追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

彼女なりの気遣い(:菫)


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「ふぅ、スッキリした!」

 そう言い少量の汗をかきながら、クリームヒルトは被り物(?)を脱いだ。
 脱ぐと被り物はどういう仕組みなのか徐々に収縮していき、最終的に手の平サイズになると肩から下げているチラシも入ったカバンの中に仕舞い込んだ。……どういう仕組みなのだろうか。

「これも錬金魔法の代物ですか?」
「ええ、そうだよ……ですよ。ババーッと混ぜて作ったモノです」

 クロ殿もその様子を見て疑問に思ったのか質問をする。

「あんな風にフワフワ浮いたり、収縮したり目が光ったりしてましたけど、どういう材料と方法で作られたんですか? あまり見たことの無い道具でしたけど」
「えっと、巨木魔物トレントのコアと呪水じゅすいと蛍のピカーって光る液体をグルッと混ぜて、ムニムニと捏ねて、後はパッ、とやってシュッ、とやって完成です」
「成程?」
「ちなみに声は中からドゥワッと震わせることによってニュッと出ています」
「なるほどー」

 そして途中で理解するのを諦めていた。
 こういう感覚型の相手には理解しようとするだけ難しいだろう。確か錬金魔法の使い手は、特殊な才能の他にこういう類が多いから学問として継承されにくい、というのがあったな。……彼女は別だろうが。

「それはともかく、ヴァイオレットちゃん達が来てくれて嬉しいよ! 私達のクラスはお化け屋敷をやってるから是非来てね! あ、それとも学園祭の案内をしようか?」

 クリームヒルトは相変わらず懐っこい笑顔で提案をしてくる。
 案内、か。恐らくクリームヒルトは周囲の状況を把握したうえで言っている。後の己の立場など気にせず、気を使い味方になろうとしているのだろう。……まぁ今はどちらかと言うと、先程までのお化け(?)の方にざわついている感じだが。

「案内は嬉しいが、チラシを配っていたという事は宣伝仕事中なのだろ? そちらは良いのか?」
「案内途中で配るか、最終的に無くなってれば良いんだよ」
「つまり真面目に配る気は無いのだな」
「だって、アッシュ君とかシャル君とか有名処が居るお陰か、配らなくても既に大盛況だし」
「そうなのか……ん?」

 確かにアッシュやシャトルーズ、殿下達が居れば話題性に富むだろうが、それだけで盛況になるのだろうか。可能性としてはあり得るが、余程宣伝が上手くいっていたのだろうか。

「お化け屋敷と言うと、先程のクリームヒルトちゃんのように仮装されているのですよね? それだとあまり有名な方が居られても意味が無いような……」

 するとグレイも同じ疑問を持ったのか、クリームヒルトに問いをかけていた。
 疑問はその通りで、仮装をしたら誰か分からな――えっ、ちゃん? グレイは今クリームヒルトをちゃん付けで呼んだのか?

「完走商品が直接手渡しで渡されてね。今居る子なら指名制で手渡しされるからリピーターが多くて……」
「大丈夫なのですか、それ」
「あはは、大丈夫……だよ」

 つまりそれは殿下達の人気に肖って何度も挑戦させているという事か。歓楽街にあると聞く飲酒店などと比べれば健全なのでまだ良いだろうが、大丈夫なのだろうか。

「でもそれとは別に凄いから! ヴァイオレットちゃん達も来てみる? 今は殿下とメアリーちゃんは劇の準備でいないけど」
「いや、私が今行ったら……」
「そうですね、今ヴァイオレットさんが行くと……」

 申し出はありがたいが、劇までは時間があるとはいえ元自身のクラスに行くというのは気が引ける。殿下達が居ないらしいが、アッシュやシャトルーズ、そしてよく私を目の敵にしていたシルバも居るだろう。そこに行くというのは勇気がいる。
 クロ殿も周囲の状況をチラッと見て、バツが悪そうな表情になる。

「大丈夫、ヴァイオレットちゃん達だってバレなきゃ良いんだよ!」
「ん、つまりそれはどういう意味です?」
「今は学園祭ですから、多少の仮装も大丈夫です。ロボちゃんみたいな子が来ても問題なしです」
「ロボはちょっと厳しいと思いますが。……でも、まぁ確かに、仮装は良いかもしれませんね」
「クロ殿?」

 なんだかイヤな予感がする。

「クリームヒルトさん、具体的な案は?」
「髪型、変える。帽子、被る。眼鏡、かける」

 何故カタコト。
 いや、その位なら良いだろうか。あまりに露骨に変装すると返って目立つし、それ位ならば今よりはマシになるだろう。

「そうだな、それ位なら良いかもしれない……が、すぐに用意はできるのだろうか」
「大丈夫! 私が材料あればすぐに錬金する作れるし、帽子とかならお化け屋敷の控室にあるから!」
「そうか。ならば頼めるだろうか? 着替えるスペースは……」
「うん! それじゃ着替えるスペースは空き室使えば良いし、誰も居ないように取り計らうから、一緒に行こう! あ、これ被ってね」
「え、クリームヒルト!?」

 クリームヒルトはそう言うと、すぐさま私の腕を取り、先程まで被っていたものとは違う顔だけのお化けの仮装を私に掛け、教室の方へと身体を向け腕を引っ張っていく。
 初めは驚いたが、クロ殿だけではなくグレイやバーント、アンバーも少々驚いていたがなにも言わずに着いて来ていたので、この行動はクリームヒルトが今の場所から離れさせるようにしているのだと気付いた。
 こんなことをすればクリームヒルト自身も学園での立場が悪くなるだろうに、私の為に気を使ってくれている。

「……迷惑を掛けるな」
「なんの事かな?」

 申し訳ないと思いつつ、こうして引っ張っていってくれる友がまだ居ることに感謝し、憂鬱でしかなかった学園祭関連だが、こうして友と周ることが出来る事は良い事なのだと思う。

「……上手く周囲を誤魔化せたら、お化け屋敷に入るのも良いな」
「本当に? それは嬉しいな、でも無理はしないで良いよ?」
「ああ、分かっている」

 そして仮装が上手くいったのなら、友が関わったお化け屋敷に入るのも悪くは無いと思うのであった。


 だが、この時の私達は気付いていなかった。
 何故完走商品が配られているのか。つまりそれは完走される可能性が低いと見こされているからだ。
 そして先程のクリームヒルトが被っていた仮装道具。あれは錬金魔法で作ったという。
 そんなものを軽々しく作ることが出来る錬金魔法を使う者が二名居て。
 アゼリア学園で優秀な生徒が集まるルナ組の出し物で。
 特に今年は殿下やアッシュ、そして彼女のような引っ張っていくのが上手いカリスマ性に溢れる生徒が居るのだ。

 ――彼らが本気を出したお化け屋敷とは、どのような出し物モノになるかなんて少し考えれば分かる事であった。

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