追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
報告と○○_1
吹雪も止み、すっかりと快晴となったシキとその周辺。
俺はヴァイオレットさん達と一緒に、クリームヒルトさん達を待機させておいた馬車に乗ったのを見送った。
「寂しくなりますねー」
「そうだな。だが、クリームヒルト達にはクリームヒルト達の生活もあるからな」
「そうですね」
手を振っているのが見えなくなってから感想を言うと、ヴァイオレットさんも少し寂しそうに返答を貰えた。
こうして友達との別れに寂しさを覚える程度にはヴァイオレットさんも楽しんではいたようだ。
「あ、それじゃ俺は宿屋とかに用があるので一旦別れましょうか」
「分かった。……言っておくが、布と糸を買いに周囲が見えなくならないようにな」
「うっ……分かっています」
俺が手に持った書類を少し掲げながら、仕事がある事を示すとヴァイオレットさんに釘を刺された。
さっき少し暴走して吹雪の中で買いに行こうとしたのを必死に止められたからな……流石に反省しないといけない。
「……だが、暴走だけはして欲しくないというだけで、作ってくれる事は……嬉しいのだからな」
少し顔を赤くするこの方は、わざと俺を暴走させようとしているのではないだろうか。
「私は一度カナリア……とアプリコットを送り届けるよ。帰りにシアンが大丈夫か確認してくる」
「お願いします」
カナリアはこの雪の中放置すると確実にコケて雪にダイブするからな……まぁなんだかんだで無事ではあるのだけど。
あと、アプリコットは今もなんだかグレイとの会話が微妙にかみ合わずにいて不安であるし、一応家までは見届けて貰うとしよう。
「それでは、先に失礼しますね」
「ああ、では後で」
俺はヴァイオレットさん達と別れ、用がある宿屋へと向かった。
◆
「それじゃ、よろしくお願いしますね」
「あいよ。いつも悪いなクロさん」
酒場兼宿屋兼ギルドの【レインボー】での用事を済ませ、手にしていた書類を揃えながら主人に最後の確認のお願いをする。
色々役割が被っている重要な場所であるので、確認してもらう内容が結構あって時間がかかったが仕様が無い事だろう。ふぅ、と息を吐き首を回して軽く凝った部分を解していく。
「しっかし、寒いな。こう寒いと商売もあがったりだ」
「ここに来る前の酒場じゃ昼間から飲んだくれてる駄目人間が結構いた気がしますがね」
「はは、アイツらは理由着けて飲みたいだけだし、だべっている時間の方が長いから金はあんま入んねぇよ」
適当な世間話をしながら、揃えた書類を封筒に入れて立ち上がる。
まぁ冬場であるし、冒険者も依頼も少ない。そうなると宿屋としてもあまり儲からない上、寒いと外出も控えたりして酒場もあまり来る者は少ないだろう。
こんな風にシキの変態共も冬場になって動きを弱めてくれれば嬉しいのだが、そうはいかないからなぁ。
「ま、夫婦共々風邪はひかないでくださいね」
「おう! お前さんも風邪ひかんように早く帰って嫁さんと肌で温めあってやりな!」
「は、はぁ……」
……ここの主人はこういう下世話な事も普通に言うから、少し苦手である。気の良い方であるのだが。独身時代はよく酔うとカーキーと一緒に「隣町の風俗店行こうぜ!」とか誘ってきたし。その後奥さんに忍術を喰らって締め上げられるのだが。
まぁこの位じゃないと酒場やギルドなんてやれないのだろうが。
「じゃ、俺はこれで。ああ、そうだ。依頼の方もよろしくお願いしますね」
「分かってるよ」
「ああ、後、奥さんにこちら義手を拭く用の刺繍レース付きハンカチです。洗えば何度でも使えるので」
「……なんか悪いな、いつも。アイツ中身乙女だからな。お前さんのだと特に喜ぶんだ」
「いえ、楽しいですし構いませんよ。可愛い奥さんなんだから心配かけちゃダメですよ」
「分かってるよ。やらんぞ」
「いえ、俺にも大切な可愛い妻が居るので」
俺は主人に奥さんから頼まれていたピンクのレース付きハンカチを渡し、一言二言交わして話し合いの部屋を出て、途中で酒を飲んでいるやつらに絡まれもしたが、適当にあしらってそのまま酒場の部分を抜けて外に出た。
「寒いな」
それにしても吹雪が止んだとはいえ今日は寒い。
吐く息は白いし、雪が太陽光を反射して少し眩しい。早く夏でも来てくれないかな思うと同時に、夏が来れば逆を思うんだろうなと毎年思っている事を思った所で、早く仕事を終わらせようと少し気合を入れる。仕事と言っても見回りに近い形だけど。
仕事が終わったら、今日の食事当番は俺だし、晩御飯は温まるモノを作って皆で温まろうと思っていると。
「おーい、クロ君! 報告に来たよー!」
「げっ」
他者の肉体を愛する変態が空から箒に乗って現れた。
魔女服を着た変態……ヴェールさんは地上の降り立つと、箒から降りて箒を右手に持ち、淡く光らせるといつも持っている杖へと変化させた。……無駄に魔女っぽいな。
「げ、とは相変わらず失礼だね。せっかく報告に来たというのに」
「……失礼しました。報告とは、またなにかモンスター調査で進展でも?」
最終報告らしきものは受けていたので、もうシキから去っていたものだと思ってはいたが、報告というからにはなにか進展があったのだろうか。
「いや、それではなく、別件だよ」
「別件?」
なんだか無駄に期待に満ち溢れた目つきなのは気のせいだろうか。逃げないと俺のなにかがマズい気がするのは気のせいだろうか。具体的にはトラウマが増えそうな。
しかし別件とは一体なんだろうか、と思っていると。
「クロくん、仕事の報告に来たよ!」
「モンスター!?」
自身の肉体を愛する変態が、空を飛ぶ系モンスターに乗りながら現れた。
シュバルツさんはモンスターから降り立つと、モンスターに感謝の言葉を述べて軽くじゃれついた後空を飛ぶのを見送った。……本当にモンスターと仲良いな。
というかシュバルツさんは俺と一緒に馬車に乗って首都に行ったって言うのに、もう帰って来たのか。
「やぁ、シュバルツ君。相変わらず素晴らしい肉体だ」
「ありがとうございます。私は存在こそ美の集合。当然とはいえ貴女のように素直に賛辞を頂けるとやはり嬉しいものだ」
「しかし、モンスターと仲良いみたいだね。魔力による操りのようには見えなかったが……ふふふ、あれならば魔力痕跡を残さずにモンスターを自由にできるから、色んなことが出来そうだね」
「我が子達は皆大切な子ですから、貴女の想像のような事をする訳ないじゃないですか」
「私はまだなにをするとは言っていないが、なにかする気なのかな?」
「私もまだなにかをするとも、あの子達でなにかが出来るとも言っていませんよ」
「おや、これは失礼。てっきりモンスターを使って色々出来ると勘違いしてしまったよ」
「いえ、勘違いなど誰にでもあるものだよ。気にする事も無い」
『ふふふふふ』
そしてなにを会った瞬間少し怖い会話をしているんだコイツら。
肉体好きで相互利益を得られるだろうに、無駄に牽制し合うんじゃない。立場上は仕方ないのかもしれないけれど。
「というより報告、ってなんでしょうか」
俺がこの空気に耐えられず、とりあえずなんのために俺の前に現れたのか問い質した。
領主である俺に報告、というからには無視も出来ないからな。
「学園長先生の報告だよ」
「ノワール学園長の報告さ」
俺が戸惑いながらも聞くと、両者はほぼ同時にそんな事を言い出す。
学園長の報告って……つい先日したばかりなのに、もう報告出来ると言うのだろうか。という事は首都に行って、帰って来たというのだろうか。
「……虚偽ならば報酬は払えませんよ? 首都に行ってからそんなに経っていないのに」
「空間歪曲石と私の箒飛翔を合わせればここまで半日とかからん」
「同じく空間歪曲石と我が子が上手く合わされば半日もかからないよ」
……忘れがちだが、この方々優秀なんだったな。
ていうか空間歪曲石ってそんな簡単に使えるものじゃないはずなんだけどな。
「まぁ、他にも聞きたい事が出来たのもあるんだけどね」
「聞きたい事、ですか。なんでしょう、ヴェールさん」
「ああ、実は――」
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