追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
クリームヒルトという女の子_3(:菫)
View.ヴァイオレット
「やぁ、ヴァイオレット君、クロ君代わりの調査かな」
「はい。ヴェールさんも……調査か?」
「そうだね」
クリームヒルトをベッドに運んだ後、現場の場所はクロ殿に教えて貰い、私は問題の現場へと足を運んでいた。
着くとヴェールさんがなにやら現場検証らしき事をしていたのでなにをしているのかと問うと、調査でシキに来ているので、調査の一環として調べているとの事だ。そういえばなにか報告がある、と言っていたがその延長線という事だろうか。
「ほう、クリームヒルト君が彼らを運んだとは聞いていたが、そのような薬を使っていたとはね。相変わらず錬金魔法というモノは摩訶不思議だ。そしてクロ君を……羨ましい」
「ええ、本当に錬金魔法には驚かされて……羨ましい?」
「なんでもないよ」
被害者であるクロ殿達について聞かれ、クリームヒルトが運んだと言うと、運べた事に疑問を持たれたので説明すると、少し感心したように驚いていた。
爆弾から妙な薬まで、本当によく分からないものまで作れるものとは私も思う。
そして羨ましいとはなんなのだろう。……やはりヴェールさんには警戒をしないといけないのは気のせいか。こう、クロ殿の妻として守らないといけないような……
「彼女ならば違法な物は作らないだろうから安心はできるが、身体は大切にするようにと伝えて貰えるだろうか。さて、状況を確かめに来たのであったね」
ヴェールさんの言葉に頷くと、改めてヴェールさんは当時の状況を説明しだした。
簡単に聞くとクリームヒルトが言っていた通り、アプリコットとシルバの地面が妙な反応をして魔力が暴走したようだ。属性的には闇魔法の精神関与に属するものらしく、殺傷能力等の心配は無いらしい。ただ、怪我を負うような魔法ではないが、周囲に影響を及ぼす程度には魔力が広がって、偶々近くにあった肥料などが詰められた運搬用の魔道具の器が割れて周囲一帯が大惨事になったそうだ。
怪我をした者はおらず先程運ばれたクロ殿達を除けば、近くに居たシアンや黒魔術師、メアリーも影響は受けていないらしい。
「過去に封印されたモンスターの封印解除の予兆の可能性が有るからね。危険が無いかとこうして私が調査しているのさ」
「ありがたい。今の所その予兆はあるので?」
「いや、ないよ。混乱防止に内緒にしているとかでは無いから安心して良い」
ならば安心ではあるが、同時になぜ起きたのかと疑問を持たねばならない。
原因を突き止めねば領民達も安心は出来ないだろう。
「……確かシルバ・セイフライド君は妙な力があると噂があったね。その力の一種――」
「いえ、シルバ君の地面が妙な反応をしただけですよ」
ヴェールさんが一つの過程を立てようとして、現れたメアリーがすぐに否定をした。
「ああ、不快な思いをさせてしまったようならばすまないねメアリー君。調査するものとして考えられるモノは考えないといけなくてね」
「いえ、私も急に否定して申し訳ありません。今では落ち着きましたが、シルバ君はそういった噂は敏感なモノでして」
ヴェールさんは謝罪をし、メアリーは学園に居た頃見たような笑顔と申し訳なさそうに見える表情でシルバを庇っていた。
……学園祭の後や女子会などではあまり見えなかったが、学園祭で再開した頃とこの表情は変わらないように見える。私自身がメアリーを色眼鏡で見ているせいもある。それに言葉に表せと言われると、何故見えてしまうのかは分からないのだが。
「そうだね、後は地面に埋まった魔道具、アプリコット君達が無意識に使った魔法――とまぁ、色々と要因を考えて無くしていかないとね。そして残った可能性をさらに絞っていくんだ」
「全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に疑わしいことであっても、それが真実となる。というやつですね」
「ほう、誰かの言葉かな?」
「確か……小説家の言葉だったかと思います」
小説家の言葉、か。
ある程度学問には目を通した私ではあるが、メアリーは私の知らない偶に誰かの言葉か分からない言葉を言う事がある。そのような言葉を一度聞けば覚えるような含蓄のある言葉も直ぐに出て来る辺り、メアリーは何処で学習してきたのだろうか?
しかし不可能を消去となると、色々と考えなくてはならないな。例えば――
「野菜の気持ちになる様にと雪下に埋まっていたり、殺し愛夫妻の喧嘩の奇跡が地面に埋まっていたという可能性か……」
「はは、ヴァイオレット君。君も冗談を言うようになって――」
「そうですね、可能性としてはその方面で行った方が良いでしょう。爆発する毒草が融合して偶発的に生まれた可能性もあります」
「……え、メアリー君。冗談……だろう?」
「本気です」
「本気だ」
「えぇー……」
私達の言葉にヴェールさんは何故か引いていた。生憎と冗談ではないのである。
シルバの呪われた力などという真偽不明の力よりはそちらの方が可能性が高いのだ。
「確かにシキに変わっている者は多いとは聞いてはいたけれど、そこまで……?」
「でもここ数日調査に来ていたのでは?」
「私は森とかで調査していたからね。……というかシキの方々は良き者達なような気がしたが」
それは不運というべきか幸運というべきか。元から住んでいた善良な領民と接する機会が多かったのだろうな。……今更だが、領主の仕事をする者としてこの思考は良いのだろうか。
「ともかく、私はシルバ君の疑いを晴らすためならば協力致します。なにか手伝えることは有りませんか?」
「私も手伝おう。アプリコットなどの領民への疑いや危険を晴らすため、というのもあるが、セイフライドにも疑いがかかるようならば可能性は廃していきたい」
私はシキを治める者として、メアリーは同級生にかかる疑いを晴らす目的でヴェールさんの調査を手伝おうと申し出る。
メアリーは入学当初からシルバの呪われた力など有らぬ噂を流布されている事に対して、偏見を持たずに接してシルバの性格を明るくしていたからな。やはりシルバにかかる偏見が許せないのだろう。
「ありがたい申し出だ。しかし意外だね。気分を害してしまうようなら申し訳ないが、ヴァイオレット君はシルバ君が得意ではないように思えたのだが」
「セイフライドは私を嫌っていて、私も好きではない。ただそれと呪われた力に関しては別で、元同級生に嫌疑がかかるのはあまり好ましくない」
「……そうか。いや、これは失礼した」
学園に居た頃の私であれば、あとは任せて報告を待つだけだっただろうが。このような形でシルバがまた噂を流されるのも、私としては複雑である。
……それと女子会の深夜時にシルバの変わっていた魔力に関しても気になるからな。調べればなにか分かるかもしれない。
「だけど手伝えることと言うと――そうだ、ならば聞きたい事があるんだ。良いかな、メアリー・スー君?」
「はい、私ですか?」
ヴェールさんはなにか考える仕草を取った後、メアリーの方へと向く。
まるで今思いついたような仕草を取っているが、これは初めからこの質問をしたかったような……?
「――クリームヒルトという少女について、聞かせてもらえるかな」
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