追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

領主会議(飲み会)にて_1


 俺は現状についてやきもきしながら、シキから隣町まで行く馬車に揺られていた。

「こんな時に領主会議とは……」

 そう、領主会議に出席するためである。
 領主会議とはいっても、権力や金を目当てとした疑心暗鬼の争い――などではなく、半年に一回くらいのペースで行われる状況報告会だ。一応問題点などを共有して解決策などを練りはするのだが、広い範囲の領主が大勢集まる訳では無い。

「そんなに嫌なのかい、会議とやらは」
「会議は会議でシキ関連の報告は気が滅入ることもあるんですが、終わった後に飲み会パーティーがありまして」
「ああ、成程。新年であるし、理由をつけて飲みたい訳か」
「そういう事です」

 会議中は真面目にやるのだが、終わると互いの地の生産品や他国などの名産品を食すのむ事で互いを知って研究しよう、という名目でいわゆる飲み会が始まる。
 領主としては若い俺はどうしても気を使う事が増えてしまうのである。
 しかしそれよりも問題は……

「グレイが学園長の毒牙にかかるかもしれないというのに……」
「……私が調査できる範囲で調査しておくよ。お金は前払いで半分貰ったし、仕事はきちんとこなすさ」
「お願いします、シュバルツさん」

 問題はグレイがノワール学園長に色々な意味でロックオンされた可能性が有るという事だ。首都に行くので一緒に馬車に揺られているシュバルツさんにも頼んだが、この可能性が潰えるまでは学園にグレイを送るなんて絶対に出来ない。

「とはいえ、あくまでもブライ……が向けていた視線と同じというだけなのだろう? そんなに心配かい?」
「仮に同じ趣味を持っていたとして、ブライさんの様にノータッチなら良いですがそうとは限りません。俺達は猛獣の檻に餌として息子を送りたくはありません」

 もしノワール学園長がイエスタッチであったのならばどうなるかが分からない。
 グレイだと「これが学園のルールなのだよ」と言われれば、素直に従って知らぬ内に毒牙にかかる可能性もある。……本当に有りそうだから怖いな。

「そうか、ブライは本当に同じ視線というだけで心配される程の少年好きなのだね……しかし我が国伝説の鍛冶師が少年好きだったとはね……私は語られる伝説と未だに流通する製品が素晴らしいというイメージしかなかったのだが」

 そういえばシュバルツさんとブライさんは同じ帝国出身か。
 実際にシキで会った事はあるようだけど、性癖については少年が絡まないと発揮しないからな、あの鍛冶師。商品が凄いのは確かであるし。
 あ、少年好きで思い出したが……

「そういえばシュバルツさん。出来ればヴァイオレットさんの前でハーレムだの好きだの言うのは控えて頂けると。俺にハーレムは有り得ませんし」

 ふとシュバルツさんがメアリーさんやヴェールさんが居た状況をハーレムと言っていたのを思い出した。
 一対一の状態でからかう分には良いのだが、出来ればヴァイオレットさんの居る前などではやめて欲しい。

「私は別に適当に言ったわけじゃないよ。ヴァイオレットくんは勿論だが、あのヴェールという女性も形は妙だが好きである事には変わりはないだろう?」
「まぁ、そうですが。……本当にシュバルツさんも好意を抱いているんですか?」

 その発言のせいでこの馬車に乗り込む際にヴァイオレットさんがシュバルツさんに詰め寄っていた。一緒に来そうな勢いではあったが、シキでの仕事もあるので泣く泣く諦めて貰ったが。

「性格面は嫌いじゃないよ。貴族に有りがちな美しくない性格でも無いし、余所では溢れたシキの住民を全否定せずに、認めた上で肯定否定し治めているんだ。そこは尊敬しているし好きだよ」

 ……面を向かって言われると恥ずかしいな。
 だけどこの場合の好きというのは異性としての好きではなく、

「とはいえ、伴侶としては別だがね。それに生憎と私は誰かと添い遂げるつもりが無いからね」

 やはり恋愛関係的な好きではないようだ。
 だが、誰とも添い遂げるつもりが無いとはどういう意味なのだろうか。……美しさを保つには孤高であるべき、とかじゃないだろうな。……言いそうだ。

「そうなんですか?」
「そうだ。私は誰かと結ばれるような女でも無いからね。だが、からかってすまないね。多くの女性に好かれているあの状況が楽しかったんだよ」
「別に構いませんが……」

 己の美しさに絶対的な自信を持っているシュバルツさんにしては珍しい言葉である。
 性格は確かに慣れるまで時間がかかるだろうが、外見的な美しさで言えば文字通りより取り見取りだろうに、まるで自身の価値が低いかのように言っている。

「それと、メアリーくんの事なのだが」

 しかし話題を別にしようとしている辺り、これ以上追及するべきではないと判断した。
 彼女も彼女なりの矜持や思いがあるのだろう。

「そういえばメアリーさんも俺に好意を抱いている的な発言をしていましたね。……出来れば止めて頂けるとありがたいです。メアリーさんは多分無自覚ですけれど、学園の誰かに好意を抱いているでしょうし」
「ふむ、そうなのか」

 実際にメアリーさんが特定の誰かに好意を抱いているかはハッキリしていないが、俺に向いているという事はないだろう。
 なんと言うか、メアリーさんは俺に向く感情が前世の知識共有仲間であって異性として見られていないと思う。話すのは良いけど、異性としては……みたいな感じだ。

「……まぁ、そうかもしれないが、少し気になる事があるのだよ」
「気になる事、ですか?」
「ああ、以前会った時のメアリーくんは何処か空虚を感じさせたのだが、今回会った時は違っていて驚いたよ。そしてもしかしたらクロくんの影響かもしれない、と思ってね」

 それは多分シュバルツさんと会った時も「キチンと背景を考えて話せば、分かり合える相手キャラ」みたいな感じに思っていたんだろうな。
 だけど俺の影響と思うとは、鋭いのだろうか適当に言っているだけなのだろうか。

「影響って、俺は少し会話した程度で影響なんてあまり無いですよ」

 事実は自意識過剰な部分もあるが、現実を現実と認識させるきっかけの会話をしたのだから大分影響していると思うけど。

「そうだとしても、彼女は前回と比べて美しくなっていた。理由は……」

 だけどシュバルツさんは前回と今回を比べて違いを考察するかのように顎に手を当てて考え、どう言語化すれば良いか悩んでいた。
 そして数秒の思考の後、シュバルツさんはある一つの結論を出した。

「彼女は恐らくだが――」

 その結論に俺はシュバルツさんが正気かと疑ってしまった。
 しかし、聞いて行く内に。……いや、でも……と、事実なのではないかと思い始めた。
 ……本当だったら、どうしよう。

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