追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

年末の懺悔室にて_2(:紺)


View.シアン


「はいはい、それで、どんな内容の懺悔ですかー」
「なんか投げやりじゃないか」
「そう聞こえるのは貴方が罪を背負っているからでしょう」
「マジか」
「マジなのです」

 少し投げやりに、だが一応懺悔ならば聞く必要があるので私は丁寧口調で対応する。本気で悩んで来たのならば茶化すのも失礼ではあるけど、どうも先程のVさんと似た系統な気がするし。
 というかクロ――彼が懺悔室に来るなんて珍しい。

「ともかく聞いて頂けるか、シスター」
「はい、良いですよ」

 相談は何度かあり、神父様の時に懺悔を見た事はあるが、あまり懺悔とかするタイプでは……と、匿名だった。誰が来たとかは関係ないのであった。
 ともかく、Cさんの懺悔を聞き遂げなくては。

「俺には大切な妻が居る。俺には勿体無いくらいの素晴らしい女性だ」
「はい」
「俺はそんな妻が好きだ」

 知ってる。

「……これを前提に聞いて欲しいんだ」
「はい」

 まぁ多分Vさんと同じで照れたりして上手く接することが出来ないとか、空回りしてしまうとかそんな感じだろうけど。
 妙な所で気が合うし、Cさんも看病を妄想したら息子が風邪をひいて後ろめたくなった、とかそんな感じかもしれない。

「……妻と触れ合うと、別の女性を思い浮かべてしまうんだ」

 予想を超えたシリアスであった。

「別の女性と言うと、過去の好意を持った女性などでしょうか。昔の憧れと言った」
「いや、最近首都で会った今までえんゆかりも無かった年上女性だ」
「……その女性の事を、妻と触れ合うと思い出してしまう、と」
「そうなる」

 え、マジで?
 何故かはよく分からないけれど浮気とかそういうのは大嫌いなCさんが?
 Cさんも男だから気が多いとかそんな言葉で済まして良い問題ではない。
 私の知っているCさん……彼は、昔まだ仲が悪かった時期に、貴族に良いイメージを持っていなかった私が、結婚をせずにレイちゃんを息子として扱っているというのを良い子ぶっていると勘違いして『良いご身分の貴族なんだから、どうせ領民の人妻とかに手を出して女を侍らせるようになる』などと嫌味を言ったら、

『嫌いな女と同じになりたくない』

 と、彼は嘘偽りない言葉で返していた。
 それ以降もカー君などと女性の趣味について話す所は何度か見た事があるが、今の妻を迎えるまで、むしろシキの皆から相手を紹介されたりと心配される位は浮いた話を聞かなかった。精々ゲスの勘繰りレベルである。
 そして今も女性と話すことは多々あっても、妻との間柄が初々しすぎてもどかしい彼が、妻と触れ合うと別の女性を思い浮かべてしまうなんて、一体なにが原因だというのか。

「原因は分かるのですか」
「ああ、分かる」

 それは一体――

「……肉体好きの変態に、腕を触られたからだ」
「…………はい?」

 ん、どういう意味だろう。
 肉体好き? 変態?

「……経緯を聞いてもよろしいでしょうか」
「……ああ」

 Cさんは経緯を語りだす。
 闘技場で戦った時の戦闘を見て、引き締まった肉体に目をつけられた。そして会った時に追いかけられた。
 魔法の実力と身分があって、完全に逃げる事は難しかった。ので、譲歩して前腕だけを触らせてしまったとの事だ。そしてそれがトラウマになって、異性と腕が触れると思いだしてしまうらしい。妻との触れ合いの時も例外ではないそうだ。
 ……あ、もしかしてあの手紙にあったヴェール・Cっていう女性の事だろうか。好意があったのは確かだし。だとしても肉体好き……?

「女性が触れようとすると、あの恍惚とした表情が! 一心不乱に触りながら息を荒げ、今にも舐めだしそうな口元が! どうしても思い出してしまって引けてしまうんだ!」
「お、おおう。そうなの……ですか」

 本当にCさんは彼女になにをされたのだろう。
 でも確かに彼の肉体は服の上から分からない程度には筋肉質で引き締まっている。見惚れる、という点に関しては分からなくもないけど……まぁ私だって神父様の身体に触ってみたいと思う事はあるし、それの延長線と考えれば……あまり納得したくないね。

「なので妻と触れ合うという大切な時に、別の女性を思い浮かべてしまう事をここに懺悔したい」
「はい、貴方の懺悔は主に届けられました。貴方の罪は許されるでしょう」

 いや、どちらかというと罪深き相手はヴェールっていう女性だと思うけどね。
 本当になにやらかしているんだろうか。

「時にシスター。俺はこの罪を消すためにもどうすれば良いと思う」
「そうですね……時間が経過するか、より強い良い記憶で上書きする、という所でしょうか」
「より強い記憶で上書き……例えば?」
「……妻に腕を舐められる、とか」
「解決しないな、それ」

 うん、実際に舐められたら別の意味で避けるだろうからね、貴方。
 だけどこれに関しては時間が解決することを祈るしかない。流石にイオちゃん……妻に教えるのは難しい。もし妻が避けられていると悩んでいたら、悩んでいる事をそれとなく伝えて触れ合うしかないからね。
 もしくは……

「ま、いざとなったら殴り合うのに協力するよ。不浄を拳闘で晴らすという意味で!」
「それシスターが殴り合って運動したいだけじゃないか」

 バレたか。







「懺悔室というのはここで良いだろうか」
「はい、神父は本日はおりませんので私が代わりですが」

 クロが去って少し経ち、懺悔室を出ようとするとまた懺悔室に誰かが入って来た。
 ……大盛況だね、今日。

「キミで構わないよ。むしろ同性で安心する」
「そうですか。……では、どうぞ」

 それにしても聞いたことない声だな、彼女。
 シキの女性では――と、いけない。匿名だから詮索は不要だ。
 とりあえず私は懺悔を聞かなくては。

「実は私は……」
「はい」
「素晴らしい肉体に出会って、我を忘れてしまったんだ。それを懺悔したい」
「……はい?」

 ん、もしかしなくてもこの女性……

「私は、このシキの領主の肉体に――惚れてしまったんだ」

 やっぱりこの女性ヴェール・Cさんじゃない!?

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