追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

淡黄の質問_2


「クロさん。もしかしてなんだけど――」

 クリームヒルトさんはそこまで言うと、悩み込み一瞬伏し目になる。
 しかしすぐに持ち直すと、小柄なため自然と見上げる形でこちらを見て、元の元気のある笑顔の表情へと変え、

「もしかして、クロさんってギャップのある服装をするのが好きなの?」

 と、そんな質問をして来た。
 明らかに元々しようとしていた質問と変えてはいるが、変えたのならば理由があるだろうしわざわざ追及する必要もない。何故変えたのかは気になるが、今は今の質問に答えよう。

「好きと言えば好きですね。性格さがと言うべきなのか、男性女性問わず上手く着飾ることが出来ると嬉しいですが」

 元々服飾は妹(前世)の服を縫っていたら友人に勧められたからだ。あれはあれで服飾デザイナーを目指していた奴だから都合の良い方向に導いただけかもしれないが。
 それでも辛くも楽しい世界であったし、作った服を綺麗に着て貰える喜びはやはり醍醐味というものだろう。
 けれど、クリームヒルトさんの言う所の好き、は少し違う気がするが……

「何故そのように思ったのでしょうか」
「ほら、昨日もお風呂上がりのヴァイオレットちゃんに対して見惚れていたし、普段と違う格好をする瞬間に興奮するのかなーって」

 バレていたのか……!
 っていうか興奮はしていないと思う。……いや、していたのだろうか。見惚れていたのは確かだし……

「それにシアンちゃんのさっきの格好もクロさんがアドバイスした結果かなーって。あれがクロさん好きなのかな、って。ヴァイオレットちゃんがなにかの理由で着たのを見た事をふと思い出して“良かったなぁ……”みたいに興奮して呟いたのをシアンちゃんが実行したとかかと思ったよ」

 間違ってはいないけれど! むしろドンピシャで怖いけれども! 
 けれど興奮まではいっていないと……思う。

「というより、興奮と言うのはやめてください。見惚れたり好きという事を改めて感じただけです」
「え、でもヴァイオレットちゃんがシアンちゃんと同じ格好をしたり、アプリコットちゃんみたいな魔女さん服だったり着たりする姿は見たくない?」

 ………………見たい。

「他にも女性騎士服とか、給仕メイド服とか、あと白いワンピース。光加減で微妙に体のラインが分かるやつ」

 くっ、何故クリームヒルトさんはピンポイントに俺の好みを言い当てるのだ。そんなに俺は分かりやすいのか? いや、適当に男性が好みそうな服を言っているだけなんだそうなんだ。ヴァイオレットさんに着てもらえれば間違いなく喜ぶだろう事は間違いない。それに――

「興奮する?」
「します」

 うん、興奮するわ。
 普段であれば間違いなく着ないだろう服を着るヴァイオレットさん……うん、奇跡的親和マリアージュ! 恥ずかしがった表情だろうが、凛々しく着こなしていよう素晴らしい事この上ない。ヴァイオレットさんは間違いなくなにを着ても似合う。

「間違いなく良いよなぁ、普段は見慣れてなんとも思わないシスター服や魔女服も、ヴァイオレットさんが着れば間違いなく素晴らしい……けどヴァイオレットさんは絶対に着ないだろうな……でも、着ているのは見てみたい」
「つまりは普段は着ないけれど、もしも自分クロさんが喜んで貰えるように、っていう思いで着てもらえたらなおさら嬉しいって事だね。こう、“喜ぶと思って……”みたいに赤面しながら着ていたり」
「さっきからピンポイントで怖いですね」
「違うの?」
「間違いなはずないじゃないですか当たり前です」
「恥じらいはやっぱり最高のアクセントだよね……」
「ええ、分かります……って、すいません。女の子の前で変な事を言って」
「あはは、私が回答を促したものだし、別に気にしないよ。それに男性ってそういうのが好きって聞くからね。ええと……確かメアリーちゃん曰く、女性騎士に対しては“クッコロ!”と言わせたいんだよね?」
「違います。それは一種のギャグだと思うんです」

 ていうかメアリーさんはなにを言っているんだ。あまりこの世界の方々に言っても伝わらないと思うのだが。
 ……いや、メアリーさんだと本気で言わせたいと思っている可能性もあるな。どこかズレた感覚だし。

「ちなみにクリームヒルトさんはどういった服がお好きで?」
「私は執事服とか神父様が来ているような修道服が好き。白い手袋は欠かせない」

 黒系統の露出が少ない服が好きな感じか。白い手袋はなんとなく分かってしまう。なんというか仕事が出来るような格好良い感じがする。メイド服に白い手袋着用しているのも俺は好きだし、そんな感じか。
 ……? 執事に白い手袋……あれ、そういえば――

「だけど、こういうのって好きな相手が着るから良い感じがするよね」

 と、今なにか思い出せそうな事があった気がしたが、クリームヒルトさんの言葉に思考が遮られた。まぁ大したことじゃないだろうし良いか。

「まぁそうですね。シアンやアプリコットが着ても似合うとは思いますが、やっぱり……」
「ヴァイオレットちゃんが着るから興奮するんだね!」
「……そうですね!」

 うん、そうだ。
 シアンはシスター服。アプリコットは魔女服。アイツらはどちらも普段から似合っているとは思うが、着る服も着る対象が変われば印象も変わる。
 そうしても外見故に似合う似合わない服はあるだろうが、ヴァイオレットさんが着れば素晴らしいことは確かで――

「…………ええと」

 楽しく会話していると、ふとクリームヒルトさんの背後、つまり俺の視線の先に誰かが居るのに気付いた。
 菫色の綺麗な長い髪に、透き通った綺麗な蒼い目を持つ、普段見ている時よりも顔が赤い表所をしてどうするべきかと悩んでいるような女性。

「…………ヴァイオレット、さん」

 視線の先には、ヴァイオレットさんがいた。
 あれ、なんだろう。ついこの間もこんな事があった気がする。具体的にはゲン兄達が問い詰めて来た時に。
 落ち着こう。そこまで変な事は言っていないはずだ。
 ただ色んな服を着て欲しいと言って、着てもらったら興奮すると言っていただけだ。それもヴァイオレットさんの一番の友達であろうクリームヒルトさん相手に。

――うん、駄目だ!

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