追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
クリームヒルトという女の子_1(:菫)
View.ヴァイオレット
ゲン義兄様達は私を試す様な質問をした事を謝罪し、クロ殿が戻って来るまでの間簡単な雑談をしていた。
今の家族の事を聞くと、ゲン義兄様には三歳と一歳の娘がおり、スミ義姉様には二歳と一歳の息子が居るとの事。可愛くて仕方が無いのだと言っており、自分達のようにならないようにしっかり育てていくのだと意気込んでいた。
後ろに控えている執事達が「私共が注意しないとすぐに甘やかしすぎますから」と言っていた辺り、相当な親バカなのだろう。
私達の息子にはグレイも居るが、私達の間にもいずれ――と、いけない。想像しようとすると思考が訳分からなくなってしまう。クロ殿との子については後で想像するとして、今は会話に集中しよう。
思考を振り切るために別の話題を考えなくては。話題、話題……
「確かゲン義兄様は詩を嗜んでいるのでしたね。私も多少は覚えがあるのですが、素人に近いもので。今度機会があれば聞かせて頂くことは可能でしょうか」
「は、ははは。機会があればいずれ……」
む、何故ここでゲン義兄様は乾いた笑いをするのだろうか。
貴族の中で詩を嗜むのは珍しくも無いので、話す良い機会になると思ったのだが……
「スミ義姉様も小説を書くのでしたね。自身を題材にした恋愛小説でしたか。私も本を読むのは好きなのですが、いずれ読ませて頂いても?」
「は、ははは。昔趣味で書いていただけですから、読めるかどうかは……」
何故スミ義姉様も乾いた笑いをするのだろうか。何故両者共「アイツ、後で覚えておけよ……」みたいな表情をするのだろうか。
「そ、そういえば私達が来た時に居ましたあの子達! あの子達はヴァイオレットさんの御学友なので!?」
「え、ええ。そうなりますね」
話題を逸らしにいっているのは気のせいか。……クロ殿も出る前に脅し? をしていたので、あまりこの話題には触れない方が良いかもしれない。
ともかく、クリームヒルト達については学園の冬休みを利用してシキに訪れたのだと伝えた。昨日から女子会とやらを開き、屋敷に泊まったという事も伝えると、少し安堵した表情になる。
「シキに遊びに来るとは驚きです。余程仲が良かったようですね」
「私も驚いていますよ。私が学園に通っていた頃の良い噂は無かったでしょうから、ゲン義兄様達にとっては意外かもしれませんが」
「そのような事は……ああ、特にメアリーさんでしたか。あの子は綺麗ですね」
「旦那様、奥様に言いつけますよ」
「浮気じゃねぇ。コスモスの方が――失礼」
ゲン義兄様の執事は忠節はあるようだが気安いな。ゲン義兄様の性格が良いため言っているのだろうが。あと今の言い方はクロ殿に似ていたな。
「彼女はとても綺麗な子だ。貴女と彼女が学園に居た頃から交流があったとなると、並び立つ貴女達は華やかな絵になっていたでしょうね」
「ああ、いえ。彼女とは学園の頃には仲が良かった訳ではないのですよ」
「そうなのですか?」
「ええ、彼女は決闘の相手ですから」
「……決闘? 決闘言うと学園祭の……」
「いえ、ゲン義兄様もお聞きになられているかと思いますが、私がシキに来るきっかけとなりました、殿下達との決闘です」
ゲン義兄様とスミ義姉様、そして後ろで控えている執事達も困惑の表情をしているのが分かる。私も彼らの立場ならば同じ表情をしただろう。
「あ、ああ! もしかして彼女が決闘ではヴァーミリオン殿下達の味方をしていたけれど、今は貴女の味方をしているという――」
「いえ、殿下が彼女にご執心であったために私が嫉妬に狂ったのです。言い方は良くありませんが、決闘の原因です」
ゲン義兄様はまるで「なにが……起きている……?」という表情をした。気持ちはなんとなく分かる。私だってなにが起きているのか分からない時が多い。
「あ、で、でも男の子もいるじゃないですか! ほら、銀髪の可愛いあの子です!」
言葉が詰まるゲン義兄様の代わりに、スミ義姉様が話題を別の対象に変えた。
グレイがなんとなく「大丈夫かなぁ」みたいな雰囲気を出しているのは気のせいではあるまい。
「もしかしたら銀髪のあの子はヴァイオレットさんが好きだったかもしれないですね、ヴァイオレットさんに会いにシキに来ている訳ですから、思い慕っていた可能性も――」
「いえ、彼は殿下と共に私と明確に敵対していた同級生です。下手をすれば明確に一番嫌っていた相手かもしれません」
スミ義姉様が「なにが起こっているのよ……!」という表情になり、言葉が詰まった。
女子会という、よく分からないが一緒な屋敷に泊まった相手がそんな元同級生でであれば困惑もするだろう。
本来であればもっとお茶を濁した言葉を選んで流すべきだろうが、メアリーはともかくシルバのヤツは私を好いているという勘違いをされると本気で怒りそうだからな。
「……もしかして、あの背の小さな女の子も?」
「いえ、彼女は学園の頃から私の味方をしてくれた希少な友です」
『その子の話をしましょう!』
別に構わないが、私がクリームヒルトについて語る事となると……先程のように明るく接してくれているなどだろうか。錬金魔法の事など、クリームヒルトに関してならば色々話せる気がする。
「あれ、そういえば……」
私がクリームヒルトに関してなにから話そうかと悩んでいた所、グレイがなにかを思い出したかのような表情で言葉を呟く。
私がどうしたのかと問うと、グレイは「はい」と返事をして疑問を口にした。
「クロ様の帰りが遅いと思いまして。クリームヒルトちゃんの所に向かわれてから大分経つ気がするのですが」
「確かに、いい時間ではあるな」
クロ殿の昔話を聞いて、雑談もした。そろそろ帰って来ても良い気がするが、シルバが決闘をした(巻き込まれた)というのは、余程の事であったのだろうか。
問題が可能性もあるので、一度様子を見に行った方が良いかもしれないが、お客の前で席を外す訳にもいかないな。どうするべきか――と悩んでいると、丁度誰かが帰って来た様な音が聞こえてくる。
「噂をすれば、というやつですね」
「ええ、そのようです。これならば早く会いたいときは噂をするのも良いかもしれません」
「それはいいですね。私も旦那の帰りを待つ時は試してみたいと思います」
冗談を言い合い、小さく笑い合う。
そして近寄ってくる音が段々と大きくなってきて――だが、足音がクロ殿と違う事に気付く。迷いなくこっちに近付いてくる音ではあるが、やけに大きいような……
「ヴァイオレットちゃーん、入っても良いかなー?」
「クリームヒルト?」
何故か声をかけて来たのはクリームヒルトであった。クロ殿が鍵をかけずに出たのだろうか。
義兄様達が来ているのは知っているだろうから、わざわざ来るのならば余程急いでいるのだろうかと思い、義兄様達の方を一度見てから入って良いと伝える。
するとそこにはいつものクリームヒルトが――
「あ、ごめんね、ヴァイオレットちゃん。またお風呂を借りても良いかな、皆汚れちゃって」
「……なにがあった」
クリームヒルトが、ぐったりしているクロ殿を右脇に、シルバを左脇に、そしてアプリコットを背負った状態で入って来た。
……本当になにがあったのだろう。
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