追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

恐らく母親譲り


 外に出ると太陽が隠れていて、雨が降り始めていることに気付いた。

 ブルーさんに詳細を聞いた後俺達は、直ぐにシキの人達に家への避難と動ける人は捜索の手伝いをお願いした。
 聞いた話ではブルーさんの息子、ライトブルーくんがシュバルツさんと遊んでいた時にトイレに行き、戻ってくる時にこの周辺で見るタイプの狼型モンスター【ダイアウルフ】に咥えられて攫われたとのことだ。目撃したのはグレイとシアンとブルーさん。シアンが追い駆けたが訓練されたかのように素早く森へと逃げられ、シアンがグレイにこのことの報告をお願いしながら森へと入っていったらしい。
 それを聞いた時にグレイはブルーさんを落ち着かせながら俺に連絡するよう伝え、シュバルツさんの所へと状況の説明と見張りを行った。

「キミ達が私を疑うのも仕様がないことだ。旅人であり、モンスター我が子と心を通わせることも出来、今もライトブルーくん達とも遊んでいた。信用も信頼もない私は見張られてもおかしくはない。だが、出来ることなら捜索に協力したい」

 事情を聴いたシュバルツさんは酷く慌てた様子だったらしいが、状況が状況だけに直ぐに動くのは得策ではないと判断したらしい。最低でも俺が来なければ動いても不信感を募らせるだけであろうと。
 ……事実として否定できないので、今回の騒動はシキにいる人たちだけで解決するべきだろう。だが、どうする。ここ数日の彼女の動きは見てきたが、子供相手に危害を加えるようには見えなかった。しかし彼女があのシュバルツさんならば協力も、この場に置いていくことすら不安である。不安ではあるが――

「――シュバルツさん。私達と共に捜索をお願いできませんか」

 その発言に言われたシュバルツさんだけでなく、グレイやヴァイオレットさんなども目を見開いた。

「……クロくん、いいのかい?」
「ええ、シュバルツさんにはモンスターと会話をして捜索範囲を広げてもらいます。……お客様に申し訳ありませんが、協力お願いします。謝礼は出しますので」

 俺はシュバルツさんに頭を下げ、失礼であるが協力を申し出た。
 時間がない。不安ではあるが、今は人手が一人でも多い方が良い。刻一刻と命の危機の際には利用するものは利用させてもらう。

「謝礼は良いよ。今は協力しなくてはならない。……いいかな、ヴァイオレットくん。私に警戒を抱くのは分かるが、今は保留にしてほしい」
「……クロ殿の判断だ。文句は言わない」

 ヴァイオレットさんは若干不服そうであったが、この件は後で謝るとしよう。
 ……さて、目撃証言によれば広場から山に向かったとのことだから――

「シュバルツさんは俺とグレイと共に南東の大樹に向かって捜索を。ヴァイオレットさんはアプリコット達とシアンの足跡を追って洞窟方面へ、オーキッドは神父様と教会周辺で待機して怪我人を――」

 他にも動ける人で周辺の捜索を頼んだ。戦闘力の無い人達にはあくまでも逃げ帰れる範囲を。見つかったら上空に何らかの魔法を発動して合図をお願いするようにした。そして途中でシアンと会ったら今の内容を説明してほしいとも伝える。

「雨で視界が悪いですから、モンスターも気が立っている可能性があります。火術石による火を焚くのを忘れないでください。――では、急ぎましょう」







 ダイアウルフの足跡は案の定森に入る際に消えていた。
 ダイアウルフはそれなりに賢い狼型のモンスターである。足跡から追跡を防ぐため森へ入れば木へと飛び移り、枝から枝へと疾走する。勿論枝が完全に折れない訳はなく、毛も落ちるので知識さえついた者ならば追跡が不可能という訳ではない。
 だが、ここで気になることが一つある。

「ダイアウルフが人を直接襲うことは滅多に無い」
「その通りだな」

 ダイアウルフは人を襲うことは殆どない。理由は明確に人よりも弱いからだ。
 小さな子であれば別であるが、逃げる・飛ぶ脚力があっても明確に衝撃に弱く、脚力で体当たりでもすればそれで絶命するような脆いモンスターなので、人を敵にしようとすることはあまり無いのである。

「……ふむ、環境で特別な力を得たわけでもなさそうだ。バード達もそういったものは見ていないらしい」

 シュバルツさんは行く先々で出会うモンスターに話しかけては情報を収集していた。
 ……あの乙女ゲームカサスの設定で知ってはいたけれど便利な人だな、この人。こうしてモンスターの生息範囲に入ってもシュバルツさんが会話してくれるお陰で一切の戦闘がない。

「クロくん。こんな時だが、一つだけ聞かせてくれ」

 俺とグレイで周囲を呼びかけていると、シュバルツさんはグレイに聞こえないような声量で俺に尋ねて来た。いつも自信に溢れていた表情が多いシュバルツさんには珍しい神妙な顔だ。

「何故キミは、私が捜索するのを認めた?」

 はっきり言うと、いざという時に俺とグレイならば一番対応できるから近くに居て欲しかった、というのもある。だが一番の理由は……

「子供達と遊ぶ貴女は、とても楽しそうでしたから。子供が心配なのは本当だと思ったからです」
「……そうか」

 一番の理由は、この人が子供に危害を加えるような存在に見えなかったからだ。
 ここ数日のグレイは本当に楽しそうだったし、偶に見る遊んでいる姿は演技などではない姿に見えた。ならば今こうして監視の下で捜索することが一番だと思ったからである。

「それならば私も捜索を――ん?」

 俺の答えにどう思ったのかは分からないが、少しの間の後シュバルツさんは切り替えて捜索を再開しようとする。しかしなにかを感じ取ったのか、俺達が向かっている方向から少々方向が違う方へと注意を向けた。

「どうしました?」
「ふむ、どうやらバードこの子がライトブルーくんらしき子をこの先で見たと言っている。向こうの開けた場所らしい」
「本当ですか!」

 その言葉を聞き、俺達はその見たという場所へと走っていく。
 雨のせいで土が泥濘んでいたが、出来る限りスピードを落とさないように比較的固い場所を選択して走っていく。
 走ること数十メートル。木が一部無くなっており、開けた場所に居たのは――

「違う、違うよ! ウマは素早く走って弓を放つの!」
『G、grrrrr……』
「弓は放てない? よし、じゃあ僕が教えてあげるね!」
『Gr!?』

 そこに居たのはモンスターと遊ぶライトブルーくんであった。しかもお馬さんごっこの様にライトブルーくんが上位であった。
 この子、逞し過ぎやしないだろうか。

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