追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

領主会議(飲み会)にて_3


「……報告・会議は以上とする。次に――」

 領主会議がある程度終わり、情報の共有などを終わらせた。とりわけ注意すべきことはモンスターの生息関連だけで、他は特産品の提携とか流通経路とかの連絡が重要だったくらいだろうか。シキではあまり関係ない事だが。
 ちなみに先にシキ関連の報告をしたら進行役の領主さんに「事前に上がっていた問題の六割が片付いた」と言われた。どんだけこの周辺の事を解決&問題勃発をさせているんだ、アイツら。
 真面目系の領主さんなどには頭を抱えられ、眉を顰められたが、

『報告は全て解決済みであり、我々が治める範囲の議題に上がる六割をシキに居る彼が解決したのだから、その努力を褒めた方が良いのではないでしょうか? ……私であれば解決する前に心が折れるでしょう。貴方方が解決出来るのならば、良いですが』

 というゲン兄のフォローのお陰で助かった。
 一応は納得してくれたし、助かったと言えるだろう。……まぁ貴方達なら治められるのか、という点が一番効いていた気もするが。

「それでは、王国の発展のため、我々も親睦を――」

 と、ある程度口上を述べた後、移動をして親睦を深めるという飲み会が始める。
 一応は親睦を深めるためであるし、参加しない領主も居る。貴族同士の話し合い的な場所ではあるし、前世のような飲んでは吐いての気楽なモノではない。だが、まぁ……こうやって飲み会するような余裕があるだけ良いのかもしれない。
 財政難の中貴族だけが贅を尽くしている、みたいな感じでも無いし。

「おう、久しいなクロ。元気なようでなによりだ」
「半年ぶりね、クロ。相変わらずシキで苦労しているようね」
「ああ、そっちも元気そうで良かったよ、ゲン兄、スミ姉」

 それに数少ないゲン兄とスミ姉と会える機会でもある。……スミ姉の方は何故旦那さんではなくスミ姉自身が領主代理として来ているのかは分からないけれど。

「旦那さんはどうしたんだよスミ姉。体調不良?」

 ライム・クローバー子爵には俺という弟が居るにも関わらず、渋らずにスミ姉と婚約を結んでくれたどころか親しく話してくれる良い方だから、もし体調不良なら見舞いの品かなにかを送らないと。
 するとスミ姉は「んー?」とワインを一気飲みしてから答えを返す。

「ほら、新年じゃない」
「ん、まぁそうだな?」
「めでたいし、それに寒い。そして三人目が欲しかったから十二時間くらい続けたら“もう……動けない……”って。で、動けないから私が代わりに」
「なにやってんだ馬鹿姉」
「なにやってんだ阿呆妹」

 ゲン兄も一緒になってスミ姉を諫めてくれた。
 一応は出る前に回復傾向であったそうだ。他者についてとやかく言えないが、兄弟で殺害犯とかでなくて良かった。

「馬鹿に阿呆とは失礼ね。忙しいのに私の為に時間を作ってくれたのよ? そんなの愛おしく感じちゃうじゃない」
「まぁ気持ちは分からんでもないが……流石に死ぬぞ……?」

 でもスミ姉の所は夫婦仲は良いし、ある意味愛の形……なのだろうか。
 でも実の姉のこういう話はあまり生々しくて聞きたくない。今世では一応幼少期から一緒に育った家族だし、想像しようとすると色々とキツくなる。

「そういうゲン兄様はどうなのよ? 家族は元気なの?」
「家族共に仲良く過ごしているよ。……子供って良いよな。言葉を覚えて“パパ”って言ってくれるのって本当に愛おしい」
「どうせ義姉様に子供にデレている所を可愛く嫉妬されて、構って欲しそうに見つめられるんでしょ」
「ああ、あの方はどうしたかと尋ねたら“なんでもないですよ、ゲン様の血をひいていますから当然可愛いのですから……”ってそっぽを向きそうだ」
「で、可愛さのあまりそのまま襲ったんじゃない?」
「あー、だろうな」
「な、何故分かる!」
『合ってるのかよ

 だってあの方文字通り箱入り娘でゲン兄の事大好きだし。ゲン兄も嫁のノロケを会うたびに言うのだから嫌でも行動が分かるよ。ぽわぽわ~とした天然系だし、娘も自ら大切に育てるような方だし。実際似たような光景を見せつけられた事もある。襲った所は見た事無いが。

「ま、子供が欲しいのは分かるがあまり無理はさせんな。スミだって未亡人にはならずに旦那と長生きしたいだろ」
「分かってるわよ……」

 ゲン兄は表情が赤いのを抑えて、スミ姉に照れ隠しも含めて注意をした。
 スミ姉もさすがに悪いと思っていたのか、ばつが悪そうに新しいワインをグラスに自ら入れて、また一気に飲んでいた。大丈夫だろうか、この姉。

「子供と言えばグレイ君はどうだ。相変わらず元気か?」
「シキで変な影響受けて無いでしょうね」
「最近は外部的美少年収集準備疑惑の六十代の毒牙にかかる疑いが出ていて気が気ではない」
「なんだその凶器準備集合罪みたいな疑惑は」
「なにがあったのよ」

 なにかが起こるかもしれないんだ。大切な息子が被害者となってしまうような、なにかが。
 疑惑を晴らすためにも調査依頼した誰かが解決してくれれば良いのだが……

「よく分からんが、元気なのは確かなのか?」
「この間風邪はひいたけど元気だよ」

 とりあえずはまだ学園に飛び級で入学するかもしれない、という事は伏せておこう。疑惑が確定してしまったら入学は辞退させなきゃならないし。
 そして万が一シキに来ようものなら全力でぶっ飛ばす。首筋が弱いとかいうどうでも良い弱点しか知らないが、魔法で対抗しようと守り切って見せる。

「しかし、お前の所のシキは相変わらずな領民が多いんだな。お陰で俺の所が凄く平和に想えるよ」
「ええ、私の所もね。とても大人しい領民性だと思うわね」

 そりゃ子供が生まれる度に領民がこぞって祝杯をあげて祝日にしようと祝ったり、犯罪件数が少ない地方トップ3に常に入っているような善良な場所だからな、この兄姉が治めている場所。そこと比べたら大抵は平和ではないだろう。
 ……シキと比べたら大抵は大人しくなるのも事実だけど。

「でもシキの領民は楽しそうだよな。なんというか、首都とかの自分を抑えて働いている相手に “俺は自分らしく生きて楽しいぞ!”とか元気に叫んでそうだ」
「ああー分かるわね。人族の七、八十歳まで生きても“俺は幸せだったぞ! そしてこれからもな!”とか言いそうよね」

 アイツらなら本当に言いかねないからやめてくれ。
 俺もその年になってまでそういう奴らの相手をしなくちゃいけなさそうで怖い。出来れば余生は孫とかの衣装を縫いながらヴァイオレットさんとのんびり過ごすとかにしたい。

「ま、俺の家族の幸せには負けるだろうがな!」
「そうね。私の家族の幸福には届かないでしょうがね」
「惚気てんじゃねぇ、馬鹿兄姉共」
『ふっ、悔しい?』
「その表情止めろ腹立つ」

 とはいえ、あんな事をした俺を心配してくれるのは確かだし、優しいのも確かである。
 それに記号的な婚姻を結ぶ貴族も居る中愛する相手と結ばれた兄と姉だ。やはり弟の俺にも夫婦末永く幸せになって欲しいのだろう。

「だけどお前だっていつまでもグレイ君とだけじゃ寂しいだろう? 過去の事を考えると難しいかもしれないが、早く良い嫁さん見つけろよ。お前ならいずれ見つかるさ。なんせ俺の弟だからな」
「そうね。アンタだったらシッコク兄様とかみたいにならないでしょうし、私達も味方するから、あの父様母様の圧力に負けないようにしなさいよね。なにせ私の弟なんだから」
「ん?」

 あれ、だけどなにかおかしいような……?
 手紙も出したから知らないはずは無いんだが、まるで俺が嫁を見つけていないかのような言い方である。

「ゲン兄、スミ姉。嫁さんを見つけるもなにも、俺もう結婚してるぞ?」
「は?」
「え?」

 俺の言葉に両者共々固まる。まるで青天の霹靂が起きて、なにかを理解しようと脳内で必死に足掻いている表情だ。
 そして空になっていたグラスに自らワインをお互いが淹れ、三口ゆっくりと飲む。すると、

『――女に興味が無い疑いがあったクロに嫁さんが!?』
「アンタら俺をなんだと思っていやがんだ!?」

 同時にかなり失礼な事を言われた。





備考
ゲン・ハートフィールド
くろ色髪碧目
ハートフィールド家次男。二十二歳。既婚。
クロが親しんでいる兄。
クロのやらかしに「ははっ、馬鹿だな!」と笑いながらも、行動を諫めている理解者。


スミ・クローバー
くろ色髪碧目
元ハートフィールド家次女。二十一歳。既婚。
クロのやらかしにただ攻め立てるだけの父と母と長兄と長姉をぶん殴った肉体派の姉。
クロと同時に勘当されかけたが、クローバー子爵家の旦那をゲットし無理矢理黙らせた剛の者。


ライム・クローバー
子爵家領主、スミの旦那。
十二回。

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