追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

視線を感じてる


 メアリーさんと別れ、闘技場の選手出口に出ると少しボロボロな気がするアッシュとシャトルーズを含むヴァイオレットさん達が居た。どうもグリーネリー先生にあの場で騒いだ全員が取り押さえられ、強制的に待たされていたようだ。医務室に行きたがるヴァイオレットさんをシアンやバーントさん兄妹が必死に宥めていたとか。ちなみに殿下、エクル、シルバは試合があるため選手控室にいるらしい。

「クロ殿、体調は問題無いか? 先生の診断は確かだが、脳震盪は後で来る可能性もある。無理がないように気をつけて欲しい」

 一通りの心配をされ、俺が大丈夫だと分かるとホッと胸をなでおろし、安心した表情になる。……これだと、情報を聴くのに待たせてしまった事が申し訳なくなってしまう。

「メアリーとはなにもなかったのですか!?」
「彼女に手を出していないだろうな!」

 こいつらは喧しいので心配していようが申し訳なくは思わない。
 とりあえずヴァイオレットさんが居る前でこれ以上巫山戯た事言わないで欲しい。手を出す訳ないだろうが。
 適当に宥めた後、アプリコットの活躍をグレイが見たいという事でとりあえず立ち見でも観客席に戻ろうという話になった。
 俺の所に駆け付けるのに観客席の所に誰も残らずに来てしまったため、元の席は既に違う誰かが座ってしまったようだ。とりあえず良い所ではないが、俺達は出来るだけ目立たない場所で観客席に戻り、立ち見で見てるとアプリコットが出場者として現れた。

「お、おお……出たぞ! 唯一の学園生達よりも年下で勝ち残り、妙な言動は全てが呪文を織り交ぜる事による制約だという少女!」
「ああ、翠の地平一閃シャトルーズに勝ったのならば実力は本物だからな。変な事を言うのはこちらを油断させる策略だとか……」
「そりゃそうだろ、あの不思議な言動が演技でなければなんだというんだ!」
「いや、もしやあれは単に余裕の表れかもしれないぞ! なんでも龍殺しの異名を持つくらいだからな!」

 アプリコットのヤツ、妙な噂になっているな。あの言動は演技というより素に近いのだが。
 もしこのまま来年学園に入るとなったら注目を浴びそうだ。良い意味でも悪い意味でも。
 あとシャトルーズの名前がおかしかった気がするのは気のせいだろうか。

「ところで、対戦相手は誰なんです?」
「ああ、それなら――」

 アプリコットが出て来たことにより必死に声援を送るグレイを横目で見ながら、隣に立っているバーントさんに聞いてみると、答えるよりも早く対戦相手が出て来た。

「……メアリーさんですか」

 アプリコットの相手は金色の髪を靡かせながら颯爽と登場するメアリーさんであった。
 メアリーさんの登場に観客席はワッと沸き立ち、闘技場内をさらなる熱気が包む。というか……ああ、成程。

「メアリー……! ああ、メアリー! 先程の戦いでは見れなかった貴女の美しき姿を、是非……!」
「俺がレディ・アプリコットに勝てていれば彼女と再び相見えようというのに……! 何故、俺は負けてしまったんだ……!」
「喧しいなコイツら」
「クロ殿、気持ちは分かるが落ち着いてくれ」

 だからアッシュとシャトルーズも一緒にこっちに来てたのか。というか騒ぐのならもっと近くで見ればいいのに、なんでわざわざ俺達の近くに居るのだろうか。

「……さて、どちらが勝つかな」

 正直言うならば、アプリコットも魔法に関しては優秀であるが魔力量や身体能力などはメアリーさんに軍配が上がる。戦いの巧さは……五分五分といった所か。

「――の名の元に、この試合は――」

 なのだが……今の状態のメアリーさんが試合に勝てるのだろうか。
 この世界をゲームではないと認識したという事は、ゲーム感覚だった戦闘に恐怖を感じる可能性もある。
 自分が傷付くのもあるが、相手を傷付けてしまうという点だ。
 殴られるより殴る方がストレスが溜まる者は多いと聞くし、“相手”を認識した今、戦闘はメアリーさんとって最初の鬼門かもしれない。妙なトラウマを背負わなければ良いが……

「それでは、試合開始!」

「【強化ブースト】【第七神聖蒼バルムンク】!!」
「なっ……いきなり上位魔法ですか!? ――くっ!」
「ふはははは! 油断したな金色こんじき歌姫マーメイド! 我ならばこの程度詠唱無しで――」
「【炎風地混合上位魔法グラム】」
「――なにっ!? 我が魔法を受け止めた挙句、三種属性同時併用――っ!?」
「ふふ、素晴らしい魔法です――【地水Y・火風H・混合V・魔法H】」
「さらに連続同時併用――だと!? 我も見た事のないこの力――やはり只者ではない――!」
「アプリコット、貴女の魔法はこの程度ではないでしょう?」
「なに?」
「私は貴女と戦う時楽しみにしていましたよ。貴女の魔法は面白そうですから。ですが――私は勝ちに来たのです。貴女の全力を、私の全力を持って迎え入れ、勝つ事で皆さんに誇るべき存在となるため、貴女の全力を受けたいのです」
「ふ……ふ、ははははは! いいだろう、そこまで言われては我が全力を持って勝って見せようではないか! その余裕が崩れる瞬間を拝ませてもらおう――では行くぞ!」
「来なさい!」

 ……ああ、うん。

「余計な心配だったかなぁ……」
「なにを心配していたのだ、クロ殿?」
「いえ、なんでもないです」
「?」

 メアリーさんはどうやら、この世界の認識を変えた所でやる時は普通にやるようである。というかノリノリなように見えるのは気のせいか。
 それと先程の戦闘から思っていたのだが、メアリーさんは意外とアプリコットと話が合うのかもしれない。魔法名談議で熱くなれそうだ。
 しかし、なんというか派手な魔法の攻撃の応酬だ。一進一退の攻防は観客席が固唾を見守る他無いほど魅入っている。
 恐らくメアリーさんの引き抜きスカウトに来たなにかの関係者すらも戦いに見惚れているだろう。ただ……

「…………」

 観客席全員が戦う両者に魅入る中、何処となく違う所を見る奴がいる気がした。
 ……ワザとなのだろうか。

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