追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

シャトルーズの責任感による騒動_1


 最近喧しいのがシキに居る。

 シキは馬車などで移動をする場合、首都からはとばして何日もかかる程には距離が離れている。
 だが、学園や特殊な場所に設置されている空間歪曲石と呼ばれるものを使用すれば、首都からでも一日とかからず来ることが出来る。
 空間歪曲石というのは、ようはワープが出来る石の事だ。イメージ的には人型サイズのクリスタルに触れ行き先を念じると、その先に空間事瞬間的に移動する。RPGとかで見るような移動を簡略化する装置と思えば分かりやすいだろうか。あの乙女ゲームカサスでも遠い距離を移動する手段として偶に使われていた。
 ただこれは使用に許可やお金がいるし、特殊な霊脈とやらが発生する場所にしか置くことが出来ないモノだ。首都には学園近くに設置してあり、シキの近くだと隣町にある。
 そして今現在、学園から空間歪曲石を使用し隣町に移動し、全速力で走りシキにやって来ているとある貴族バカがいた。

「男爵。俺はどう責任を負えばいいんだ!」
「落ち着いてくださいシャトルーズ卿」

 そう、シャトルーズ・カルヴィン子爵家令息だ。
 学園の創立記念日とちょっとしたコネを使い、一週間程休みを取りシキに来ているシャトルーズは真剣な表情で俺に尋ねてくる。
 内容はシアンに対してどう責任を負えばよいのかというものだ。
 以前の調査の最後にシアンと模擬戦闘をしたシャトルーズであったが、その際にシアンの服装が特殊なため不味い所まで見えた(直接は見ていないとは本人談)ので、騎士として、男として責任を取りたいと言う。しかし身を捧げるわけにもいかず、内容を広めればシアンに恥をかかせるので大々的に言う訳にもいかず、シアンに直接頼りになろうとしたのだが断られているとの事だ。
 正直、

「知るか馬鹿!」

 と言ってやりたい。そもそも子爵令息がシキに来ていてシアンに話しかけている時点でなにかあったのかと噂されるだろうに、シャトルーズはそれすらも思い浮かばないのか。
 責任感が強いと言うか、真面目で融通が利かないのだろうがもう少し周囲が見えないのだろうか。そういえばシャトルーズルートでは共通ルートでボロが出ていた単純な所がより出てくることがあったな、と思い出す。
 主人公ヒロインに触れられては直ぐ顔を赤くし、手を直接握っては責任を取ると言い、危険が及べば自信を顧みず飛び出し、見合う男になりたいと騎士団長になってから婚姻する。堅物と言うのか面倒と言うべきなのか……

「俺はアイツの為に添い遂げることは無かろうとも生涯を尽くすと誓った! そのためには他の女には目もくれずに精進すると決めたのに、俺はあろうことかシスターの……が見えかけてしまい動揺した! 俺は……俺はアイツに誇れる男となるように今回の事を清算しなくてはならない!」

 うん、面倒くさくて重い。そのアイツにフラれたら自害しかねない勢いだぞ、コイツ。
 一途なのは結構だが俺まで巻き込まないで欲しい。立場上無視するわけにもいかないし。正直早く縫わなきゃならないモノがあるので誰かに任せたいが、グレイでは荷が重いだろうし、ヴァイオレットさんに任せると別の方面で拗らせる気がするし。

「別にシキの住民の大抵はシアンの臀部とか直接で無いにしろ見てますし、大抵気にしてませんから今更な問題だと思いますが」

 一部男性はありがたやと拝んではいるが。
 俺も初めは戸惑ったが、途中から気にする方が馬鹿らしいのではないかと結論に至っている。

「そういう問題ではないのだ。多くの者が見ていたとしても許されるわけではない。俺が女性の大切な所を見え(そうになっ)たのが問題なのだ!」
「そもそも罪に問われるとしたら、ああいう服で戦闘をしたシアンですからね?」

 悪戯に性欲を刺激して性的観念に反しているので猥褻物陳列罪にあたる。一応教会関係者の教義上の着衣であるので罪に問えるかと言われれば微妙な所ではあるが。それにこの国ではその罪状にあたる罪状があるのかも微妙ではある。

「そういう問題ではない!」

 やかましい。

「例え不慮の事故や彼女の趣味嗜好によるものだとしても俺が見え(そうになっ)たという事実は変わらないんだ。だからそれは清算しなくてはならない!」

 だったら自分の力のみで解決しろ、という言葉が喉まで出かかるが、辛うじて飲み込む。
 危ない、危ない……
 お願いだからシャトルーズの親御さんである騎士団長さんと大魔導士アークウィザードさん、息子さんをもう少し落ち着いた子に育てて欲しかった。

「……ふぅ、分かりました。ようは責任を負えればいいんですね」

 俺がそう言うと、シャトルーズは妙案があるのかと期待した視線でこちらを見る。
 あまり気が進まないやり方ではあるが、このままではずっと居座りそうなので提案をすることにした。むしろ解決策を提示したという事で恩を売ってやる。

「ようはシアンに恥をかかせたとシャトルーズ卿は思っている訳ですよね?」
「ああ、そうだ」
「だったら貴方も恥をかけばいいんです」
「……ん?」

 俺はシャトルーズの方をガシッと掴み、逃げられないようにする。
 正直失礼であるが、もうこの際さっさと解決してしまおう。コイツが居座るとヴァイオレットさんも気が休まらないだろうし。

「逃がしはしませんからね?」
「ちょっと待て男爵。良く分からないが嫌な予感がする。具体的にはアッシュがワザとらしい笑い方をした時のような」
「ははは、なにを言うのです。ははは」
「待て! その笑い方はアッシュと同じではないか! 待て、待つんだ、く、くそ、引っ張るな! 何処に連れて行く、というかやはり男爵貴様身体能力が高いなこの!?」

 俺はシャトルーズを引き摺る形で無理矢理引っ張っていった。
 もう今更逃げられるとは思わないことである。今の俺に相談したことを後悔させてやる。

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