追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
のろけ_2
性関連に興味があるかどうかと問われれば当然あるのだが、表立って性的表現を使うほどには好きではない。
とは言え、同級生であったバフやタンとは偶に話してはいたし、女好きのカーキーとだってそういう場になれば話す程度には好きではあるけれど。よく好みのタイプとか好きな体形については話していた。俺が話すと「なんかクロの好みは男というより別の視点で違う気がする」とはよく言われていたけれど。
ようは平均程度ではあると思うし、ヴァイオレットさんに女性としての魅力を感じない訳では無い。むしろ魅力的には大好きである。似合う服とかどんどん作りたい。
「キスをこの間したという事は……本当なのか? グレイ君に内緒にしているとかじゃなく」
「……うん。そうだよ。ようやく出来たんだよ」
「……もしかして、最初の頃はやっぱり噂通りの性格で、避けられていた……とか?」
「いや、初めの頃は確かに色々あったけれど、向こうから歩み寄ろうとしてくれたのは確かだよ」
「そう、なの……」
だけど、なんだ。なんなのだこの空気は。
すごく気まずい。
確かに貴族社会というか社会において一家の跡取りは重要である事は理解している。そういった行為も別に憚られる事ではない。……実際にヴァイオレットさんと出会った初日にそういう事はしそうにはなっていたし。ようは名ばかり貴族とは言え、貴族として跡取りを作るそういった行為は普通するものである。
「つまりクロ。お前は……」
それにゲン兄達はそれ以外に夫婦として仲が良いというのもあるので、俺が異様に見えているだろう。
「やっぱり領主会議の時の様子は間違いでは無かったんだな! 変態的行為で縛られているのか!」
「なによ、ナニをされているのよ! やっぱり腕を抑えて“変態め……!”って言ったのはナニかされているという事よね!」
『そして女性恐怖症に拍車が……!?』
「待てや」
なんか違う方面に勘違いされていた。
そういえばヴァイオレットさんの事を説明しようとして、シュバルツさんやヴェールさんを思い浮かべたせいで色々勘違いされたのであった。
もしかしたら先程話していた時もヴァイオレットさんをそういう目で見ていたのかもしれない。多分お預けされているとか、腕を縛られているとかそういう方面に勘違いされている。というか女性恐怖症ってなんだ。同性愛者から色々と混ざっているぞ。
「いや、そういう事じゃないんだよ。ヴァイオレットさんは魅力的だ。だけど領主の仕事は忙しいし、日常を過ごす楽しさがあってそれで充分満たされていたというか……」
「だが、跡取りは大切だろう。それに妻が魅力的に思えるのなら、やはり男としてはだな――」
「生物的には男も女も求めるのだから。私だって夫の事を――」
なんか求めているとか作りたくなるとか、あまり血の繋がった家族の口からは聞きたくない単語を出し始めた。
途中というか大半は惚気話で自慢をしたいだけなんじゃないかと疑いたくなったが、ともかくこっちが口を挟めない程に色々と先達としてアドバイスをしてくる。
「お前だって偶には欲望に忠実にだな」
「いや、無計画な子供計画は駄目だ。性的欲求に流されて後先考えないのは後の子供も不幸にするんだ。それだけはあってはならない」
「あ、うん、そうだな」
「……クロってそういう所はキチンとしているわよね」
前世はそういう母親の元で育ったからな。あの母は金目的もあっただろうけれど。
欲望に忠実も大切だけど、それ以上に大切にしたい事だってあるんだ。
「旦那様。他の家族には他の家族なりの進め方があるのです。あまり押し付けるのは良くありません」
「そうですよ、奥様。一般的な常識を当てはめる事で不仲になってしまうことがあるのです。クロ様にはクロ様たちなりの世界があるのですから」
よかった、ジョンブリアンさんとコルクさんがフォローに入ってくれた。大分遅い気がするけど。
彼らはマトモそうだし、宥めてくれるだろう。
「世の中には待てをされる事でより興奮する性癖もあるのです。そういうプレイなんですよ。私も好きです」
「乙女性を崇めている類なのです。眺める事で興奮する質なのですよ。私もそうです」
「待てやコラ」
くそ、彼らも普通じゃなかった。
どうしてここに居る連中は俺達を変態的なモノにさせたいのだろうか。変態変質者の噂を信じているとかじゃないよな。
「じゃあ、ヴァイオレット嬢の外見が好みとは外れている……とか?」
「そういえば胸の大きい子の反応が悪かったような気がするわね」
「だがカナリアの時は……もしや性格?」
「受け身体質の子が良いとか……?」
「いや、あの……違うんだよ」
「求める事も大切だ。そうでなければいつまでも近くに居ると勘違いして、気付いたら離れていた、なんて事もあり得るぞ」
「そうよ、なにもしないで居ると、相手だって不安にもなるんだから」
しかしそんな俺をよそに、ゲン兄達はあれやこれやとなにが問題かと話し合っていく。
兄姉達の言い分も分かるには分かるし、俺達を心配してくれているという事も理解できる。
だけど……うん、もう我慢はしないでおこう。
「……うるさい」
『え?』
俺には俺の言い分だってあるんだ。
「ヴァイオレットさんは、凛々しくて俺には無い貴族らしい風格があって。世間知らずな所もあったけれど、俺の為に必死に頑張って理解しようとしたり、料理を作って俺達の好みの味に近付けようとしたり、クリームヒルトさんの真似をして手を振って俺が振り返すと顔を赤くしたりと、一々やる事為す事の行動が可愛くて仕方ないんだよ! 抱きしめたくて仕方ないんだよ! 愛おしくて触れ合って、グレイとも一緒に過ごして会話して笑い合うだけでも充分に幸せなんだよ! キスだって俺達にとっては重要で、その段階に居る事も俺にとっては大切なんだよ! 俺は全てを含めてヴァイオレットさんが大好きなんだよ文句あるか!」
もう秘めているのが恥ずかしいとか言っている場合じゃない。
俺の好きという感情が否定されるほうがもっと嫌である。原因は俺のせいとかも色々あるが、俺だってゲン兄達が伴侶に抱いている感情に負けないくらいの愛情をヴァイオレットさんに向けているつもりである。ともかく今の幸福が否定されるのが嫌であった。
そして大きな声で叫んだせいか、ぜーぜーと息切れを起こす。少し冷静になってきて、言ってしまった感が込み上げてくる。だが後悔はしていない。
後悔はしていないが、ゲン兄達の反応を見るのが少し気恥しく、視線をゲン兄達から逸らした所で――
「えっと……その……ありがとう、クロ殿。私も大……好き、だぞ」
部屋の扉が開いていて、そこにはヴァイオレットさんが居て、目が合った。
ついでにアプリコットやメアリーさん、シルバ、ヴェールさんもいる。
ヴェールさんは不敵に笑ってはいるが、他全員が顔が赤いのは気のせいではあるまい。
そしてとりわけヴァイオレットさんの顔が一番赤い気がする。
……ふむ。
「ちょっとランニングして頭を冷やしてくる。数日は戻らないかもしれないが気にしないでくれ」
俺が窓から出ようとすると、ゲン兄達に止められた。
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