追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

次兄次女の査定と過去話_7(:菫)


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 それは唐突な出来事であったという。
 不法に奴隷の売買を行っている集団が現れたと聞き、その連中はエルフを中心とした取引を行うとの事であった。
 グレイやカナリアの事も有り、気にはなったので情報を仕入れようとしたが、慣れない領主生活と、奴隷という事にまだ恐怖感があったグレイへの精神メンタル安定ケアなどで手が回りにくかったそうだ。
 だがなんとその奴隷を不法に売買する集団はシキの近くに居を構え、数名の奴隷を連れて売りにシキに来たというのだ。なんでも前領主、前々領主は不法と知りながら奴隷を買う輩であったので、今回の領主――クロ殿も問題を起こすような者ならば同じように買うかと思っていたそうだ。
 奴隷とはいえ中には許可を得て犯罪奴隷などを合法に仕入れている集団も居るので、基本は大本が売買している所を叩かねばしっぽ切りで終わるので、どうするべきかと悩んだ。
 しかし買う素振りを見せていると、売りに来た者は違法に奴隷を集めている話と、カナリアと同じ特徴を持つ者が居るという情報を話したという。
 クロ殿はその売買者を脅し、拠点へと当時仲があまり良くなかったシアンと協力して向かい、一騎当千の活躍を見せる。
 クロ殿は腕力で魔法を使わずに物理的に相手を宙に舞わせ。
 シアンの拳で護衛用オークは一撃で沈み。
 クロ殿の蹴りで奴隷収容用の鉄格子を壊し。
 シアンの握力(+解呪魔法)で奴隷の首輪などを壊し。
 全てが上手くいくと思った瞬間に現れた悪の親玉が巨大化して危機に陥るが、クロ殿とシアンの合体攻撃により力は倍増。見事相手を打ち払い違法奴隷売買集団(名称:ハッチャケパラダイス)は逮捕され、クロ殿とシアンの友情は深まった。
 奴隷達は奴隷紋を外され全員帰る所に帰り、そしてカナリアと感動の再会を果たしたそうだ。

「――以上、私めの大先輩であるカナリア様が現在のシキに来るまでのあらましです」
「グレイ君、俺は何処がおかしいと言えば良いんだ……?」
「? ゲン様、私めはなにか変な事を言ったでしょうか」
「ああ、うん。君は嘘付けるタイプじゃないもんな……」

 というのがグレイ談である。
 確かに当初はクロ殿とシアンは仲が悪かったと聞いていたが、同じ困難を乗り越えて友情が芽生えていたのか。感動モノである。
 しかしカナリアは黙って居なくなった事や自身の要領の悪さなどから初めはグレイの時のように心を閉ざしており、元のような関係・精神回復に時間がかかったとの事。それがゲン義兄様達に話す機会が無かったのでは無いかとグレイは言っていた。
 そして今のカナリアは、初めはグレイと共にこの屋敷で働いていた時期もあったそうなのだが、キノコが好きである事からキノコ栽培を始め、色々キノコあり屋敷を出て店を始めたそうだ。今では珍しいキノコの自主栽培をも可能とし、新進気鋭のキノコ栽培者(カナリア談)として生計を立てている。
 彼女のキノコに対する熱量は凄まじく、新しいキノコの開発に夢中になりすぎてクロ殿に怒られ。「ヒャッハー!」と叫んではなにかをキメているのではないかと心配され。よくカナリア自身の身体からキノコを生やしている。
 そして安全で美味しいキノコは率先して私達にお裾分けをしに来て途中でコケて半分以上が無くなる。
 偶にキノコを探しに旅に出ると意気込むのだが、大抵問題が起こり数日で帰って来る。カナリア曰く「森が故郷へ帰れと囁いているのです」だそうだ。多分幻聴である。

「――以上が、現在のカナリアです」
「ヴァイオレットさん、私は何処から事実として受け入れれば良いのでしょうか」
「スミ義姉様、全て事実です」

 なお、同じくキノコ栽培をする黒魔術師オーキッドとは友であり、ライバルとの事。
 毒キノコも許可を得て栽培しているので毒愛好家エメラルドとも仲は良いが、油断をすればエメラルドが毒キノコを「少しだけでも!」と言って食べようとするので大変だという。

「ですが、そうですか。クロはカナリアと会えていたんですね」
「この後会っていかれますか?」
「……そうですね。少し気は引けますが、会うのも良いかもしれません」

 気が引ける。というのは、やはりゲン義兄様達がクロ殿とカナリアの様子を報告していた結果解雇されたからだろうか。カナリアはあまり気にするタイプでも無いとは思うが、当事者の問題もある。今では仲良くしているゲン義兄様達にも思う所があるのだろう。

「話が逸れましたね。カナリアの事は良かったですが、クロの事件の事です」

 あ、すっかり忘れていた。その話題の最中であったな。
 カナリアの件については後に回すとしよう。ついでに後で彼女の好きな茶菓子でも持って幼少期のクロ殿をもっと聞くとしよう。

「ヴァイオレット嬢、クロは不安定な所が有ります」

 情緒と言う意味ならばクロ殿は毎日のように振り回されて不安定ではあるのだがな。

「重ね重ね失礼ですが、貴女は事件を起こしたクロを――どう思うのか、聞かせて頂けますか」

 この問いは先程までの観察の延長線上であり、ゲン義兄様達が聞きたかった事の最たるものであるのだろう。どのように思っているかではなく、どのように思ったのか。ヴァイオレットは事件をどう扱うのか。

「――私自身は過去に感情に任せた行動をした結果、勘当同然にシキに来て、クロ殿と成り行きで婚姻を結んだ」
「はい」

 私は敬語をやめて、いつも通りの口調で私の意見を言い始める。その事にゲン義兄様達は特に戸惑う事もなく、私の話を聞いていた。

「別に事件を否定するつもりはない。私は今のクロ殿が好きで、過去になにをしていようがこの気持ちは変わらない」

 これはお互いに過去が良くないものだから、傷の舐めあいで依存している訳では無い。

「だが、過去を無かった事にする訳でも無い。クロ殿は例え同情すべき理由や原因があっても、後先を考えず行動した、という事を無かった事にして受け入れて欲しい訳でも無いだろう」

 私が殿下達の決闘をした事に関して“馬鹿をやった”と言い、良い所だけを見て悪い事は無かった事にはしなかったように。

「もっと良い方法があったのかもしれない。だが正否を判断はしない。私は当事者ではないのだから。けれど」

 全てを否定するのではなく、昔の自分があったからこそ今があるのだと言って、今を好きだと言ってくれたように。今と未来これからを大切にしてくれた。

「もしその件でクロ殿が困ったのならば支えたい。――私が思うのは、そのくらいでしょうか」

 だから私がクロ殿が起こした事件を聞いて思うのは、かつての私がそうであったように、事件で困ったのならば支えたいという事だ。
 精神的に弱ったのなら優しくし、落ち込んだのならば気分転換に付き合い、間違っていると思ったら叱咤して正す。
 薬指にある金の指輪に誓ったように、家族として傍に居て支え合いたい。その気持ちは変わらずにいるのだから。

「……少し羨ましいです」

 私が言い終わると、黙って居たスミ義姉様が真剣な表情を崩し柔和な微笑みを作る。
 そしてゲン義兄様も同じように微笑む。並んで同じように微笑む姿を見ていると、どこかクロ殿と兄弟であるのだな、と感じさせるような表情である。

「血の繋がりは無くとも、貴女方はより強い信頼関係で結ばれているように思える。付き合いは私達より短くても、クロを大事になさっている事が分かります」

 ゲン義兄様とスミ義姉様は改めて私に向き直ると、

「私達が言える立場ではないとは思いますが、クロを……弟をよろしくお願いします」
「弟と幸せな家庭を築いてください。よろしくお願いします」

 私に向かって心からのお願いをした。





備考
カナリア・ハートフィールド (保護の観点からハートフィールドを名乗っているだけ)
金糸雀カナリア色髪金糸雀カナリア色目
元奴隷・元メイド・現シキの住民
キノコ栽培大好きな純エルフ。見た目は二十代。年齢は覚えていない。
キノコに対して他の変態ほどは興奮しないが、偶にヒャッハー状態になる。怪しいモノをキめている訳では無い。
毒キノコ栽培(許可を得ている)もしているため、エメラルドとは仲が良い。
オーキッドとはキノコ栽培友達。
クロに対してはお互いに親愛の感情で恋愛感情は無い。

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