追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間的なモノ:アドバイスは出来る(:紺)


幕間的なモノ:アドバイスは出来る(:紺)

View.シアン


「やぁ、お帰り、シアン」

 数日ぶりのシキ。
 到着したのは深夜だったにも関わらず、スノーホワイト神父様は私の帰りを起きたままで待っていてくれていた。
 数日間このシキをクロの代わりに治めて大変であっただろうに、疲れを微塵も見せずに私を見るなり笑顔を作ってくれるその様は本当に愛おしい。抱きしめたい。
 だけどいきなり抱き着くなんてはしたない事だ。落ち着かなくては。……だけど今は首都という魔境の中の務めを完遂した後だ。つまりは今の私は精神が弱っていると判断されてもおかしくはない。つまり、行ける!

「只今戻りました、神父様。此度の務め、果たさせて頂きました。私の帰りを待たずとも、先にお休みになられても良かったのに」

 ……うん、行けない!
 行こうとは思ったのだけれども、いざ行こうとすると神父様の声が、表情えがおが、挙動が愛おしくて仕方なくて緊張してしまい行くことが出来ない。
 そもそも簡単にいけたらこの数年苦労はしていない。それに……

「いや、シアンの帰りがまだなのに休んでいられない。無事を確認してからじゃないと不安だから」
「相変わらず心配性ですね、神父様は」
「当たり前だろ、大切な家族なんだから」
「ふふ、ありがとうございます」

 気が付くとこの間柄を壊したくないという気持ちが出来ている。
 この場合の家族というのは、妹のような扱いだ。異性として見られてはいるが、恋愛対象としての異性としては見られていない。私としてはもっと進展したいのだが……一歩踏み出すと、この関係すらも失うと分かっているからこそ踏み出せない。
 多分神父様は今まで通り接してくれるだろうけど、私がそうはいかないのだから。
 ……本当に、クロ達の事馬鹿にできないな、私。あの吸血鬼の言った通りじゃないか。

「疲れているだろう? 湯浴みの準備をはしてあるから、ゆっくりと入ってくると良い。疲れているのなら明日に回してもう寝てしまっても良い。代わりに俺が入るし、明日も沸かすから」

 ああ、もう、気遣いもしてくれている。好き。
 関係性が壊れるのも怖いが、この好きという感情が風化してしまうのも怖い。やはりここは攻めの一手だろうか。
 ……そうだ! 神父様もお風呂に入っていないようだし、一緒に入ろうかと言おう!
 うん、それが良い。私は気付いた時には修道院暮らしで良く分からない所もあるが、家族で入るのおかしくないはず! 

「ご――」
「ご?」

 さぁ言え。言うんだ私。「ご一緒に入りませんか?」だ。
 聞き間違いされないようにハッキリ言うんだ、私!

「ご厚意に甘えて、入らせて頂きますね」

 このヘタレめ!

「うん、ゆっくり入っておいで。荷物は部屋に置いておくし、寝間着も置いておくからもうすぐに向かうと良いよ」

 笑顔で色々やってくれる神父様。本当に素晴らしい方である。好き。
 ……はぁ、大人しくお風呂に入ろう。首都に行って精神的にも肉体的にも疲れているのは確かだし、ゆっくり癒すとしよう。
 私は神父様の厚意に甘えて、浴室へと移動する。
 適当な場所で感謝の祈りをした後に修道服を脱ぎ、私と神父様しかいないにしては立派過ぎる浴室へと入っていく。

「あ、私好みの温度だ……」

 お湯に手を付けると、私好みの熱めの状態で沸かしてあった。恐らく温度調節の器具に神父様が魔力を注入して維持をしてくれていたのだろう。好き。

「はぁー……」

 私は湯を被った後に、湯船に浸かり大きく溜息を吐く。
 何故イオちゃんとかにはアドバイスできるのに、自身の立場になると上手くいかないのだろう。こんなんだと月日が長い分クロ達より私の方が遥かにヘタレだ。馬鹿にするどころか馬鹿にされる立場である。
 私も誰か参考にした方が良いのだろうか。そう、例えば――

「メアリーちゃんみたいに出来たらなー……」

 私が首都で会った、イオちゃんの因縁で会ったメアリーちゃん。
 初めに会った頃は何処か別次元を生きているような印象であった彼女。だけど別れる前には少しだけ憑き物が落ちたように見受けられた彼女。
 彼女の様に男性に対して上手くとりなせたらなーと思ってしまう。とはいえ彼女の様に複数の男性を虜にするのではなく、私の場合は神父様だけ虜にしたいのだけど。ともかくメアリーちゃんは男性の扱いが随分と上手い。まるでどうしたらいいかを最初から分かっているかのようである。
 イオちゃんとの関係性も少し落ち着いたように見えたし、今度会ったらアドバイス貰おうかな。

「……そういえば、リムちゃんの様子がおかしかったような」

 メアリーちゃんについて思い返していると、ふと、リムちゃんことクリームヒルトちゃんを思い出した。
 メアリーちゃんほどの違和感は感じられないが、なにか妙なズレを感じる女の子。あははと笑う笑顔は、笑顔なのだが笑顔ではないという妙な感覚を覚える子。まるでここではない居場所があって、そこから外れてしまったかのような印象がある子。
 ……とはいうけれども、具体的になにがおかしいかと問われればよく分からない。
 メアリーちゃんと同じで邪気の類は感じられないし、珍しく悪意をあまり持たない良い子だ。イオちゃんとも仲が良いし、私に対しても慕ってくれ、普段は明るくて優しい子だし私の考え過ぎだろう。

――首都でヤなヤツに会ってばかりだったから、敏感になっているのかもしれない。

 身を清めるために必要とか言って、浴室で女信者の服を脱がせて聖水(ただの水)をかける変態司教とか。
 少年の純粋な心を利用して少年の身体を洗って己が興奮を満たす変態修道女とか。
 そのくせ外面だけは良いから糾弾した側が貶められるという、やってられないヤツらと再び会ったので、妙に心が疑り深くなっているのかもしれない。
 落ち着け、私。水ではないけれど、お湯を被って精神を清めておこう。水だと風邪ひきそうだし。

「シアーン、湯加減はどうだー?」
「はい丁度良いですー。神父様も清めるために一緒に入りますかー?」
「はは、そういう事を言えるくらいは大丈夫なようだ。シアンは首都は合わないようだから心配だったけど」
「ふふ、首都で精神的にも疲れましたけど、まだ余裕がありますから心配はご無用ですよ。神父様の代行であったからと言って気になさらないでくださいね」
「見抜かれていたか……でも良かった、元気そうで。あ、着替え置いておくから」
「はい、ありがとうございま……す?」

 ……あれ? 私今脱衣室から話しかける神父様を普通に誘って、冗談だと思われて断られたような。……気のせいだよね?
 お風呂関連の首都での嫌なヤツらを思い出したから、つい言ってしまったとかないよね? ……ね?

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