追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

次兄次女の査定と過去話_4(:菫)


View.ヴァイオレット


「申し訳ありません、本来であれば兄弟水入らずで話をしたい所を、トラブルが起きてしまったようで」

 詳細は分からないが、シキでアプリコット達にトラブルがあったと言ってクロ殿が去り、直後にグレイが持って来た紅茶を互いに飲みながら私はまずは現状を謝った。
 クロ殿にとっては実の兄妹とは言え、お客様には変わりないので誰か別の者に対応させるべきかもしれないが、

「いいえ、シキでの領主の仕事は私の領地と違う種類の大変さがあると理解していますし、構いません。別に向かっても構わないですよ」

 というご厚意により、少し悩んだ後にクロ殿が私に「大丈夫ですか」と問うて、私が大丈夫だと答えると少しの間目を瞑り悩んだ後に少し出る事にしたようだ。こういう時にバーントやアンバーが居てくれれば助かるのだが……居ない存在を望んでも仕方ない。
 そしてクロ殿は去る際に、

『……事実はともかく、嘘でまかせを言っていたら本当にさっきの詩と小説をバラすからな』

 という脅し(?)の言葉を去り際に言って対応に向かっていった。建前無しにあのように話せるのが少し羨ましい。私と兄君達はあまり話さなかったからな……
 しかし義兄様達が詩と物書きを嗜んでいるとは。私はその方面には素人なので、機会があれば教えを乞うのも良いかもしれない。良い交流になるだろう。

「そうね、それに義妹と、もっとクロが居ない所でしか話せないような話もしたいしね」
「クロ殿が居ない所、ですか」
「ええ」

 スミ義姉様が紅茶を飲みながら私の問いに対して首肯と同時に微笑んでくる。
 ……詳細は分からないが、これは警戒されている表情だ。敵意や悪意などは僅かしかない、あくまでも観察を主とした警戒。バレないように一瞬ゲン義兄様の表情を見ると、先程までの狼狽えが薄れ、同じような警戒の表情をしていた。

――さて、久しぶりだな、この視線は。

 失礼無いように抑えている風は保っては居るが、バレないと思っている訳でも無い。
 恐らくあちらも隠し通せるとは思ってはおらず、気付かれたら気づかれたで私がどう行動するかを伺っている。
 別に観察されるのは問題無い。クロ殿という、心配でシキにわざわざ来る程には大切に想っている存在の伴侶となった者が居て、その相手が良くない噂が流れている女であったのだ。観察も警戒も妥当な判断と言えよう。
 こういった視線は慣れている。昔は散々こんな視線も空気も味わった。
 それに学園いぜんの頃のような侮蔑の視線ではないのだから、この程度ならば問題はない。シアンほどには機微には敏感ではないが、私とて多少の判断は出来るのだから。

「しかし、安心しましたよ。弟がこのような綺麗な女性と婚姻を結べるなんて。アイツも果報者ですね」
「ありがとうございます」
「クロのヤツ、あまり女性と浮いた話を聞かないヤツでしたから。不安だったのですよ」
「そうなのですか?」

 それは少し意外だ。
 クロ殿は種族関係無しに異性相手であれ、分け隔てなく接する事が出来る(でなければシキで交流を図るのは難しい)ので、学生時代などからあのような性格ならば多少の噂がある相手や浮いた話があってもおかしくはないとは思ったが。元々婚約者なども居なかったようであるし。 

「ええ、クロは昔から変わっていたというか、今とそう変わらないと言うべきか……」

 昔から今とそう変わらない……というのは、いつからの話をしているのだろう。
 言葉だけで判断するならばグレイの年頃には今のような性格であったとも取れるが……どうもゲン義兄様の“昔”というのは、幼少期、という年代を指している気がする。
 ……幼少期のクロ殿か。どのような感じだったかいずれ聞いてみたいな。

「ヴァイオレット嬢。無礼を承知で、率直にお聞きしたい」
「はい」

 ゲン義兄様はどこかここではない何処かむかしを見るような目をした後、私を改めて見据えて真剣な声で問い質してくる。

「貴女はクロをどう思っているのですか?」
「思い慕っている私の大切な夫です」

 どのような問いを聞いてくるのか。と身構えたが、想像と違った方面の問いに私は素直に答える。
 私の過去の決闘しっぱいに関しての悪評関連や、手紙が検閲破棄された事などによるバレンタイン家関連などを聞かれると思ったが。

「えっと……」
「……私からも良いですか。ヴァイオレットさん」
「はい、構いませんよスミ義姉様」

 ゲン義兄様が何故か言葉を詰まらせている間に、次はスミ義姉様が私を問うようだ。
 クロ殿そっくりな碧い瞳がこちらを見ていて、その瞳はやはり観察の色が見える。

「ヴァイオレットさん、貴女もクロと結婚したのならば知っているでしょう。クロの様々な悪評を」
「知っております。ですが悪評は意図的に流布されたモノとも聞きます」
「ええ。ですが流布される原因があるのも知っておられるでしょう。……クロが学園を去った事件の詳細について」

 クロ殿が学園を去った理由……確かヴァーミリオン殿下が「カーマイン兄さんを殺そうとした」と言っていたな。結果的にクロ殿とカーマイン殿下が嫌悪し合い、カーマイン殿下が悪評を立てている事だろう。
 ……だが、よく考えてみれば――

「いや、私はあまり知らないのですよ。クロ殿がカーマイン殿下に対してなにかをしたのは知っていますが、仔細までは知らないのです」
「え?」

 私はクロ殿がどのような事件を起こしたかまでは知らない。
 学園祭に関係があった事と、殺害未遂という大事件が公になっていない事から、闘技場の決闘トーナメント関連だとは思われるが……クロ殿から話は聞いてはいないし、グレイなど他の仔細を知っているシアンやアプリコットなどにも聞いていない。

「……興味は無いのですか?」
「気にはなりますが、クロ殿が語る時を待ちますよ。私自身が綺麗な過去は持っておりませんので、語りたくないような過去を無理に暴くなど恥知らずではありませんから」

 今ならば学園関連の事は聞かれれば答える程度には私も落ち着きはしたが、好き好んで語りたい訳でも無い。
 聞けばクロ殿の事をもっと知ることも出来るかもしれないが……確かに待つだけではなく、聞いてみるという選択肢もあるにはあるのか。私のこの態度が逆に苦しめている可能性も……
 でもいつかは昔の事も語れるようになりたいな。幸福も不幸もまとめて語れるような間柄になりたい。そのためには何年もシキで――

「ヴァイオレット様。ではクロ様の幼少期などにも興味は無いのでしょうか。ゲン様、スミ様に聞きたいとか」
「聞きたいに決まっているだろう。昔のクロ殿とか話だけでも聞いて――んんっ、なんでもありません。お気になさらず」

 しまった。グレイに問われてつい本音が出てしまった。
 だが聞いてみたいのは仕方ないだろう。幼少期の可愛らしいクロ殿とか聞かないでいられるだろうか。いや、出来ない。

「……興味が無いわけじゃないのね」
「……これは仮面関連は心配なさそうだな」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品