追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間的なモノ:グレイの観察


幕間的なモノ:グレイの観察


 私の御主人であり、父であるクロ様と共に過ごして4年目に入る。
 私には生みの親の記憶はなく、気付いた時には貧民街スラムで這い蹲りながら生活をし、(記憶では)5歳の時に人攫いに攫われ、シキの前領主に3年程飼われていた。
 あの時から比べると私は今随分と恵まれた環境に居る。
 暴力も振るわれず、奴隷の首輪もされず、家名を貰い、文字を教えてもらい、魔法の使い方を教えてもらった。魔法に関しては3日くらいでクロ様から教わることは無くなったけれど(その時のクロ様は不貞腐れていた)。
 だけどクロ様は運動能力……というよりは戦闘能力がスバ抜けている。本人は魔法による敗北を何度もしているため余り自覚がない様子だが、とかく戦闘面においてはシキでも随一だ。でなければ片目を失った状態とは言え、素手でフェンリルを捻じ伏せるなどできはしないだろう。
 あと特徴的と言えばクロ様は変わった事を稀によく呟く、貴族らしくない御方だ。一応私も貴族ではあるので人のことは言えないが、偶に来る貴族の方や前領主兼雇用主であった貴族と比べると平民に近い感覚を持っている。

 最近は母もできた。
 お名前はヴァイオレット様。菫色の髪が美しい元公爵家のお嬢様だ。
 シキに来た時は傷心中であり、噂にあった高慢な態度はあまり見なかった御方。今も高慢とは言い難いが。最近は自身の指輪を見てはニマニマと笑っていることが多い。
 美しく、所作も綺麗であり、勉学・魔法と運動能力に優れる見習うべき点が多い尊敬できる御方だ。クロ様にはない良い意味での貴族らしさがある。
 しかし母とは言え、私と4歳しか変わらないので傍から見たら変に映るらしい。血は当然繋がっていないので外見が似ていないこともあり、よくて親戚か年下と遊んでいるお姉さん的なものにしか見られない。
 そのことをライトブルーさんが「知ってるよ、そういうぷれいなんでしょ?」と言っていたがどういう意味だったのだろうか。その後ブルー様にどつかれていたが、どういうことだったのだろうか。
 深く考えて、私とヴァイオレット様の間柄は親子でありプレイなのだと自己判断した。今度シアン様にも言ってみようと思う。
 だが、私が元奴隷であるためなのか分からないが、私に対する態度はクロ様と比べると距離が感じる。少しだけ寂しい。

 そんな父と母ではあるが、シアン様曰くあまり夫婦らしくないとのことだ。
 私は夫婦、というものをよくは知らない。シキに居られる方々を見てはいるが、家ではどういう感じなのかあまり見ないので、夫婦とはこういうもの、という想像しかないのだ。
 そういえば以前シュバルツ……様の一件の時、クロ様が私の母親を三人にしようとしていた。もしかするとクロ様は妻が一人では満足できない御方なのだろうか。確か以前読んだ本では主人公の男性が、多くの女性に言い寄られ1対複数で恋愛関係をする生活を送っていた。そういう生活にクロ様も憧れているのかもしれない。
 確かそれを“ハーレム鈍感難聴男”とアプリコット様が評していた。もしクロ様があのようになりたいのならば、今度そう呼んでクロ様を応援しようと思う。


 ともかく、私の大切な家族が夫婦らしくないというのは少し寂しい。
 そこでスノーホワイト神父様にどうすればいいかと尋ねてみた。

「うーん、そうだな。俺も女の人と付き合ったことないから詳しくは分からないけれど、それでもいいかい?」

 私は大丈夫と答え、神父様の言葉を待った。

「やはりゆっくりと話し合う機会を作るべきだと思うかな。仕事も時間も気にせず、お互いをよく知る機会をね」

 なるほど、話し合う機会。
 確かに二人の関係が少し変わってきてからは、フェンリル関連の事後処理に追われていてゆっくりと話している機会がない気がする。そういった場を作るのも良いかもしれない。
 ……そう言えば、最近シキの近くに温泉が湧いたそうだ。
 温泉とは天然のお風呂の事らしく、大勢で入れるほどの広さらしい。
 クロ様もどうにか道を整備して、シキの住民や観光資源として利用できないかと悩んでいた。つまりは途中の道をどうにかすれば利用は可能ということだ。
 そしてカーキー様も言っていた。男女が仲良くなるためには裸の付き合いが大切なのだと。お風呂に入れば互いに裸になる上に、ゆっくりと仕事と時間を気にせず話し合うこともできる。まさにうってつけではないだろうか。
 よし、こうなったらさっそく提案してみよう。思い立ったが吉日ということで、ヴァイオレット様の下へ赴き提案をしてみた。

「クロ殿と一緒に温泉!? …………い、いや。夫婦だからそういったことはおかしくないのだが、順序がだな。……それに人と一緒に入る、というのは少々不慣れでな」

 ヴァイオレット様は幼少を除き、基本的にお風呂に入る時はメイドなどが一人扉の外で待機していて、人とお風呂に入る経験があまり無かったとのこと。
 曰く「自分のことは自分で、無防備な姿を他者に晒すな」という教育方針とのことだ。

「だがグレイと一緒に入るのは良いかもしれない。正直私とグレイとでは今まで距離があったからな。ゆっくりと話す場所を作るのも悪くない」

 つまり親子水入らずということだろうか。少し寂しい思いをしていたが、こうして向こうから歩み寄ってくれるのは嬉しい。
 私はこちらから歩み寄る、というのは少し苦手である。相手の顔色を窺い、相手の感情に敵意が混じらないか不安なのだ。
 だけど私もヴァイオレット様と仲良くはなりたいと思っているし、歩み寄ってくださるのならば私もそれに応えようと思う。
 母と子がお風呂に入るというのは普通の家族では珍しくもないと聞くし、クロ様とも会った間もない頃に何度か入っていたことがある。その際には私の心も解されたものだ。
 よし、これを機会に母と子の仲を深めよう。

「ふふ、ならば今度一緒に入るか。いきなり異性と入るのは緊張する。まずは人と一緒に入るという所から慣れなくてはな」

 ……何故だろう。ヴァイオレット様の発言になにかが引っかかる。
 私は妙な違和感を覚えたまま、いずれ一緒に温泉に入る約束をしたのであった。





備考:グレイの二人称
年上:様付け
年下:さんづけ

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