追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

少年好きの知らぬ所での好機と危機(:灰)


View.グレイ


「クリームヒルトと飲む時はノンアルコールでなくてはな。いずれ一緒に飲んでみたいと思ってはいたのだが。このシャンパンに似た味はないだろうか」
「そうですね、このシャンパンの味は甘くて美味しいですから、一緒に飲むには――甘く、て……」
「……そういえば先程の味はこの……」
「ええ、そうです、ね……」
「そう、だな……」

 クロ様とヴァイオレット様の様子がおかしい気がする。
 クリームヒルトちゃんが酔われたため休憩できる場所に移動させ、何故か私とバーント様だけ会場に戻った。そして〆である学園長の言葉が始まるような時間になって戻って来たのだが……

「バーント様。私めの勘違いでなければ、戻って来られてから父上と母上が視線を合わせていない気がするのですが」
「気のせいではないと思われますね」

 どう表現するべきかは分からないが、両者がぎこちない気がする。
 気付かれないようにバーント様に耳打ちすると、いつもとは違う丁寧な口調でバーント様も同意をした。やはり違和感があるようだ。
 怒気や嫌悪は感じられないので喧嘩などではなさそうなのだが、どうしても違和感が残ってしまう。

「ご安心を。あらゆる音から判断するに親密になったかと思われます」
「音、ですか? ……私めは浅慮なため分かりかねますが、音で親密さが分かるのでしょうか」
「ええ、音にはあらゆる情報Tasteが宿っています。その者の感情Flavor秘め事Tongle過去Hue現在Color――音があれば、ある程度の情報を察することが出来ます」

 バーント様はなにを言っているのだろうか。
 よく分からない事は確かだが、尊敬できるバーント様が仰っているのだ。とにかく凄い事なのだろう。
 あと私が耳打ちをすると微妙に嬉しそうに、ブライ様のような表情を噛み殺しているのは気がするのは気のせいだろうか。

「グレイ様も音ではなく、なにかしらの方法でいずれは知ることが出来るようになりますよ」
「そういうものなのでしょうか」
「そういうものなのです」

 私もいずれ他者の感情に機微になれるのだろうか。
 そうすればクロ様やヴァイオレット様、そしてアプリコット様のお役に立てるだろう。もっと精進してバーント様の様に音で感情を知ることが出来るようになろう。そういえばアンバー様も香りで感情を把握していたような気がする。このご兄妹の様を精進していこうと思う。
 従ってはまずアプリコット様に協力を仰いでみよう。音や香りというと……抱き着いてみると良いだろうか。アプリコット様の香りを身近で感じることが出来、心音などの音も聞くことが出来る。まずは大きな音や香り経験を知る事からだ。その後は他に協力してくれそうな方々にも試し、多くの経験を積もう。シアン様やブライ様などが良いだろうか。

「――さて、諸君この学園祭も終わりが近付いてきている」

 私が思案をしていると、会場の少し高い所で見た事のない男性の声が聞こえて来た。
 その声に会場の全員が注目を向ける。

「実に素晴らしい学園祭であった。私も学園の長を務めるものとして誇らしく思う」

 成程、あれがアゼリア学園の学園長である、ノワール様か。
 確か三十年近く学園長を務めている高貴なる御方なのだとか。
 黒い髪に黒い瞳。不思議と惹き込まれるようなカリスマ性が有り、魅力的な雰囲気を感じる。女学生もノワール様の姿に惹かれているように思える。
 しかし、随分と若い外見だ。人族だとは思うが、年齢で言えば六十を超えていそうなものだが、二十代程度にしか見えない。あるいは森妖精族エルフの血が入っているのだろうか。バーント様やアンバー様も森妖精族エルフの血のお陰で人族の年齢よりも若く見られると聞く。学園長様もその類なのだろうか?

「――では、これでアゼリア学園の学園祭を終了とする。――愛する生徒達、そしてご来場の皆様方、これからも王国とアゼリア学園の繁栄を紡いでいこう! ――フフッ」
「……?」

 数分程度の〆の言葉が終わり、拍手が会場内に響き渡る。学園長様が礼をして何処かに去るまでその拍手は続いていた。
 ……何故か、最後の言葉の後は私の方を見ていた気がした。自意識過剰だろうか?
 いや、ともかくとして……学園祭が終わったのならばする事は一つだ。

「さ、さ、早くクロ様。今日はもう帰りましょう」

 そう、私達は早く帰ってクロ様……父の誕生日を祝わなくてはならない。
 今頃はアプリコット様とシアン様が準備をしているはずだ。まだ余裕はあるが、早くしないと日付を跨いでしまう。
 それにクロ様に気づかれないようにしなくては。サプライズで喜ぶ姿を早く見たい。

「ん? 何処か寄らなくて良いのか?」
「ええ、帰りましょう。夜ですから店もあまり開いていないでしょうし」
「そうか……学園祭の夜は首都も盛り上がっているから、イルミネーションとか綺麗なんだが」

 む、それは心惹かれる。
 確かに首都はシキと比べて夜も騒がしい。さらに盛り上がって綺麗となると、見てみたい気持ちもあるが……

「いえ、早く帰りましょう。夜歩きは良くないといつも仰っているじゃないですか」
「……ああ、そうだな。早く帰るか」
「はい、早く帰って祝いましょう」

 見てみたいが、今はクロ様の誕生日を祝う事が優先だ。
 ここはグッ、と我慢だ。それに見るのならばアプリコット様も一緒が良い。

「祝う?」
「……はい、無事とは言い難いこともありましたが、首都での用事が終わった事を皆で祝いましょう。打ち上げ、というヤツです」
「――ははっ、そうだな。最後は皆で祝うか」
「はい」

 ……危ない、危ない。誕生日企画がバレる所であった。間一髪セーフである。
 クロ様もヴァイオレット様も学園の居心地が良くないだろうから、早く皆様で祝って楽しみたい。ふ、今からワクワクしてくる。

「しかしグレイ、随分とご機嫌だな」

 確かに今の私は機嫌が良いと言えば良い。私自身も学園の居心地は微妙であった。それが解放されるのだ。機嫌が良くても良いだろう。
 確かこういう状態を――

「今の状態の私めは攻めと受けで言えば攻めをする気持ちで一杯なのです。受けのクロ様を攻めたいと思う、リバは許されない気持ちなのです。私めとバーント様でクロ様をサンドする勢いなのです」
「おいグレイその言葉誰に習った?」
「ブライ様と、以前学園生の研修の時にブライ様と仲良くされていた貴族の女の方です。確か相手をグイグイといきたい、という言葉なのですよね?」
「よし、帰ったら問い詰める」

 何故なのだろうか。
 私は変のことを言ったのだろうか?

「……? バーント、私には分からないのだが、変な言葉であったか? 確かに聞きなれなくはあるが」
「申し訳ありません、私もよくは分からないですね……」
「クロ殿、今の意味は――」
「さ、帰りましょうか。アンバーさんと合流して、大勢とは時間をズラして帰りましょう」
「む、そうだな?」


「どうした、メアリー?」
「……いえ、なんでもありません。なにか昔聞いたことがあるような単語が聞こえた気がするのですが、気のせいだったようです」
「そうか?」
「ええ、ですから行きましょうか、ネ――殿下」
「ネ……?」

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