追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

男湯の場合_1


「ふぅー……寒い時に温泉は良いなー……」
「そうですね、クロ様……温まります……」

 シルバがロボを見て倒れた後。思いの外早く復活し、皆で夕食を食べた後に皆で温泉に来ていた。
 少し歩いた所にいつの間にか出来ていて、道の整備のお陰でようやくシキの住民が気軽に来れるようになった場所だ。今ではキチンとお風呂として入れるように整備し、モンスター除けも施してある。
 前までは脱衣所も壁もなく、混浴のザ・天然自然温泉、みたいな感じであったが、最近簡易的ではあるが脱衣所も設置し男女の敷居が完成した。
 何故今日の夜に来たかと言うと、クリームヒルトさんが夕食後の会話で以前調査で来た時の温泉の事を思い出し、それを聞いたメアリーさんが、

『温泉!? 行きたいです!』

 というメアリーさんが目を輝かせて行きたがっていたので、皆で来る事になった。
 温泉なんて滅多に入れるものではないと初めは乗り気であったシルバは、クリームヒルトさんの話では天然温泉で混浴という話を聞くと、顔を真っ赤にして「女性陣だけで行ってくれば良いよ!」と慌てて恥ずかしがった。
 俺は最近混浴では無くなった事を言おうとしたのだが、その前にクリームヒルトさん達が言葉を続けた。

『そうですね、年頃の男女が一緒に入るというのも……ですが、折角ですから思い出も共有したいですし……』
『別にタオルを巻いて入れば良いんじゃない? マナー違反かもしれないけど、私も折角なら思い出を共有したいし!』
『そうですね。ですから別々が良いなんて寂しいことを言わないで下さい、シルバ君』
『うんうん、冒険者とかなら水浴びだって外で普通にするし、混浴は自然温泉の摂理だよ! あと、東の国では混浴とかあったらしいし、大丈夫大丈夫!』
『あ、私が昔読んだ本でも混浴は有りましたよ! 仲を深める機会として入っていましたし、良いんじゃないでしょうか! 皆さんで入りましょうよ!』
『メアリーさん達、抵抗ないの!?』

 クリームヒルトさんやメアリーさんは混浴でもそれが自然温泉のルールと言って構わなかったらしいが……彼女ら、抵抗はないんだろうか。あれではセクハラと言われてもおかしくないレベルである。

「ねぇ、クロさん。僕って男として見られていないのかな」

 そしてそんな混浴を勧められたシルバは、一緒に入っている男湯にて三角座りで落ち込んだ様子で俺に聞いて来た。
 ちなみにシルバは、事故の影響で俺に対して敬語を使っていたが、俺に対しては別に敬語も気も使わなくて良いと言ってあるのでクリームヒルトさんに対して話すような感じで話すようになっている。さん付けは一応貴族の年上という事で付けているようではあるが。

「何故そう思ったんだ?」
「だって、一緒に温泉に入っても良いって言ったり、成長しましたね、とか温かい目で言われたり僕を見る目が……」
「? どうされました、シルバ様?」
「……グレイを見るみたいに、弟として見られて、男として、異性として見られていない気がして……ヴァーミリオンとかと比べると一番小柄だし、やっぱり子供っぽいのかな……うぅ」

 身長も少しはあるかもしれないが、その喋り方や性格が弟として見られるような一因ではあると思うのだが。
 ……でも確かにグレイのような扱い、と言っているようにシルバの言葉は間違っていないと思う。あの乙女ゲームカサスだとシルバはルートにでも入らない限り、弟のような扱いな部分が多かったのをなんとなく覚えている。
 いわゆるルートに入る“男として意識される”事があまり無いのだ。とは言えプレイヤーにとってはそこが人気であったらしいが。
 今を見る限りでもメアリーさんは今どう見ているのかは複雑で分からない部分があるが、クリームヒルトさんは間違いなく異性としてはあまり意識していないように見える。……まぁ元々あの乙女ゲームカサスでも主人公ヒロインは割と恥じらうとかそういう部分は少なかったんだけどな。
 それに一番の理由は、弟として見られているというよりはシルバの反応に問題があるのだと思う。

「まぁ、クリームヒルトさん達もノリで言っている所があるだろう。実際に一緒に入る段階になれば照れもしただろうし、内心では“うわー、どうしてこうなっちゃったの!?”みたいな感じに焦るだろうよ」

 というか実際にそうなったとは思う。今のメアリーさんだと確実になると思う。

「そうかな……?」
「むしろシルバが顔を赤くするから、揶揄われやすい気もするぞ」
「そうなの?」

 シルバは性的な事に関して触れると、顔を真っ赤にしてすぐに照れる。シアンのスリットから覗く太腿を見ては赤くし目を逸らし、メアリーさんの胸を触るかと問われては赤くする。
 そんな反応が面白くて揶揄い甲斐があるので、つい言ってしまう所があるのだろう。

「あ、知っております。確かシアン様がクロ様達を揶揄うと面白い、と仰っているのと同じという事ですね」
「ああ、成程……僕もそう思われているんだ……」
「納得すんなよ」

 いや、まぁ確かにヴァイオレットさん類だと俺も直ぐ顔を赤くしてしまうけれど。それでシルバに納得されると複雑である。……多分あのゲン兄達への宣言が原因だろうな。

「となると、本気で混浴したいとは思ってはいないという事なのかな」
「そうそう、いくらクリームヒルトさんだって、本当に混浴しようとは思って――」

 いない、と。言おうとした所で。俺はあの乙女ゲームカサスにおけるとある事を思い出した。
 それはシャトルーズルートにおける実地研修(この世界だとクリームヒルトさん達がアッシュ達とシキに来た調査の事)のイベントで、主人公ヒロインは温泉宿がある場所に調査に行く。そこで出て来るこの三つの選択肢。

・ここは襲うべきだ
・ここは夜這いをするべきだ
・行こう男湯ヴァルハラ

 ……どうしよう、嫌な選択肢を思い出してしまった。
 シナリオライターがふざけて作ったとしか思えない、シャトルーズルートにおける選択肢。
 シャトルーズに対して風呂に入る前に迫るか。
 夜に泊まっている所に侵入しようと提案するか。
 お風呂に入っている所を行ってしまおうとするか。
 ……という前後の軽いテンションの会話から出て来るので、完全ギャグな選択肢――のように見える、割と重要な選択肢。
 選択肢によってこの後に会う時間帯が変わるため、会話の内容やシャトルーズの状況が変わるというものであるのだ。他の選択肢も含めて選択肢ミスが重なるとシャトルーズが大怪我を負ってしまうという選択肢フラグの一つ。ともかく、ゲーム的には重要な選択肢である。
 だが、ゲーム的には重要でも、あの乙女ゲームカサス主人公ヒロインが肉食系的な思考を持って行動しようとしたのは事実なのだ。
 あの主人公ヒロインとクリームヒルトさんが違うのは分かる。環境もルートも違うのだから、言わないかもしれない。だが……

「どうしたの、クロさん。急に黙って」
「シルバ、一応覗かれ対策にタオルだけいつでも持てるように準備しておけ。乱入も場合によってはあるかもしれない」
「え、僕達が覗かれるか乱入される立場なの!? 誰が得するのそれ!?」
「ああ。クリームヒルトさんとか“やっぱり思い出作りには一緒に入らないとね!”とか言いだしそうだし、シアンはそれを煽りそうだし、アプリコットとか普通にグレイやブラウンとも温泉に一緒に入っているから抵抗ないだろうし」
「……なんだろう、アプリコットとシスターは分からないけど、クリームヒルトの件に関しては否定できない気がする」

 咄嗟で突拍子もないことを言っているのだが、それでも納得される当たりクリームヒルトさんはどう思われているのだろう。言ったの俺だけど。





備考:攻略対象のおおよその身長(一月現在)
ヴァーミリオン 180前半
アッシュ     180後半
シャトルーズ  170後半
エクル      180前半
シルバ      160程度

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