追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

噂という名の情報_2


 シュバルツさんが告げた内容“グレイが飛び級でアゼリア学園に入学するかもしれない”というのは訳が分からなかった。
 来年……いや、もう今年か。シキで今年入学する可能性が有るとしたらアプリコット位だ。そのアプリコットも好敵手がいるとは言え「学園の雰囲気がヴァイオレットさんを馬鹿にしている感があって好かん」とか言って渋っている。さらには今あがった「グレイ弟子を置いていく訳にもな……」とも言っている。もしグレイも入学するのであればアプリコットも入学するのではないだろうか。その場合は俺もグレイとアプリコットの保護者として書類を作らないとな――ってそうじゃない。

「なにかの間違いでは? 少なくとも俺はそんなこと聞いてませんよ?」

 俺は真偽を問いただした。
 本来俺達家族の事なのだから俺達が知らない以上は有り得ない……のだが、気になる所はシュバルツさんがではなくと言った点だ。
 つまりなにか俺達の知らない根拠があってこの情報を伝えている訳ではあるが……

「やはりそうか……私もなにかの間違いかと思ったのだが、アゼリア学園長が推薦で飛び級をさせてでも欲しい子が居ると聞いたんだ。灰色の髪の、魔法に優れているだろう少年との事でね」
「ですが、それだけではグレイの事とは……」
「だが、その対象の少年がハートフィールド家に居る子との事なんだ。……キミのご兄妹、親戚に対象となる子は居るかな?」
「……思い浮かびませんね。兄、姉達の子で一番大きい子でも五歳のはずですし」

 灰色の髪で、魔法に優れたハートフィールド家の少年。
 特徴や情報だけで言えば間違いなくグレイだ。流石にシッコクにいの五歳の子を入学させようとはしないだろう。あの兄だと飛び級をさせる事で箔をつける可能性も否定できないが……流石にないか。

「それにキミ達は先日首都の学園祭に呼ばれたとの事じゃないか。あの学園長は魔法に関して優劣を見分ける能力に長けるとも聞く。もしかしたらグレイくんがその際に才能を見抜かれたのではないかと思ってね」

 あの無駄に若いノワール学園長か。
 確か“設定”だと目に力を意識して相手を見る事で相手の魔力量や属性が分かる、というような目を持っていたはずだ。その目で主人公ヒロイン攻略対象ヒーロー達を顧問でもある生徒会に誘う――というようなシーンがある。ルートによって入る入らないはあるけれど、大抵の攻略対象ヒーローは生徒会に入っている。
 ……そのせいと言うべきなのか分からないが、生徒会にはイケメンが多すぎて場合によっては主人公ヒロインは嫌がらせを受けたりするけれど。

「一応気をつけてはおきます。書類とか推薦の方が来たらグレイの意志を確認してどうするか決めます」
「そうだね。私もまた情報があったら仕入れておくよ。もしかしたらなにか裏であるかもしれないからね」
「お願いします」

 ともかく、あのノワール学園長がグレイをね……俺が生徒の頃はあまり関わりは無かったけれど、やはり俺には無いグレイの魔法才能を見抜いたのだろうか。だとしても会話が無かっただろうグレイを飛び級させる程なのだろうか。

「ま、心配と言えばキミとヴァイオレットくんだね。グレイくんに随分と親バカを発動させているし、子離れできないんじゃないかい?」
「それも心配ではありますが、グレイが首都に行ったらシキとは違う悪い影響を受けそうで……」
「……確かに、友の影響で夜遊びとか覚えたら染まりそうで怖いね」

 グレイをアゼリア学園に入学させるにあたって心配があるとしたら、首都での悪影響な部分を受けないかという点だ。シキも大概であるが、首都も良い影響だけという訳でも無い。
 仮にアプリコットに監視を任せても、男女の違いがある以上はどうしてもカバーできない所はあるだろう。

「ま、でも寂いし心配ではありますけれど、学園に入るのも良い経験にはなるかもしれませんね。とはいえ、飛び級推薦の話が本当ならば、ですが――」
「ふふふ、その通りなのだよクロ君!」
「ひっ!?」

 俺がシュバルツさんと話をしていると、アプリコットほど派手ではない魔女服を身に着けた変態が現れた。
 な、何故彼女がシキに居る! 腕を触られた時の記憶が、時を経つにつれて薄まる所かシアンへの懺悔内容として語る位には怖くなってきているのに、当事者が現れてはフラッシュバックがより鮮明になってしまう。
 やめてくれ。その「改めて見るとやはり服越しでも肉体が……!」みたいな視線を向けるのはやめてくれ!

「ひっ、とは失礼だね。仮にも身分が上の者に対してその態度はいけないよ」

 しまった、一応はヴェールさんも大魔導士アークウィザードで子爵家の方だ。立場的に先程の態度は失礼すぎる。
 だけど怖いものは怖いんです。

「……申し訳ありません、ヴェールさん」
「いや、お詫びならば脱いでくれれば良いが」
「明けましておめでとうございます。あまりよろしくしたくありませんが、よろしくお願いいたします」
「ああ、息子共々よろしく頼むよ」

 うん、この方には公共の場以外では雑に扱っても良い気がして来た。
 少しでも弱った所を見せると付け入れられる。

「ところで、なにがその通りなんですか?」
「ああ、そうだ。実は――むっ、キミは……」
「ん、私がなにかな、美しきお嬢さんフラウ

 ヴェールさんはなにか話題を切り出そうとする前に、シュバルツさんの存在をはっきりと認識し、その全体を失礼が無い程度にざっと見る。
 ……あれ、なんだろう。この感覚。これはいわゆる――

「なんという事だ……キミは素晴らしい存在だ!」
「ほう、突然どうしたのかな?」
「なんという美しさだ! 肉体には余分な部分は無く、まさに芸術と言って差しさわりの無いバランス!」
「ほほう! 私の美しさの中でも目立つ顔よりも肉体の美しさを容易く見破るとは! 中々見所のあるお嬢さんフラウだ!」
「服越しでも分かるぞ、キミは間違いなく私が今まで出会った女性の中で最も美しい肉体を持つ女性だ! なんという事だ、ここは天国か……!?」
「ふ、そこまで褒められては私も答えねばならない。――今すぐその美しさを披露しようじゃないか」
「なに、それはつまり――」
「ああ――脱ごう」
「なん……だと……!?」
「待てやこの変態共」

 出会ってはいけない奴らが、出会ってしまった気がする。

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