追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

出発前の不安


「なんか増えたな」

 出発日当日早朝。
 招の手紙が来た当初はハートフィールド家の三名で行く予定だったが、いつの間にか共に行くメンバーが増えた。
 神父様としばらく別れることにいじけるシアン。
 シキの子供達から首都に行く事に羨望の視線を向けられ自慢するアプリコット。
 馬車内だと色々不安になるお目付け役のバーントさんとアンバーさん。
 ロボ。
 気が付けば二倍以上に増えてしまった。
 移動手段自体はバレンタイン家が手配した馬車が大きく豪華であったため問題は無いのだが、数が増える以上は少々窮屈にもなる。そのためバーントさんとアンバーさんが興奮しないかが不安である。
 そして俺的には女性の比率が増えてしまったため若干居辛い。化粧や香水の匂いが漂わないだけマシだが。

「と言うか、ロボ。お前は乗れるのか?」
「隣町マデハ一緒ニ並走シテ飛ビマス」
「そうか。業者の方とかすれ違う相手とかに驚かれないようにな」

 ロボ的にはゆっくり飛ぶ方が難しいだろうが、一緒に来てくれると言うのならば特に何も言うつもりはない。話せる相手が多い方が旅は楽しいだろうし。それに途中のモンスター被害の心配が大分軽減されるだけでも良い。

「ロボも学園祭見に行くのは良いけど、捕まらないようにな?」
「大丈夫デス。時間ガアレバ行ク程度デスシ」
「そうなのか。もし来るときは言ってくれ。余裕があればフォローもするから」
「アリガトウゴザイマス。モシカシタラ学園祭ノ部外者モ参加デキル種目別戦闘試合ニ出ルカモシレナイノデ、ソノ時ハヨロシク」
「それはやめろ。相手が死ぬ」

 ロボが学園祭の戦闘試合トーナメント(決闘扱い)に出てしまったら色々と危うい。
 怪我が無いように配慮されているとはいえ、よく分からないまま闘技場が破壊される心配までしなくてはならない。

「冗談デス。後、イザトナッタラ、ワタシガクロクンノフォローヲシマス」
「俺のフォロー?」
「招待者トノ対面トカ、ヴァイオレットクンノ決闘相手トカ」

 それは……確かにいざとなればフォローしてもらいたいが、その辺りは自身の力でどうにかするべきだろう。特に招待者のは下手するとこじれさせようとしてくるだろうし。

「ありがとう、ロボ。緊急時にはお願いするだろうけれど、それは俺達でどうにかすべき事だから」
「分カッテイマス。デスガ、ワタシノ大切ナ友ノ危機ヲ黙ッテ見テイルダケデハ無イトイウ事ダケ、覚エテイテクダサイ」

 友。と言ってくれるのは素直に嬉しい。
 出来れば実家でもあるような場所で危機的状況を避けるに越したことは無いが、こうして味方が居るという事実を確認できるのはありがたい事だ。これが例えヴァイオレットさんだけの事だとしても素直に喜ぼう。
 するとロボはうんうんと頷きながら当たり前のこと言うかのように言葉を続けた。

「緊急時にはマキシマム極限クラスター粉砕キャノン衝撃砲を合図に王国を乗っ取る勢いで騒ぎを起こせばいいんですよ」
「やめろや。お前だと本当にできそうで怖いんだよ。最終的に“くっ、ここまで追い詰められたのならば仕方ない――自爆する”とか言いそうだし」
「言いますね。復活はしますが」
「言うんかい。復活するんかい」

 流暢に話すあたり本気なのか冗談なのかよく分からないが、頼むからやめて欲しい。そこまで思ってくれているのは素直にありがたいんだけど。
 あの乙女ゲーカサスのルートによっては学園下に眠るドラゴンが蘇るとかがあるが、その代わりかのように王国民を恐怖に陥れるとかは止めて欲しい。そうなってしまってはシキの住民全員で逃げ出さなくてはならなくなってしまう。

「ナラ、ソウナラナイヨウニ、クロクンガシッカリシテクダサイネ?」

 そう励まされては頑張るしかない。
 招待者のアイツとか、ヴァーミリオン王子を始めとした攻略対象決闘相手とか、他敵対する学園生徒とか、バレンタイン公爵とか、そして全てを魅了したヴァイオレットさんの一番の敵と言えるメアリーさんとか。色々不安はあるけれども。
 とにかく頑張って支えられるように頑張っていこう。

「フゥハーハハ! 良いかお前達、我が名が首都にて輝く日もそう遠くはない! この来訪は歴史的な一歩となるだろう!」
「とりあえずいざとなったらこれを食え。仮死薬と蘇生薬と蘇生阻害薬だ。あと河豚毒を固形化した奴だ」
「貴様、我をどうするつもりだ」

「おい痴女修道女。これを持っておけ」
「なによ変態痴漢医者。……薬?」
「あらゆる怪我に効果のある俺手製の塗り薬だ。あちらで怪我をしても大丈夫なようにな。使わんに越したことは無いが、身体に気をつけろ」
「余計なお世話。……でもありがと、これを使わなくても良いように過ごしてみせるから」
「ちなみに首都では違法薬物扱いだから気をつけろ」
「なに持たせようとしてんの!」

約束されし恒久的な輝きを持つ少年くん、首都では気をつけるんだ。特に食べ物にはな?」
「ありがとうございます、ブライ様。お土産はなにか希望はありますか?」
「グレイくんが首都で着た服……いや、じゃあ手軽に身につけられるもので。無理して買わなくて良い」
「そうですか? ではご期待ください」
「もしグレイくんの身になにかあったら妖刀、呪具含めた全武器携えて駆け付けるからな」
「? はい、ありがとうございます?」

「お嬢様と密着、お嬢様と密着……落ち着け私。落ち着いて深呼吸して体の空気を吐き出し、体内の隅々までお嬢様やグレイくん達の香りで満たされるようにするんです……!」
「アンバー? どうしたんだ、そんなに落ち着かないでいるとは」
「お嬢様と同じ空間、お嬢様と同じ空間……落ち着け俺。落ち着いて深呼吸して体の空気を吐き出し、宿る音がお嬢様やグレイくん達の音で満たされるようにするんだ……!」
「バーント? どうしたんだ、そんなに落ち着かないでいるとは」


 他にも悩みの種は増えているけれども。味方が多いという事だから大丈夫、大丈夫。
 ……とりあえず処刑されないように頑張ろう。

「クロ、首都で良い女の子見つけたら俺に紹介してくれよ! 今の俺のブームは鉱工族ドワーフの女の子だがどの種族でも良いぞ! ……いや、やっぱり俺も行って品定めしよう! そしてアンバー、俺と馬車内で結ばれる気は無いか!」

 とりあえずこいつは殴って黙らせよう。

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