追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
12_25
酔ったクリームヒルトさんにヴァイオレットさん達は付き添い、近くにある待機室のような部屋で休ませた。ドレスを緩ませたり、場合によっては異性にあまり見せられない惨状になるやもとして俺達男性陣は部屋の外で待機し、報告を待っていた。ちなみにヴェールさんとは会場で別れた。酔いを醒ます魔法とか使えそうだけど、今こうして待っている間になにされるか分からなかったし。
すると少し経ってからヴァイオレットさんが部屋の中から出て来た。
「クリームヒルトさんの様子はどうです?」
「今は少し落ち着いたよ。しばらくはアンバーに診て貰う。……しかし、アルコールに弱かったんだな」
「みたいですね」
その言葉に以前のようなおろろろろと吐き続けるという事にならずに済んだと安堵した。そして開いた部屋の中を少し見やると、ソファに寝っ転がった状態で羽織るモノをかけられ自身の腕を額に当てた状態のクリームヒルトさんが見えた。
……本当にアルコール類駄目なんだな。入っている、っていっても本当に少量らしいのに。
「これからどうしますか? 招待者としての義務は果たしましたし、戻ってもする事無いですし」
「確かにそうだな。戻っても白い目で見られるだけだろうから――」
学園祭総括パーティーは表彰などは終わり、今は勧誘やパートナー探しをしている時間である。後は最後の締めくくりに学園長の挨拶位だ。
ちなみに学園長は年齢不詳のアンタ幾つだよって感じの美青年(?)だ。設定が知っている通りなら国でも重要な役職に裏で関わっている。年齢考察だと六十は超えているらしい。
「――ああ、いや。バーント、悪いがグレイと共に先に戻っていてもらえるか? 私とクロ殿は後から行く」
「母上?」
戻るべきか悩んでいると、ヴァイオレットさんはなにかに気が付いたかのようにバーントさんにそう告げた。
急な言葉にグレイは不思議そうな表情をする。俺も疑問に思ったが……もしかしてグレイがまだ美味しそうに料理を食べていたから邪魔しては悪いと思ったのだろうか。
グレイは食べるのに俺達が居るせいか何処か遠慮している所もあったし、少しでも自由に食べさせたい……とかだろうか。
だけどバーントさんとしては複雑なお願いかもしれない。一時的とはいえ仕えている主の言ならば従わなければならないが、ここで離れれば俺とヴァイオレットさんだけになる。あまり主から離れるというのも……
「かしこまりました。――行きましょう、グレイ様」
「え、あ、はい。了解しました……?」
だけどバーントさんは疑問を持つことなく、グレイと共にパーティー会場に戻っていった。……変に思いすぎたかな。ヴァイオレットさんの命であるし、グレイに対しても今は主の子息として扱っているので疑問を挟む余地も無いのだろうか。
グレイとバーントさんが見えなくなり、ヴァイオレットさんはクリームヒルトさんがいる部屋の扉をそっと閉める。
「クロ殿、少し良いだろうか」
「はい、構いませんが?」
「そうか。…………」
するとこちらを向いて、俺にいつもより声色が強い感じで俺に尋ねてくる。
少し間を置き、今よりも人通りが少ない方を見やると、
「少し、夜風に当たらないか?」
そう、提案した。
◆
「外に出ると、流石に少し寒いですね」
「コートも無いからな」
外に出る事を提案されたとはいえ、一度建物から出た場合は再入場は基本不可の為、グレイ達を置いて帰る訳にもいかないのもあり、適当なベランダに出た。
眺めはそれなりで、侵入が用意そうだが、ここから侵入すれば魔法の障壁や警報が発動するような場所である。
そこでヴァイオレットさんの提案により夜風を浴びていた。
雪は降っていないとは言え、流石にコート無しでは寒い。すぐに風邪をひいてしまいそうなくらいである。
「クロ殿、少し話……を、したいのだが」
ヴァイオレットさんも冷えを感じたのか、俺の方へと向き何故急にこのような提案をしたのか切り出す。
いつもと様子が違うのは気のせいだろうか。何処か緊張したような、やってやろうという気概が見える。
「皆で祝おうという話だったのだがな。少しだけ、卑怯をさせて貰おうかと思ってな。……本当は、内緒にした方が良いと言われたんだが」
卑怯? 内緒?
どういう意味で言っているのだろう――と、思っていると、ヴァイオレットさんは俺に背を向けて、なにかを取り出したかのように見えた後、再びこちらを向く。
取り出した物は背中に回された手に持っているか、なにを持っているかは分からない。
「クロ殿」
「は、はい」
なにが起きている、と疑問に思う。
状況もそうだし、ヴァイオレットさんの様子がいつもと違うような気もする。やはりいつもより声が強く出されている気がするのだが。おかげでつい狼狽えてしまった声を出してしまうが。
そして意を決したかのような眼力で睨まれた後。
「誕生日、おめでとう」
祝いの言葉と共に、背中に隠していた物――なにかが入った、包装された四角の箱を差し出された。
急な言葉と行動に、俺は虚を突かれついポカンとしてしまう。
だけど今日が何日かという事と言葉を理解すると、
「ありがとうございます、ヴァイオレットさん」
俺は差し出されたプレゼントを受け取った。
そういえば今日が二十歳の誕生日であったか。色々とあって忘れてしまっていた。一応はインゴットさんと会った時に少しだけ思い出してはいたが。
……ああ、だからグレイが行く前にアプリコットにお願いしますと言っていたり、準備の時にバーントさんの様子に違和感があった訳か。こうなると先程の事ももしかしたらバーントさんはこの事を知っていたのだろうか。そして帰るとシアンとアプリコットがなにかサプライズを用意しているかもしれない。
「嬉しいものですね。こうやって祝ってもらえるのは」
「……良かった、喜んでくれて」
「ええ、なにしろ抜け駆けして俺に渡してくれる位ですからね。グレイやバーントさんまで何処かへやってまで」
「そ、それは……卑怯だとは分かっていても、祝いたかったというか。その、少しでも喜んでもらえたら嬉しかったというか……色々不安ではあったのだが……」
「ふふ、ありがとうございます」
ヴァイオレットさんは俺の言葉に頬を赤くして少しそっぽを向いていた。
自身がこのような事をするのは初めてなのかもしれない。不安もあっただろうが、それ以上に俺の為にこうしてプレゼントを用意してくれた事を想うと……
「やはり好きな相手にこうしてプレゼントを貰える、というのは嬉しいものです。それを俺の為にを想ってとなるとなおさらです。あ、そうだ。今ここで開けても良いですか?」
プレゼントを渡すだけではなく、ちょっとズルをして今こうしてプレゼントを渡してくれたのも、イタズラ心……というのだろうか。ともかくヴァイオレットさんが可愛らしく思えてくる。サプライズで俺に喜んで貰おうとしてくれたのは素直に嬉しい。今渡したのも、もしかしたら帰ると誕生日祝いをやるからその前に少しでも――という感じかもしれないし。
ともかく新しい一面も見れて、これだけでも誕生日プレゼントとしては多すぎる位だ。
そしてヴァイオレットさんが照れているのか頬を赤くしているのも――
「――――」
涙を流す姿も――
「――え?」
先程まで照れで赤かっただろう表情ではなく。
まるで信じられないことが起きたかのように、涙を手で拭う事無く。ヴァイオレットさんは何故か落涙していた。
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