追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
少し変な奴らの滞在_2
「先程は失礼いたしました。改めまして、はじめましてクロ様。私ヴァイオレット様の執事をしておりましたバーント・ブルストロードと申します。そしてこちらが私の妹の……」
「アンバーと申します。以後お見知りおきを」
「これはご丁寧に。私はシキを治める領主であるクロ・ハートフィールドと申します。よろしくお願いします。どうぞお座りになってください」
「お気遣いありがとうございます」
男女、バーントさんとアンバーさんはヴァイオレットさんを見て少し取り乱した後、ふと我に返り落ち着いた後に澄ました表情に戻り、立ち上がってから俺達に名乗りながら恭しく礼をした。
彼らは双子の兄妹の半妖精族で公爵家にてヴァイオレットさんの従者をしていたとのことだ。年齢は二十四。
本来なら仕えていた方が何処かへ行こうと仕事上の関係のみで気にしないのが大抵の従者であるが、彼らはヴァイオレットさんの身を案じてわざわざシキに来たようだ。余程慕っていたようである。
本当はヴァイオレットさんがシキに来た時すぐに駆け付けたかったらしいが、バレンタイン公爵の手により情報は伏せられ、つい最近まで何処に行ったかすら分からなかったとのこと。そしてヴァイオレットさんの噂を聞きつけすぐさま駆け付けて今ここに居るらしい。
そんな彼らだが……少なくともあの乙女ゲームには出てこなかったと思う。名前くらいなら出たかもしれないが。
「すまない、こちらから送る手紙も監視の者に検閲されていてな。私が何処に居るかなど情報を伝えることは出来なかったんだ」
「いえ、こうして会えただけでも僥倖です」
「しかし、よく私がシキに居ることが分かったな?」
ヴァイオレットさんの質問に彼らは少し言い辛そうな表情になる。しかし直ぐに持ち直し、元の澄ました表情で冷静かつ仕事口調でバーントさんが答えを返す。
「偶然お嬢様の噂を耳にしまして、情報を頼りにこの地まで」
「噂、か」
「はい。そしてお嬢様が居るというシキの様々な噂も知ったのもので。失礼ながら首都からあまり出たことがないお嬢様が慣れ親しんでいるか不安でして」
今の反応から察するに、シキの変態性を心配してここに来たのと……俺の噂を聞いて不安に思ったという所か。
恐らく俺が暴力的で私腹を肥やし、首都では姿が発見され次第憲兵が捕まえる、などといった噂も聞いているのだろう。首都で俺の噂を聞くとしたらそういった方面ばかりだし。
「……成程、クロ殿の変態変質者の噂を聞いて私が変な扱いを受けていないか心配だったわけか」
「うっ……なんのことでしょう」
「え、ええ。お嬢様がなにをい、言っているのか分かりません」
だからなんでその名前が広まっているんだ。やっぱりアイツか? 俺が逆鱗に触れてシキの領主へ任命したアイツが広めているのか? というか嘘下手だな彼ら。凄い目が泳いでいる。
「お前らは本当に咄嗟の嘘が苦手だな」
『うぐっ……』
どうやらヴァイオレットさんも彼らが嘘は苦手だと分かっているようだ。
咄嗟、と言うあたり全く出来ない訳ではないのだろうが、見た目と先程の立ち居振る舞いからして己の感情は秘めることが出来るタイプかと思ったが、思ったよりも感情を表に出すタイプのようだ。
「だって心配じゃないですか! お嬢様が殿下にフラれた傷心状態の心の隙をつかれて調教されて身も心もズブズブと依存しきっていると聞いたら!」
「そうです、お嬢様が嫁いだ先で浮気されても捨てられる恐怖で別れられず、自ら奴隷の首輪を付けたり挙句には少年に手を出したりしていると聞いたら!」
「待って、なにその噂」
「待て、なんだその噂」
彼らは開き直りやがった。割と気安いな彼ら。
そしてなにその噂。こちとらキスも未だなのになんでそんな変態扱いしていることになっているんだ。……あれ、よく考えればキスすら未だなのか、俺達。
というかさっき睨んでいたのはそれが理由か。慕っているお嬢様が変態変質者とかいう渾名の夫を持ち、シキという特殊な地を知ればそれは心配するだろう。ここまでわざわざ来るような従者だし。
『それで、事実なんですか!?』
『事実なわけあるか!』
兄妹がハモって詰め寄り、俺達は同時に否定した。
まったくもって心外である。アイツが噂を流したというよりは、シキに来た生徒からヴァイオレットさんの情報が洩れて噂に尾ひれがついたという所だろうけど、流石に曲解され過ぎじゃないだろうか。
すると俺達の返事に安心したのかホッとした表情になると、詰め寄ったことをまず謝られ、元の椅子に座りなおす。
「ああ、良かったです。じゃあお嬢様がよく分からない物体に捕まって大空を舞ったり、黒魔術師の力を借りたり、実は5歳の時に子供を産んでいて10歳になる息子が居るというのも嘘なんですね」
「まぁそれは嘘だと思っていましたけど。兄さんは心配性ですよね、お嬢様が修道女と拳と魔法で決闘したり、毒物収集したり、挙句には殿下の顔に模したモンスターに魔法をぶつけたりしたなんてある訳ないのに」
「いや、どちらかと言うとそちらの情報の方が正確だな」
「そうですね、そちらの噂の方が合っている部分は多いですね」
『え゛』
彼らは初めは笑っていたが、俺達が実の子ではなく義理の息子であるなど間違っている部分を訂正し、割と事実だと告げると神妙な顔を後に彼らは小さく乾いた笑いを出す。
どうやら冗談だと思ったようだが、ヴァイオレットさんが、
「そう思うのならば、そう思っていた方が良いこともある。だが柔軟性も重要という事だ。受け入れると存外良い奴らだから、接してみると良いぞ」
と告げると、事実だと理解しようと彼らは同じ仕草で頭を抱える。
俺達は頭を抱えた彼らを見ながら、グレイが紅茶を淹れるのをのんびり待っていた。
「アンバーと申します。以後お見知りおきを」
「これはご丁寧に。私はシキを治める領主であるクロ・ハートフィールドと申します。よろしくお願いします。どうぞお座りになってください」
「お気遣いありがとうございます」
男女、バーントさんとアンバーさんはヴァイオレットさんを見て少し取り乱した後、ふと我に返り落ち着いた後に澄ました表情に戻り、立ち上がってから俺達に名乗りながら恭しく礼をした。
彼らは双子の兄妹の半妖精族で公爵家にてヴァイオレットさんの従者をしていたとのことだ。年齢は二十四。
本来なら仕えていた方が何処かへ行こうと仕事上の関係のみで気にしないのが大抵の従者であるが、彼らはヴァイオレットさんの身を案じてわざわざシキに来たようだ。余程慕っていたようである。
本当はヴァイオレットさんがシキに来た時すぐに駆け付けたかったらしいが、バレンタイン公爵の手により情報は伏せられ、つい最近まで何処に行ったかすら分からなかったとのこと。そしてヴァイオレットさんの噂を聞きつけすぐさま駆け付けて今ここに居るらしい。
そんな彼らだが……少なくともあの乙女ゲームには出てこなかったと思う。名前くらいなら出たかもしれないが。
「すまない、こちらから送る手紙も監視の者に検閲されていてな。私が何処に居るかなど情報を伝えることは出来なかったんだ」
「いえ、こうして会えただけでも僥倖です」
「しかし、よく私がシキに居ることが分かったな?」
ヴァイオレットさんの質問に彼らは少し言い辛そうな表情になる。しかし直ぐに持ち直し、元の澄ました表情で冷静かつ仕事口調でバーントさんが答えを返す。
「偶然お嬢様の噂を耳にしまして、情報を頼りにこの地まで」
「噂、か」
「はい。そしてお嬢様が居るというシキの様々な噂も知ったのもので。失礼ながら首都からあまり出たことがないお嬢様が慣れ親しんでいるか不安でして」
今の反応から察するに、シキの変態性を心配してここに来たのと……俺の噂を聞いて不安に思ったという所か。
恐らく俺が暴力的で私腹を肥やし、首都では姿が発見され次第憲兵が捕まえる、などといった噂も聞いているのだろう。首都で俺の噂を聞くとしたらそういった方面ばかりだし。
「……成程、クロ殿の変態変質者の噂を聞いて私が変な扱いを受けていないか心配だったわけか」
「うっ……なんのことでしょう」
「え、ええ。お嬢様がなにをい、言っているのか分かりません」
だからなんでその名前が広まっているんだ。やっぱりアイツか? 俺が逆鱗に触れてシキの領主へ任命したアイツが広めているのか? というか嘘下手だな彼ら。凄い目が泳いでいる。
「お前らは本当に咄嗟の嘘が苦手だな」
『うぐっ……』
どうやらヴァイオレットさんも彼らが嘘は苦手だと分かっているようだ。
咄嗟、と言うあたり全く出来ない訳ではないのだろうが、見た目と先程の立ち居振る舞いからして己の感情は秘めることが出来るタイプかと思ったが、思ったよりも感情を表に出すタイプのようだ。
「だって心配じゃないですか! お嬢様が殿下にフラれた傷心状態の心の隙をつかれて調教されて身も心もズブズブと依存しきっていると聞いたら!」
「そうです、お嬢様が嫁いだ先で浮気されても捨てられる恐怖で別れられず、自ら奴隷の首輪を付けたり挙句には少年に手を出したりしていると聞いたら!」
「待って、なにその噂」
「待て、なんだその噂」
彼らは開き直りやがった。割と気安いな彼ら。
そしてなにその噂。こちとらキスも未だなのになんでそんな変態扱いしていることになっているんだ。……あれ、よく考えればキスすら未だなのか、俺達。
というかさっき睨んでいたのはそれが理由か。慕っているお嬢様が変態変質者とかいう渾名の夫を持ち、シキという特殊な地を知ればそれは心配するだろう。ここまでわざわざ来るような従者だし。
『それで、事実なんですか!?』
『事実なわけあるか!』
兄妹がハモって詰め寄り、俺達は同時に否定した。
まったくもって心外である。アイツが噂を流したというよりは、シキに来た生徒からヴァイオレットさんの情報が洩れて噂に尾ひれがついたという所だろうけど、流石に曲解され過ぎじゃないだろうか。
すると俺達の返事に安心したのかホッとした表情になると、詰め寄ったことをまず謝られ、元の椅子に座りなおす。
「ああ、良かったです。じゃあお嬢様がよく分からない物体に捕まって大空を舞ったり、黒魔術師の力を借りたり、実は5歳の時に子供を産んでいて10歳になる息子が居るというのも嘘なんですね」
「まぁそれは嘘だと思っていましたけど。兄さんは心配性ですよね、お嬢様が修道女と拳と魔法で決闘したり、毒物収集したり、挙句には殿下の顔に模したモンスターに魔法をぶつけたりしたなんてある訳ないのに」
「いや、どちらかと言うとそちらの情報の方が正確だな」
「そうですね、そちらの噂の方が合っている部分は多いですね」
『え゛』
彼らは初めは笑っていたが、俺達が実の子ではなく義理の息子であるなど間違っている部分を訂正し、割と事実だと告げると神妙な顔を後に彼らは小さく乾いた笑いを出す。
どうやら冗談だと思ったようだが、ヴァイオレットさんが、
「そう思うのならば、そう思っていた方が良いこともある。だが柔軟性も重要という事だ。受け入れると存外良い奴らだから、接してみると良いぞ」
と告げると、事実だと理解しようと彼らは同じ仕草で頭を抱える。
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