追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
要観察対象への調査報告書の後の調査(:?)
View.?
「そういえば、推薦の件はどうなったかな。グレイ・ハートフィールド君には渡して貰えただろうか」
一通りの報告書を読みながら、視線をあげることなく彼は彼女に尋ねる。
まるでついでかの様に報告を待っているように見えるが、彼はどことなく聞いた内容が気がかりのようであった。
「はい。その件に関しては推薦を受けるかどうかは保留となっております。彼自身は迷っているようです」
「そうか。彼の保護者を考えると、良い返事は難しいかもしれないね」
彼は望み通りにならないと言うような残念な表情になると同時に、状況を考えれば仕方ない事だと小さく溜息を吐く。
「もしも説得するならば、保護者もですが彼の師匠を説得した方が効果的かと」
「師匠? ……ああ、確か闘技場にも参加したあの子か。アッシュ君が推薦していたのであったかな」
「はい。グレイ君は保護者であるハートフィールド夫妻と同等程度には彼女の事を慕っているようですから」
「そうなのか。……ならば説得も良いかもしれないね」
「…………」
彼の様子を見て、彼女は私と同じ目的を確認するかのように間を置いて、バレない程度の視線を彼へと向ける。
もしも彼女が情報を引き出してくれたのならば重畳だ。悪いが見させて頂こう。
「学園長、失礼ですがグレイ君……彼に何故推薦状を送ったのでしょうか。確かに貴方は観察能力に優れ、彼も優秀かとは思われますが飛び級をせずとも正式な年齢まで待てばよいのではないでしょうか」
「うん? そうだね……まぁヴェール君には直接お願いしたからね。少しくらい話しても良いか」
彼は報告書から視線を逸らさず、片手間で彼女の質問に答える。
……しかし報告書を読んでいるという事は、肉体の素晴らしさ報告を隅々まで見ているのだろうか。律儀なんだろうか。
「今の生徒会は私が見て来た中でも優秀な子達だ。そこにグレイ君というアクセントが欲しくてね」
「アクセント、ですか。第三王子、第三王子の近侍、フォーサイス伯爵家令息、呪われたというセイフライド家の子孫、我が息子、他にも優秀な子達は居ますが、来年の主要生徒会メンバーは彼らでしたね。そこにグレイ君も入れたいと?」
「そうだね。クリームヒルト君やメアリー君も誘っては居るのだが、あまり良い返事はもらえていない。メアリー君は手伝いは進んでしてくれるけどね」
……アクセント、か。
私の依頼によれば彼は幼い少年を性的な目で見ている可能性が有る……との事だが、今言ったメンバーだと幼い印象は見受けられない。美形揃いではあるが……やはり優秀な子達を集めているのだろうか。
そういった理由ならば妙な視線というのも勘違いという可能性が高い。
「だが、ヴェール君がそのような事を聞くとは珍しいね。何故かな?」
彼から尤もな質問が返される。質問をしたからには理由があるはずであり、彼が答えたからには彼女の立場上黙り通すという訳にもいかない。
さて、彼女はここでどのような回答をするのか。私の時は追及は出来なかったが、大魔導士の彼女はどのような話術を――
「はい。実は学園長が肉体を愛する同志では無いかと思いまして」
「君はなにを言っているんだ」
彼女はなにを言っているんだ。
「私は肉体、特に男性の肉体が好きです」
「ああ、うん知っているよ。ヴェール君が学園生時代からそうだったからね。今は落ち着いているみたいだけど」
落ち着いている……?
「私もグレイ君の身体には目を付けました。筋肉量は少ないですが余分の無いしなやかな肉体です。もしや学園長は私とは違う方向性の肉体を愛しているのではないかと」
「うん、濡れ衣だ」
「そして生徒会メンバーは優秀な生徒しか入れず、選考基準は学園長の推薦などが主なメンバー入りの条件です。その条件とは……学園長の肉体審美眼によるものかと」
「あれ、まだ続くのかい」
「私も目を付けたグレイ君であったので、もしや学園長も……と思ったのですが、違うようですね」
「うん、違うね。……もしかして、君が生徒会メンバーだった時も……」
「はい、良い身体に囲まれて幸福でしたよ」
「……あまり知りたくなかった教え子の心情だな……」
彼はいつの間にか報告書から目を離し、少し遠い目をしていた。
……彼女のこれは言い訳の為の誤魔化しなのか、本音なのかどちらなのだろうか。……彼女も私と同じ依頼を受けているから、前者なのだろうが……前者だと信じよう。
「学園長、肉体の話をしていたら愛しの夫に会いたくなってきました。元々我慢はしていたのですが」
「そうかい。……彼、相変わらず鼠径部と太腿が好きなのかい」
「はい、最初は必ずそこから始まります」
「利害が一致した夫婦関係でなによりだ」
「はい、幸福な生活ですよ。では、私はこれにて失礼します!」
「ああ、うん、いってらっしゃい。…………シャトルーズ君の弟か妹が出来そうだな、本当に」
……前者だと、信じたいな。
「……ふぅ」
彼は彼女が居なくなり、この部屋に誰も居なくなったのと周囲に魔力反応がない事を確認すると、
「しかし、急に聞いてくるとは……まさか計画がバレたのかと思ったよ。まったく、グレイ君が入学できる年齢になるまで待つなんてできる訳が無い。それでは遅すぎるんだ」
本音らしき言葉を、呟いた。
……もしや彼もなにか計画を立てているのだろうか。
計画とやらを言うとは思えないが、この部屋、学園長室にはもう誰も居ない。ならば本音の一つや二つ、参考になるような言葉を呟いてくれればいいなと淡い期待を抱いた所で。
「早く……私の美少年ハーレムを作らないと……あらゆるジャンルが揃っている今の生徒会がベストなんだ……!」
…………出来れば聞きたくない情報を、学園長は呟いた。
「ああ、しかしなんという事だろう。今の生徒会は高水準が過ぎる。まるで創造神がこの年代に狙って送り込んだかのようなメンバーだ。彼らが頑張る姿は実に――おっと、仕事をしないと。いけないねぇ、年を重ねると独り言が多くなっていかん。えっと、次は――」
一通り私の知りたかった所を答えた後、彼は仕事へと戻っていった。
……なんだろうか、この感覚は。あっさり嫌な方向に情報を得すぎて嘘なのではないかと疑いたくなる。出来れば嘘であって欲しい。
しかし情報は得たので一応はよしとしておこう。うん。それにこの子もいい加減疲れただろうしね。この子にとってはこの位が限界だろう。事実話を聞く限りではこの子もこのタイミングで戻ってきているようだし。
「……ネズミかな? 魔力は感じられなかったから偵察の心配はなさそうだが……一度害虫駆除業者に頼んだ方が良いかもしれないな」
そして私は彼ら以外には誰も居ないそれらの会話を、私の頼みを答えてくれた我が子(ネズミ)から聞いたのであった。
――ふふ、魔力で操らずとも、我が子達は優秀なのですよ
クロ君も私のこの魔力痕跡が出ない我が子達と心を通わせる事が出来るお陰で、私を殺害未遂犯として捕まえることが出来なかった訳だからね。……ま、クロ君はならばと抜け目なく弟とかを人質に取った訳だけど。
ともかく、我が子達から聞いた情報は思ったよりも情報を仕入れることが出来た。彼女の調査報告書も盗み聞くことは出来たしね。さて、この情報を元に色々と捌いていこうでは無いか。
けれど……
――クロ君達が要観察対象、か
私にとって、その事だけが妙に心の中に引っ掛かっていた。
◆
「学園長も年かな、私の秘匿魔法に気付かないとは。……まぁクリームヒルト君の手伝いもあったからだけどね。……しかし、出来れば聞きたくはなかったかな……でもこれでクロ君の身体を……と、その前に最高な夫と愛し合わなくては!」
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
1
-
-
20
-
-
140
-
-
63
-
-
2813
-
-
35
-
-
3
-
-
17
-
-
2
コメント