追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

楽しく遊びました


 シキにて。
 俺とグレイはシュバルツさんを宿泊所に案内していた。シキで宿泊できる施設は主に3つ。
 酒場兼宿屋兼ギルドの【レインボー】。教会。そして領主邸である俺の屋敷。
 基本的には食事を提供でき気兼ねしなくて済むレインボーに案内するが、騒がしいのが苦手であったり宗派に問題が無いのならば教会。そしてどちらもNGの場合や身分が高いお客様などの場合は屋敷に案内する。
 シュバルツさんは騒がしいのは問題ないことと、1週間ほど滞在する予定なので宿屋が良いと答えていた。

「申し訳ない。どうも我が子たちが迷惑を掛けたようだ」

 そして何故俺達があの場に居たことについて説明をすると、シュバルツさんはギターケースのようなショルダーバックを背負いながら申し訳なさそうに謝ってきた。ちなみに服はちゃんと着ている。
 髪と同じで黒いテーパード・パンツに、同じく黒いスーツのような動きやすい上着を白いシャツの上に着ている。さらには黒い作業用手袋のようなものまで身に着け肌の露出が最大限まで抑えられている。
 それなのにさっきは何故見せつけて来たのかと問うと、

『普段見えないからこそ、見えた時の芸術性が高まるものだよ』

 と言っていた。
 シキで露出しないからありがたいので一瞬いい人かと思ったが、よく考えれば人前で裸で堂々としている方が普通ではないので、とりあえずは最低限は守る変態という評価に落ち着いた。

「シュバルツ様は魔物使いなのでしょうか?」
「いや、私はどうも昔からキミ達の言う魔物と心を通わすことが出来てね。旅の途中で出会った子が付いてきてしまったのだよ。そのせいで土地勘が無く逸れた子たちが逃げてしまったようだ」

 魔物使いとは、あくまでも魔物を使役するものである。使役の中には心を通わせての共闘もあるが、シュバルツさんの場合は魔物と心を通わすことが出来るだけで、使役などはしていないとのことである。
 我が子、と呼ぶのは単に彼女を慕うモンスターを彼女がそう呼ぶだけの事らしい。……それを俺は本当であり、嘘だとも知っているが。

「だが、被害があった人達には謝罪と補償を行いたい。そちらも案内してもらうことは可能だろうか」
「いえ、シュバルツさんが気にすることではありません。意志を持って攻撃したのならばともかく、偶然のようですから」

 今回のモンスター騒動はシュバルツさん主導ではなく、単純に付いてきてしまったモンスターが行った行動だ。人的被害も起きていないし、あの温泉に入っていたモンスターもシュバルツさんの指示で元居ただろう山へと帰っていった。

「そうはいかない。私があの子たちを可愛がった故に起きてしまった被害だ。それを厚意に甘えて存ぜぬを貫き通すのは美しくはない」

 変な所はあるが、彼女はその辺りは真面目なようである。
 恐らくヴァイオレットさんも今のシュバルツさんを見れば「すまないが、私は被害のあった人に説明をしてくる」と言って避けようとはしなかっただろう。

「それならば明日、グレイにシキを案内させます。本日はもう遅いでしょうし、ヴァイオレットさんが先に説明をしていますが、住民には先に私からも軽い説明をしておきますので」
「それは……いや、そうだな。申し訳ないがお願いできるだろうか」

 正直言うならば、シュバルツさんは信用が出来ない。
 理由は彼女が場合によってはあの乙女ゲームカサス攻略対象ヒーローを殺す、所謂殺し屋的なポジションを持っていたからだ。
 初期に少しだけ登場し、ルートによっては中盤以降に再登場する謎の登場人物。

『すまないね、これも生きるためなんだ。恨めばいいよ。そうした方がキミも楽だろう?』

 などと言い、主人公ヒロイン達を窮地に陥らせる女性。
 場合によっては味方にもなるが基本は脅威に関わりなく、金によって殺しから調査まであらゆる仕事をこなす女性だ。……美しさに拘るキャラなような気もしたが、ここまで変態だとは思いもしなかった。

 ――どう、動くべきか。

 杞憂で済めばいいが、シキに来たのが偶然でないならば俺やヴァイオレットさん、あるいはシキに住む『問題はあるが、優秀でそれなりの立場がある者』に関してなにもしないとは限らない。
 かと言って警戒をすれば、向こうは本職の人間だ。俺のような素人ではあっさりと気付かれてしまうだろう。だが、1週間も滞在する以上それなりに動向を観察せねば――

「時に、グレイくんと言ったな」
「? はい、わたくしめがなにか」

 と、彼女への今後の対応を考えていると、ふとシュバルツさんがグレイに向き直りじっとグレイを見だした。
 まさかグレイに関しての依頼を受けていた……?
 実は高貴なる血筋の子だったとかそんな感じの過去があり、調査と連れ帰りのためにシキへ来たのだろうか? だとしたらグレイを守らなくてはならない。過去になにがあろうと、本人が望まないのならば家族であるグレイを守らなければ。

「いや、美しい少年だと思ってね。どうだい、今夜私と遊ぶ気は無いだろうか」

 おい、グレイになにをするつもりだこの変態女。常識的な部分もあるかと思ったけど、やっぱり変態じゃないか。彼女は確か17前後であったはずだから、6歳下に手を出すとはそういう趣味を持っているのか?

「遊ぶ……はい、トランプや火術石ひじゅつせきを利用した遊びなどなら大丈夫ですよ。仕事が終わり次第にはなりますが」
「いや、グレイ。この人の言う遊ぶとはそういう遊びじゃなくて――」

 グレイは正直そういう関連は口では言うが、本質を理解できていない少年だ。変なこと吹き込むのなら領主権限で退去させてやろうか。

「そうか、嬉しいぞグレイくん! 私はポーカーや大富豪は強いぞ。旅先のローカルルールとかで違う遊びを楽しむのが私は好きでね。色々教えてくれるかい」
「私めは構いませんよ。よろしいでしょうか、クロ様」
「……うん、騒いで周囲に迷惑を掛けないように」
「勿論です」

 とりあえず宿屋の主人に変なことしそうだったらぶっ飛ばしていいとだけ伝え、グレイとシュバルツさんは酒場に居た人たちを交え健全に遊んでいたそうだ。

 ちくしょう、この人の本質がさっぱり分からない。











「ハローハロー、今回の依頼主さんは貴方で良いのでしょうかー」
『……あぁ、そうだ』
「お望み通り、シキに来ましたよー」
『そうか。では、依頼通りに頼む。次の報告は依頼完了後で良い』
「了解しましたー。依頼内容の改めての確認になりますが、ヴァイオレット・バレンタインお嬢様の殺害でよろしかったでしょうかー」
『あれはもうバレンタインではない』
「はいはーい、了解いたしましたー。では結果は期待して待っていてくださいねー」
『ところで、以前と口調が違うようだが、なにかあったのか』
「ただのキャラ作りですよ」

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