追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
淫らと思われるくらいなら(:菫)
View.ヴァイオレット
学園祭の総括パーティーの会場にて。
クロ殿が所用にて一旦別れ、偶々出会ったシャトルーズの母親であるヴェールさんやクリームヒルトと話しをしていた。
周囲はメアリー・スーに愛を叫んでいる、いつの間にかおかしくなった殿下達の方へと注視しているため私が会場に入ってもあまり騒がれはしなかった。とはいえ、存在に気が付いた者達は学生、来賓貴族問わずあまり良い反応はされなかったが。
適当な目立たない所で、適当なシャンパンが入ったグラスを片手に話していると、ふと気になった事があったので聞いてみた。
「クリームヒルト、私達の服に違和感でもあるのか?」
「え、どうしたの?」
いつもと違って綺麗なドレスを着たクリームヒルトは、私の質問にキョトンとした表情になる。
とりわけ引っ掛かる程の事でもないが、先程私達がコートを脱ぎ私はドレスを、クロ殿達はパーティー用の服を見せたのだが、クリームヒルトがそれを見た瞬間一瞬だけだが目を見開いたような気がしたのだ。
すぐに元の笑顔になり褒めてはくれたのだが、その時の表情はどう褒めようかというような逡巡などではなく、別のなにかに驚愕しているような表情であった。
「んー別に違和感はないけど……あ、ドレス姿のヴァイオレットちゃんを見たのが初めてだったからかな。ちょっと驚いたから言葉が詰まったかもしれないね」
そういえば前回ドレスを着た時……私が殿下達に決闘を挑んだ学期末のパーティの時はクリームヒルトは所用で実家に帰って居なかったのだったな。クリームヒルトは地方出身と聞くし、あまり友などの身近な相手のドレス姿が見慣れなかったという事だろうか。
「でもヴァイオレットちゃんのドレス……というか、お偉い女性のドレスってもっと派手かと思ってたよ」
「派手と言うと?」
「こう、胸の上半分がドーン! と開いていたり、谷間が胸下まで露出してたり、足がシアンさん位露出していたり、なんていうか性をアピールした奴かな。後は貴女はなにから身を守っているの? っていう位急所に装飾品を付けていたり」
「……確かにそういうドレスもあるが」
そういったドレスもあるのは確かであるし、高位の女性ほど着る機会も多くある。
私自身も私の胸のサイズだとそちらの方が似合いやすいからと、似たようなドレスを着る事もままありはした。足の露出はシアンさんほどは……ないな。
「今回はクロ殿が目立つ事が目的ではないという事で、大人し目のデザインに作ってくれたんだ」
「……え、そのドレスってクロさんが裁縫したの?」
「ああ、そうだ。クロ殿達が今着ている服も、普段着ている服も基本クロ殿の手製だよ」
クリームヒルトは私の発言に驚きの表情を見せる。
バーントやアンバーのようにやはり驚くモノか。貴族が服の修繕や簡易の服を作る事は僅かであればあると聞くが、ドレスのような服を作るなど聞いた事無いからな。私だって初めて聞いた時は驚いた。
「……そう、なんだ」
「……?」
だが、クリームヒルトの表情は驚きではあるが、なにか違う感情が混じっているようであった。
これは先程の時と同じ……?
「あはは、そっか、夫婦だもんね。お互いの身体について詳しくてもおかしくないか」
私は持っているシャンパングラスを落としかけた。
「……すまない、クリームヒルト。あまりそういった方面の話はだな」
「あ、ごめんね。その黒いドレス特製っぽかったから。貴族の方々ってそういう服って専門の方に採寸してもらってピッタリに作ってもらうモノって思って」
「いや、その、だな……」
確かに服を作るのに微調整や測定はした。
だが、微調整は服を着た後での細かな調整で裸や下着姿を見られた訳でもなく、測定したのはシアンさんである。
今着ている下着もクロ殿のおすすめによるものだが、あくまでも「ラインが自然になりやすく、色彩が表のグラデーションに合うように……」などといった助言を元に着ている。ちなみにクロ殿は女性物下着も作れるらしい。今更だが何故出来るのだろうか。
おかげで特注や特製と言って貰えるほどになった。
……つまりはクリームヒルトの言う所の私の体形をクロ殿が知っているのは確かだろうが……なんと言うべきか服飾関連のクロ殿には真剣そのもので、クリームヒルトが今想像している方面には利用している訳では無い。……それに割と忙しかったからな、最近。
「そうだもんね、ヴァイオレットちゃん達は私より先にアダルティな世界に行っているもんね……クロさんならヴァイオレットちゃんの……と、ごめんね。もう言わないよ」
…………うむ、とりあえず。
「クリームヒルト。大事な話がある。他言無用で頼む。このままだと。私とお前の間の。関係が。崩れそうな気がする」
「お、おおうどうしたの。そんな言葉を区切って強調までして……」
「……恥を忍ぶのだが」
と、私が正直あまり言いたくない事実を言おうとグラスを置き、クリームヒルトの両肩を掴み説明しようとした所で、会場内が少々騒めいたのを感じた。
正直早くこの話はしてしまいたいのだが、少し間を置いて気持ちを落ち着かせるために騒ぎの方へと顔を向ける。
どうやら誰かに視線が集まっているようだ。まだ開始の挨拶までは時間があるので、誰か有名な来客が来たのだろうか。
可能性としてはあの無駄に外見が若いため女学生の間でも人気の学園長か、ヴァーミリオン殿下以外の殿下が来たなどだろうか。ヴァーミリオン殿下の弟君は来年入学する話であるから、彼が来たのかもしれ――
「こー……ほー……ふしゅー……」
……なんだろうか、アレは。
パーティ間の入口に居たのは、上半身がよく分からない白い布に。顔を仮面舞踏会で付けそうな派手な仮面で全体を覆い。髪はアプリコットやヴェールさんが被っているような魔女帽子に格納している誰か。
僅かに見える前髪などから金髪であるという事と、下がドレスなので女性だという事は辛うじて分かる。
……不審者か? だが入口で厳重に魔法チェックが入るし、入り口以外からの侵入も容易ではない。学園祭の出し物で着てそのまま来ていたり、なにかの催し物であるのならば変に連れ出せない。
それにあのような衣装を作るなど、一体誰が……
「あ、アレは私がシャキッ! って感じに錬金魔法で作ったお化けの失敗作であるランリョー・OマスクⅢ号機! 廃棄したはずなのに何故ここに!?」
「クリームヒルトの作品か!?」
まさかのクリームヒルトの制作物であった。確かにクリームヒルトならお化け屋敷の事もあるので作れそうだが……
しかしだとしたら誰がランリョ……アレを着ているのだろうか。
そしてなんの目的でアレを此処で着ているのだろうか。
まったく、派手な行事とは言えもう少し節度を持って行動を……
「こー……ほー……ヴァイオレット、話がある」
「……え、私?」
私を見つけた仮面女性は、一瞬で私の所までやって来て私に用事があると言ってきた。
……何故だ。
備考
※ヴェール達はグレイが必死(天然)で会話をしてヴァイオレットの近くで留めています。
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