追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

主人公だったはずの少女による観察(:淡黄)


View.クリームヒルト


 私は錬金魔法を使う希少な存在ということで、特待生としてアゼリア学園に入学した。そして私が入学したアゼリア学園は様々な個性を持った有名な方々が居る。


 まずは同じ学年だと一番有名なのはヴァーミリオン・ランドルフ第三王子。
 真っ赤な綺麗な髪に王族特有の(らしい)紫の瞳を持った、誰もが美男子と評する老若男女問わず人気の方。周囲から評される渾名は“紅い獅子”。
 理由は勉学のみならず魔法の才覚に溢れ、幼少の時にB級モンスターを倒した事が起因したモノらしい。ようは触れれば怪我するぞ、的な感じだろうか。あと良いお声。
 入学当初は冷静で感情を表に出さず孤高な存在であったが、最近は感情を表に出すことが以前よりは多くなって親しみも出て来て、学内での人気は上がる一方だ。
 親しみやすくなった理由はメアリーちゃんの影響だろう。好意も隠そうとしていないし、よく共に行動するところを見る。
 ただ、私はあまり好きではない。何故なら私の大切な友達であるヴァイオレットちゃんを公衆の面前で罵倒し、振ったからだ。そして気にも掛けずにメアリーちゃんと一緒に楽しそうに過ごしている。それを見ていると妙なモヤモヤが胸を襲う。


 次にアッシュ・オースティン君。侯爵家でありヴァーミリオン殿下の近侍の物腰柔らかな茶青色の髪に黒い目の美男子。だけど割と黒い一面もある。あと良いお声。
 学問に関しては殿下、メアリーちゃんと共に常に三位以内に入る秀才で、魔法に関しても地と風のエキスパート。雑務も含めや殿下の近侍として問題なく務めているあたり万能の秀才といった所だろうか。最近だとカーバンクルという精霊と契約して学園内外を騒がせたことが印象的だ。
 アッシュ君に関しては、夏頃までは少し好きではない部分もあったけれども最近は表面上の付き合いではない親しみが出て来たと思う
 理由の一つはメアリーちゃんの影響だろう。
 学園でアッシュ君はメアリーちゃんにビンタをされたことを私は見たことがある。理由は殿下のために己を顧みない行動をしていたからとか。当時は騒ぎになり問題となったが、アッシュ君自身が噂はデマだと言い、直接目撃した生徒達(私含む)には個々に広げないように頼み込んできて、結果的に問題なしとして事態は収束している。
 そしてそれ以降は殿下と同じでメアリーちゃんに好意が見えるし、一緒に行動している所を見る。
 ただ、私は当時実家に戻っていたので直接は見ていないのだが、ヴァイオレットちゃんに対して決闘で酷い事をしたのであまり好きではなかった。
 シキの調査以降は少し変わったので大丈夫だけど、やはりモヤモヤする。あと偶に私を妙に警戒した目で見ることがある。



 次にシャトルーズ・カルヴィン君。現騎士団長と大魔導士アークウィザードの子供で子爵家の戦闘能力が私達の中では頭一つ抜けた濃い緑髪に黄緑の瞳の美男子。あと良いお声。
 入学当初は殿下以上に他者を寄せ付けない雰囲気オーラを纏っていたシャル君だけど、最近は己を高めるために他者と接する所をよく見る。騎士団長になるべく努力する姿は単純だけど輝かしく周囲を惹き付ける。
 やはり変わった影響の一番はメアリーちゃんだろう。
 不愛想で殿下やアッシュ君以外には殆ど接していなかったシャル君に対し何度も話しかけ、時には街に連れ出して交流を図る事で心の距離を詰めていき、メアリーちゃんに心を開くようになってからは他者とのコミュニケーションをとるようになって来た。
 他にも学外実習でメアリーちゃんを含む班がB級モンスターに襲われ、メアリーちゃんが班のメンバーを庇って怪我をし、そこに駆け付けたシャル君が一刀で倒した話は学内で有名だ。
 互いに切磋琢磨して行く様は傍から見ていても良い相棒ライバル関係だと思うし、不器用だけどストレートに見合う男になると伝えている辺り学園の女生徒からも好感度は高い。
 ただ、決闘で敵対してヴァイオレットちゃんを必要以上に抑えつけたり、物扱いした所は好きではない。……接していると色々と素直なので、そのような事が気にならなくなるのはシャル君の人柄なのだろうか。


 他にも有名処は多く居る。
 眼鏡をかけた爽やかお兄さんな美男子の一学年上のフォーサイス伯爵家のエクル先輩。
 足を挫いたメアリーちゃんを公衆の面前でお姫様抱っこし、保健室に連れて行ったこと未だに女生徒の間で王子と姫のようだと語り草になっている。あと良いお声。

 同学年だが弟のような可愛らしい美男子の、私と同じ平民のシルバ・セイフライド君。
 呪われた魔法を使うという事で避けられ塞ぎ込んでいたけれど、メアリーちゃんのお陰で明るくなって、呪われたなんて嘘だという事が分かり今では良く働く人気者として愛されている。あと可愛らしく良いお声。


 そしてメアリーちゃん。今まで上げた有名な方々を魅了する、貴族ではなく平民の生まれの金の髪に赤い瞳が両方美しい女性。家名はスー。あと可愛らしく良い声。
 私と同じ錬金魔法を使うけれど、私よりも明らかに扱いが上手い。
 勉学に秀でて学園でも常に一桁の順位を誇り、専門の分野の方から既に引く手数多。
 他の魔法も優れ、地水火風闇光の基本六属性はおろかその他の希少魔法もその道のプロかのように扱う。
 身体能力が高く、素の状態でもヴァーミリオン殿下やシャル君に引けを取らない程には戦闘面においても頼もしい。
 男女問わず惹きこませる美貌を持ち、身分種族関係なく誰にも優しく接し、慕われている。
 視点の変換が上手くて周りが気付かなかったことにいち早く気付き、生徒だけではなく教師も感心することが多い。
 料理の腕前は食べた者を餌付け出来ると言えるほどに上手だ。殿下達が美味しそうに食べている姿を見た事がある。
 ……ハッキリ言ってあらゆる面で私は勝てないと言えるだろう。女としても、人としても。
 私は希少魔法の錬金魔法を使うからと入れて貰えたが、先を行くメアリーちゃんが居るので正直言うならば肩身が狭い。聖女? 聖女かなんかなの?

『フフ、ありがとうございます。ですが私には貴女に憧れている所も多いのですよ? 私にないモノを持っていますから』

 ただそんな事は気にせず私にも優しくしてくれる良い子なのだけど、どうも彼女と接すると妙な感覚がある。私の居場所が変わってしまった……という妙な感覚。多分気のせいだとは思うのだけれど。
 そしてメアリーちゃんと接するのはあまり得意ではない。
 メアリーちゃんはヴァイオレットちゃんと敵対……と言うよりは、一方的ではあるけれどヴァイオレットちゃんが敵視していた。それに関してはヴァイオレットちゃんが悪い所もあるのだけど、どうも違和感があった。大抵の相手には優しいメアリーちゃんなのだが、ヴァイオレットちゃん相手だけには接し方が違うように思えた。
 なんと表現するべきかは分からないが、救う対象に元から入っていないような――いや、気のせいだろう。

「……まぁ、他にも有名な子はいるけれど」

 一応は錬金魔法を使うということで私も有名なその中に入ってはいるけれど、他にも学園内で注目を集める生徒はいる。
 魔法技術に優れた子。特殊な魔法と生まれで避けられていた子。退学した言霊魔法を使う子。そして……同じく退学した友達のヴァイオレットちゃん。
 学園祭の時にはアゼリア学園に夫婦で来るという話題は学園に知れ渡っている。
 今はクロさんという理解のある夫が居るヴァイオレットちゃんだけど、先程あげた有名な子達には明確に敵意を向けられているし、学園での立場も良いモノではない事は私にも分かる。
 反対に学園でも多くの生徒に慕われているメアリーちゃんの敵として認識されているのだ。居場所は殆どないと言っても良い。
 だからこそ学園祭に来たヴァイオレットちゃん達には私が味方になっていようと思う。

「あはは……汚れちゃったなぁ。このままだと帰れないから、汚れを落とす道具を錬金してつくっておこう、と」

 私は誰も見ていない中で笑い、錬金魔法を使うためのフィールドを展開する。
 他に誰も見ていない所で良かった。さっき想像した有名な生徒に見られたら大変だし、一応は有名な私が学園の生徒に見られるのも変な噂が立ってしまいそうで嫌だ。そんな噂が立った私なんかに味方になってもらってもヴァイオレットちゃんも迷惑なだけだろうから気をつけないと。
 笑顔は大切だと昔教えられたけれど、笑顔も時には狂気に映ると聞くし出来る限り平静を維持しなくては。唯でさえ私はズレているらしいのだから。

「血、綺麗に落ちるかな」

 私は巨木魔物トレントを倒したことによって汚れた血を拭いながら、独り呟いた。
 ……掃除もした方がいいかな?



 というより巨木魔物トレントって血、あるんだ。初めて知ったよ。





備考:良いお声
乙女ゲームで声優さんが演じているので良い声ということである。

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