追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
女子会(男を含む)_4(:菫)
View.ヴァイオレット
とりあえずはメアリーの言うように、他愛もないことを話したり、互いの実家の事などを話したりとしていた。
私とシルバは聞く側が多く、クリームヒルトが主だって話を進めてくれている。相変わらず誰かと話すことが上手い。
「え、その寝間着クロさんが縫ったの!?」
「ああ。グレイの寝間着もそうだが、手袋や首巻などの防寒具も作っているよ」
「うわー、凄いね……それにクロさんていつ寝ているんだろう。領主の仕事も大変だろうにね」
「ヴァイオレット様が来られてから余裕が出来たと仰っていました。服作りはクロ様の趣味ですから、息抜きのようなものらしいですよ」
「そうなんだ……あ、グレイ君。別に今は公式の場じゃないんだから、様付けとかじゃなくて良いよ。もっと気楽に気楽に!」
「了解いたしました、クリームヒルトちゃん。気楽にハジケテフィーバした後に若い身空に身を書かせてシャンパンファイトをして後悔するのですね」
「うん、それは違うよ」
クロ殿は偶に縫い続けることがあるが、寝る時はキチンと寝ている。グレイが今言ったように、私が来てからは以前よりは余裕が出来たとも言っていた。
クロ殿だけで縫っているので多くは縫えないが、それでも十分早くて本職と遜色のない仕上がりに仕上げるから本当に尊敬する。
後、グレイの今の言葉は誰から習ったか後で問い詰めなければ。
「縫ったりするのを手伝わないのか?」
無駄に梳かれた髪のシルバが私達に尋ねてくる。
てっきり私には話さないと思っていたので少し意外である。……いや、今のはグレイに尋ねたのか。
「いえ、その……服になるとクロ様は厳しくなられるので……糸の二分の一のズレも許されないのです」
「二分の一?」
「糸の太さの二分の一です」
「……え、糸って、あの糸だよな。……その半分の太さのズレ?」
「はい」
グレイの答えにシルバは「そうなのか……」というような信じられないという表情になる。
確かにクロ殿は裁縫になると厳しくなるからな。
私も手伝いたいが、クロ殿の拘りがあるので手出しがし辛いというのもある。あと縫っている姿を見るのも好きであるので、それを見ていたいというのもあるが……邪魔しては悪いという気持ちもあるので複雑だ。クロ殿は気にしなくても良いとは言ってくれるが、
「錬金魔法を教えようとすると、途中から皆諦めちゃって――」
「料理をするのは誰かに食べて貰おうとするのが上達に一番――」
「魔法はやっぱり感覚で――」
「好きな場所は――」
「この間読んだ本が面白くて――」
その後も色々な話をした。
初めはぎこちなく何処かで意味があるのかと思っていた女子会だが、確かにこういった場所で話すのは普段話すのとは違う感覚がある。眠る姿で夜という、本来なら他者に見せないような姿で外が暗い中話すのは秘密を共有し合うようで子供じみた不思議な感覚だ。……こういった余裕が、昔の私には無かったのだろうな。
「……ところでさ、聞きたい事があるんだけど」
しばらく経つと、シルバが黙っていたのにメアリーが気付き、どうしたのかと尋ねると少し黙ってからそのように切り出した。
視線は一度私の方へと向き、すぐに逸らす。その挙動から私に関してかと思ったが、
「……このシキに関してなんだけど、変わった人が居るよね。あ、いや。悪く言う訳じゃないんだけど」
どうやら違ったようである。
私を見たのはこの地に住んでいるからだろうか。
……しかし、シルバもシキの領民を目の当たりにしたのか。年配の方や半数は普通の方も居るが、変わっている領民も多い。
変わった所を理解できずに、自分の見たモノが本物だったかどうかを知りたいのかもしれない。
「変わった人って?」
「えっと、その……」
クリームヒルトの問いに、シルバは口籠る。
どう表現して良いか分からないように――ではなく、口に出すのが恥ずかしいかというように顔を赤くしている。
何故そのような表情をしているのだろうか。言うのが恥ずかしいほどに変な領民など――居るには居るか。
「さっきさ、お風呂を教会で借りた時に見たんだけど……シアン、ってシスターの服が、その、足の露出が多くて……教会関係者は下着着用禁止って聞いていたからあんな格好が変わっているな、って。僕が見た中でも凄く変わった女性だな、って思って。シキって変わった住民が多いって聞いたけど、シスターさんが一番変わっているのかな?」
『…………』
その言葉に、皆が黙り、女三者が顔を見合わせる。
「あ、でも見ていないよ! 見ちゃ失礼だと思ったから、お礼を言う時以外は出来るだけ見ないようにしたから! 僕が変態とかじゃなくってね!」
その沈黙を軽蔑された物だと勘違いしたのか、シルバは慌てた表情で釈明をしだす。とてもではないが同じ年には見えない子供のような慌て方である。
そして慌てるシルバをよそに、私達は頷き合うとグレイ以外全員が近くへと寄った。
「な、なんだよ。皆して。メアリーさんやクリームヒルトはともかく、お前はあまり――」
「シルバ」
シルバはメアリーに対する照れと私に対する嫌悪感で複雑な表情をするが、なにかを告げる前に私が言葉を制す。
恐らくクリームヒルトにメアリーも同じ気持ちだろうが、私が触れる事をシルバは望まないだろうし異性に触れる事は憚られる。から、言葉だけでも伝えよう。
「彼女はな。シキの中では常識者の内に入る」
「は? それはどういう……あんな、その……が見えそうな格好をした女性が――」
「シルバ君。彼女はね、格好はえっちぃし、肉体言語の戦闘系シスターだけど、混乱を治める立場に居るんだ」
「クリームヒルト?」
「シアンさんは明るくて職務を全うする方なんですよ。言動も基本的には明るい素敵な女性です」
「メ、メアリーさんまで!?」
途中まで「なにを言っているんだ」みたいな表情であったが、私達が一様に慈愛の表情で見ると、シルバは困惑しだす。まるでアレが普通とはどういう事だとでも言いたげだ。
……そうだな。正直シアンさんの格好なら普通に慣れてしまったのだな、私は。よく考えれば下着なしスリット入り修道服とはおかしいものな。
「……お前がその純粋さを失わないように願っているよ」
「え、ちょっと待って、どういう意味なん――頭撫でないでメアリーさん! クリームヒルトは何処を触っている! 待って、どういう意味か説明して!」
シルバはしばらくクリームヒルトとメアリーに撫でられ続け、状況が理解できずに為されるがままであった。
「? シアン様の格好……不思議なのでしょうか。あの程度の露出は慌てるようなものなのでしょうか?」
「え、まさかグレイは僕より女慣れしているの……!?」
備考:※メアリーもこの数日でシキの住民と触れ合い色々と悟った模様。
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