追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

二百話記念:あるいはこんな奴らのヘンテコ学園


※このお話は二百話を記念した本編とはあまり関係のないお話です。
 キャラ崩壊もあるのでご注意ください。
 読み飛ばしても問題ありません。





















「やぁ、私はクリームヒルト・ネフライト! 趣味は交友関係破壊で座右の銘は、形の無いモノは脆いからこそ壊したくなる。今日も今日とて貴族様を私と同じ平民の領域まで引きずり降ろして行こう! という訳で私と一緒に破壊しに行こう!」
「行きません」

 そんな事を言うクリームヒルトさんを見て、これが夢なのだと確信をした。
 いくらなんでも性格が酷すぎる。見た目が同じな分違和感がかなり凄い事になっている。
 というか朝目覚めたと思ったら、何故かアゼリア学園の学生寮で制服を着ていた時点でおかしかったんだ。
 色々整理して行くと、どうも俺はアゼリア学園生徒であり、殿下達と同じ学年になっているようだ。

「よし、折角だから制服姿のヴァイオレットさんを探しに行くか」

 今すぐ目を覚ますために頬を抓っても良いが、もしかしたら制服姿のヴァイオレットさんを見られるかもしれないと思い、折角なので探しに行くとした。
 もしも以前見たような縦ロールの悪役令嬢ムーブをしていた際には迷わず目を覚まそうと思う。

「クロ、クロじゃないか!」
「え、ヴァーミリオン殿下? なんの御用でしょうか」
「なんの御用とは余所余所しいぞ。俺とクロの中じゃないか! ふふふ、今日も可愛いねぇ――食べちゃおう」

 俺は壁ドン&股ドン&顎クイしてきた殿下にボディブローを喰らわせ逃げだした。
 この世界の殿下と俺はどういう関係だ! いや、そういえば以前見た夢だと性格とか性癖が逆に近い感じになっていたな。つまり殿下の場合は……元は女好きでよく誑かしていたという事だろうか。

「待って、待ってよ! 無能な僕がクロにまで見捨てられたら生きていけないじゃないか! クロが居ないと僕はなにも出来な――ぐふっ! く、またコケてしまった。うぅ、僕では洗えないし、またクリーニングに出さないと……でも道が分からない……」

 あ、違うわこれ。ただ孤高で才能アリの殿下が無能で依存体質になっているだけだ。これはこれで好きそうな乙女達には受けそうではあるが、元を知っていると複雑である。

「どしたの。いつもなら“抱いて欲しかったら……分かるね”って感じでお金を要求するのに」
「マジかよ俺最低じゃん。というか普通に関係持っているのかよ」

 そしてなんでクリームヒルトさんは普通に付いて来ているんだ。
 まぁすぐ夢から覚めるだろうから良いけど。

「権力、金、魔法暴力。これらは全てを解決する。全てを兼ね備えている私には、誰にもかなわないのですよ……!」
「そうか。ではアッシュ。俺になにをしようとしている」
「以前から言っているでしょう、クロ。――俺の鞘となれ。悪いようにはしない」

 権力などの乱用を表立って行使する事を嫌うアッシュは、全てを前面に押し出して男を含むハーレムを作ろうとしていた。鞘とか喧しいわ。というかなんで俺はこの世界ゆめで男性とばっかり関係を持っているんだ。
 ちなみにアッシュは口だけは達者ではあるが、権力の使い方を間違えて孤立しているらしい。今となっては“私のお父さん凄いんだぞ!”と子供じみた事しか言わないとクリームヒルトさんが説明していた。

「――疾っ! ――ふぅ、日課の素振りは疲れるな」
「あそこで刀を振っているのはシャトルーズか……見た限りでは普通だが……」
「よし、これで女性の服を肌を傷付けずに剥く剣聖への、道へと一歩近づいたぞ! 真摯に脱がせて目に焼き付ける!」

 シャトルーズのやつ、剣技の腕前を前世の少年漫画に出て来るサービスシーンみたいなことを全速力でやろうとしてやがる……!
 ……とりあえず被害が出る前に気絶させとくか。剣の腕前は確かなようだし

「あの変態貧弱男がどしたの。放っておいても良いでしょ」
「え?」
「よし、次は玩具の剣ではなく、本物を振れるようにならなくては。持つだけでも筋力が足りないからな……あ、勉強もしないとならない。前回オール落第点だったからな」

 あ、放っておいても大丈夫だこれ。

「呪われた力、僕はこれを昔操れず、迫害されてきました。ですが、物は使いようと気付いたのです」
「その心は」
「世界中の生き物が呪われれば、皆が普通になるのではないかと。だから皆を呪ってやるのです!」
「…………そうですか」
「あれ、なんかリアクションがいまいちですね」

 だってバッドエンドであるんだよ。シルバの今言ったルート。選択に失敗してシルバが闇落ちっぽい事になるんだ。
 それに本当にできそうなくらい呪の力に溢れていて怖いし。
 あれ、でも、世界中全員って事はヴァイオレットさんやグレイ達も……よし、潰そう。
 いや、落ち着こう。これは夢だし、出来る訳ないじゃないか。

「あ、じゃあ私が錬金魔法で作った、世界中の種族の共同無意識の夢に入れる道具貸そうか? その世界での影響はやがて現実世界に侵食する代物なんだけど」

 なんか凄いモノを開発しているよこっちのクリームヒルトさん。
 いくらなんでもそんなものは作れ……いや、作れそうだな。錬金魔法という言葉は便利だな、色々と。

「眼鏡!」
「……似合っていますよ、エクル先輩」
「私は鼻眼鏡が似合っていると思いますよ、先輩」
「考えておこう。眼鏡は正に知性の結晶なのだよ。けっして付属物や余計な物ではなく、外した時に素顔を魅力的にする、などと言う輩が居るが俺はこれを許せない。何故! 眼鏡をかけて! 一つの芸術が完成すると分からんのだ!」
「なんか恨み深そうですね」
「あと俺は先輩ではない。留年してクロ達と同じクラスじゃないか。あと眼鏡をかけなさい」
「知性何処行った。遠慮します」
「分かりました先輩。眼鏡かけますから、ちょっと男嫌いの学園長とキスしてきてくださいよ」
「おお、喜んでやろう!」
「やめい」

 現世でも眼鏡をかけているエクルはただの眼鏡フェチとなっていた。むしろ眼鏡しか愛さない存在になっていた。ちなみに眼鏡を要求しすぎて皆から避けられているらしい。
 というか五十個近く取り出したが、何処から出した。
 だが眼鏡か……ヴァイオレットさんが書けている姿は見たいな。よし、今度伊達眼鏡を買おう。

「なんなんですかクロ君! せっかく一日中気配遮断して風景と同化後間近でスケッチできるよう壁透過なども発動させているのに、何故碌に絡まずに断っていくんです!」
「あんたはその無駄な魔法技術をマシな方向に活かせやメアリー・スー」
「私は私であるために例え留年してでもこの素晴らしいなんかうすい本を作り続けると決めたのです。邪魔しないでください。あとお詫びに下着下さい」
「やらん」
「ていうかメアリーは普通に勉強しても留年しそうじゃん。そして私としては殿下×アッシュかなー」
「よっし戦争だ。表出ろクリームヒルト」
「やめなさい」

 メアリーさんは無駄な魔法技術を持ってオタクの変態になっていた。なんか別の意味で面倒なタイプになっている。
 こんな風に推しの登場キャラ達を外から眺めるタイプであったら、大分この世界も変わっていただろうに。良い方向かどうかは分からないけれど。

「しかし、なんと言うか……」

 一通りの性格が違う、俺の知っている学園関係者の攻略対象とか見て思った事がある。
 アイツら、嫌な所があったりしたけれど、無能だったりはしなかったんだな、と。
 ……早く目覚めよう。ヴァイオレットさんと会いたかったが、これ以上見ていると、今後彼らに会った時に真面に顔を見れそうにない。

「えっと、頬を抓れば良いんだろうか」
「■■■。どうしたの?」
「はい? あ、■■■■■■■■■。いや、夢から覚めようかと思って」
「……なに言ってるの? 寝ぼけているなら私が抓って――」







「――はっ!」

 目が覚めた。
 ……ええと、どんな夢を見ていたんだっけ。そして此処は何処――ああ、そうだ。領主会議の後に必死に説明をしようとしたけれど、お酒とか疲れでゲン兄とスミ姉が寝てしまって宿まで運んで、俺もそのまま寝たんだった。
 またシキに出るまで少し時間があるな。

「……ストレスでも溜まっているのかな、俺」

 あんな夢を見るなんてどうかしている。
 殿下達に対してそうなって欲しいという願望でもあるのだろうか。……忘れよう。明日はシキにケンタウロスに乗って帰らないといけないし、早めに休んでおこう。

「……眼鏡買うか」

 そう思いながら、二度寝することにした。

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