会前の広場にて、殿下達を助けたグレイ達四名+シアンと雪合戦中だ。
 命を救ってくれたとスカーレット殿下が全員纏めてハグをした後、遊ぶのならばいっしょに参加させてくれと言って現在に至っている。ヴァイオレットさんは巻き添えに近いが。

「魔力有りならば我も闇とを混ぜた雪合戦をしようでは無いか!」
「おお、喰らった相手を己がカルマに向き合わせる事で強制的に謝罪を促すというアレですねアプリコット様!」
「ほほう、本気を出せというならば私も本気を出すぞ? 手始めに痺れが徐々に快感となってきて最終的に○○○になる毒を混ぜてやろう」
「え、雪にビームを乗せて良いの?」
「ふ、魔力なんて不要! 力によって固めた雪は魔力を籠めるよりも固くなるの! 圧縮、圧縮――!」
「頼むからお前達は変に細工しないでくれ!」

 ……ヴァイオレットさん、大丈夫かな。フォローに入った方が良いだろうか。
 アイツらが不敬罪とかで掴まらない事を祈ろう。

「…………」
「ルシさん、どうなさいました?」
「いや、なんでもない。子供達が元気な事は良い事だ」

 ヴァイオレットさん達が雪で遊んでいる姿を見て、ルーシュ殿下がどこか興味深そうに眺めているに気付いた。
 初めは子供達を見て微笑ましく思っていると思ったが、少し違う気がする。しかし殿下自身が違うと言っているのだから、追求は止めておこう。なにが違うかも分からないし。

「時に領主よ。オレのこの旅は浅ましいと思うか?」
「はい? 失礼ですが、どういった意味でしょうか」

 追及をしないのならば、間が開く前になにか話題を振ろうと思ったが、先にルーシュ殿下が話題を振って来た。

「父上や母上に話していないが、オレは一目惚れの女性に会うために旅を続けている。本で言えば“少年、ボーイ少女にミーツ出逢うガール”のようなものであろう。吟遊詩人が好みそうな話ではある」
「はい。そうですね」
「だが……当然だが、オレは相手の女性の事はまるで知らん。つまりオレは外見だけで女性を判断して、好きになって追い求めているのだ。……これは浅ましく醜い心情と思われるのではないか、とな」

 言いたい事は分かりはする。
 質問の内容は、俺の立場上浅ましいなんて答えられない。それをルーシュ殿下は理解しているのか……いや、理解はしているだろう。だが、聞かなくてはならないなにかが最近あったのだろうか。年始の王族主催のパーティーの類で説教を受けたと言っていたし、いい加減身を固めろと言われているのだろうか。
 もしくは……

「良いと思いますよ。外見は重要ですし、惚れる一つの要因としては充分でしょう」
「……本当にそう思うか?」

 ……もしくは、この質問対してどう答えるかを見ているのかもしれないが。

「私の趣味は服を縫う事なのですが、やっぱり外見をその方に似合うように着飾る事が出来たら嬉しいですし、これも外見で判断する、になるでしょう。それに私も綺麗な外見を見た瞬間に電撃が走ったように惚れ込んだ事も有りますし」

 とは言え、この回答自体は本音で答えよう
 外見が全てでは無い。が、そもそも俺の前世の職業は外見を活かすためのモノづくりであるし、外見の優劣を否定していては俺の矜持も無くなってしまう。

「ほう、領主もやはり過去に恋愛経験があるのか?」
「あ、いえ。惚れたのは服のデザインです。見た瞬間これを形にしたいと五日ほど寝ずに縫っていたことがありますので。最後の方は飲まず食わずだったので妹に強制的に眠らされましたが」
「……そうか」

 懐かしいな。前世の友人のデザインに惚れたあの日。そして前世の妹によって強制的に眠らされたあの時。途中から縫った記憶がないのに起きたら出来ていたあの瞬間。聞くと全部俺一人で仕上げていたらしい。無意識って怖い。
 ……あれも一応外見で判断する、だよな。服の外見デザインな訳だし。

「それに」

 俺はヴァイオレットさんとグレイの方を見て、

「俺はああやって楽しそうに遊んだり、笑ったりする家族が好きですよ。それも内面が外に出て、外見で判断して、好きになる。という事でしょうから。外見で判断するのは浅ましいかもしれませんが、ただの側面に過ぎないでしょう。誰にでもどうとでも言えますから」

 家族に対する思いを言った。
 結局はどう思うかなんて、受け手の気分次第だろう。という事を、俺がそうしているという形質問の返しとして答えた。
 ……これで納得してくれたのならば良いが。

「……ふむ、返答、感謝する。参考になったぞ」

 どうやら納得はしてくれたようだ。
 旅の理由を話せば、王族とは言え色々と言われる事も有るのだろう。もしかしたら本当に不安な面もあったのかもしれない。

「この後もシキで金髪の女性を探しますか?」
「そうだな。だが、この後は一旦宿に戻り、酒場で情報収集する予定だ。あらゆる種族が集まる場所では、情報も集まるからな。だから案内はここまでで良い。感謝する」
「分かりました」

 しかし金髪の美しい女性か。
 まだシキに住まう金髪の女性で会っていない者達はまだいるが、その中に愛しき女性は居るのだろうか。
 仮に見つかったとしてその女性が平民などでも求婚したりするのだろうか。既婚であれば本当に諦められるのか。
 色々と気になる事は有る。不安もある。
 だが、一番気になっている事が……

――その金髪の女性、メアリーさんじゃないだろうな。

 そして、一番嫌な予感は金髪の女性、というのがメアリーさんでは無いかという不安だ。
 クリームヒルトさんも金系統の髪色だが、身長からして違うようである。しかしメアリーさんはヴァイオレットさんよりも高い170前後の身長で、長く綺麗な金の髪色をしている。
 帝国に居た、というのも彼女ならば錬金魔法の材料を集めに言った所であった、という可能性もある。ルーシュ殿下が学園生時代に出会ったそうなので、その頃のメアリーさんは十歳そこらではあるが、女性の成長は男よりも早いしもしかしたらは有り得るのだ。
 その場合、今のメアリーさんには好意をハッキリと示し、牽制し合っている主な奴らが五名居る。その中にルーシュ殿下も混じるようなものならば……

――凄いドロドロした関係になるな。

 なんというか、事実だとしたら今よりもっと酷い絵面になりそうだ。
 今のメアリーさんだと色々と精神が危うくなるんじゃなかろうか。あるいは飄々と躱すことが出来るのだろうか。

「――む?」

 そんな不安を思っていると、ルーシュ殿下がなにかに気付いたかのように、視線を上空に向けた。
 俺もつられて見ようとした所で、

「皆、警戒して! 上空にモンスターが居るかもしれない!」

 突然、雪合戦をしていたスカーレット殿下が真剣な声で上を向きながらそのように叫んだ。
 俺達はその言葉を聞いて、飛翔小竜種ワイバーンあたりでも襲ってきたのかと警戒態勢になるが――

「ああ、大丈夫か」

 上空を見て、見えた存在にスカーレット殿下以外が警戒を解く。
 スカーレット殿下はその様子を見て警戒を解かないまま、疑問顔へと変わりつつも上空から来る存在に注視していた。

「ルシさん、ご安心を。彼女は――ルシさん?」

 俺は先程なにかに気付いたかのように上空を見たルーシュ殿下に対し、大丈夫という事を伝えようとすると、ルーシュ殿下は何故か警戒態勢ではない状態で、固まっていた。
 なにがあったかのかと不安になり、肩を揺さぶろうとすると。

「――見つけた」
「はい?」

 上空から降り立とうとしているに対し、警戒や未知なるものに対する驚愕ではない反応を示す。

「え、ルシさん、どちらに?」

 そして降り立とうとしている彼女の方へと、全速力で走っていく。
 降り立とうとしている場所は、ヴァイオレットさん達が雪合戦をしていたちょうど真ん中あたり。予想しない行動と未知なる相手に近付く兄君に対し、スカーレット殿下はどうすれば良いのかと一歩踏み出せずにおり、ヴァイオレットさん達はルーシュ殿下の行動にただ疑問の表情であった。

「見つけた。ああ、この出会いはまさに奇跡の出会いである!」

 そして降り立った彼女に対し、ルーシュ殿下は――

「ついに……ついに見つけたぞ。オレの愛しき女性!」
「エ……ワタシ、デスカ?」

 そう言いつつ――ロボの手を、取った。

 ……金髪の美しき女性ってロボかよ!

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