第1091話　妖魔召士のヒュウガと、予備群のコウゾウ

　突然のヒュウガの言葉に流石にコウゾウは言葉が出せなかった。この目の前の『妖魔召士ようましょうし』が一体どういうつもりでそう告げているのか分からないが、既にこれだけ日数が経った今『妖魔退魔師ようまたいまし』組織以上の諜報部隊が揃っている『妖魔召士ようましょうし』達であれば、今『妖魔退魔師うち』と『妖魔召士ようましょうし』側がどういう状況にあるかが理解出来ている筈である。

　まだ一介の『予備群よびぐん』であるコウゾウには、妖魔退魔師の本部と『妖魔召士ようましょうし』の間で、かなり話が進められていると言う情報も入ってきてはいないが、それでもある程度の予想はつくというものである。

　そうだというのに『妖魔召士ようましょうし』がわざわざこの問題の旅籠町に来た挙句、何のつもりかその全ての原因である捕らえた『妖魔召士ようましょうし』に会わせろなどと信じられない事を口にされた為、コウゾウは何と言っていいか分からずに、唖然とした様子で目の前の『妖魔召士ようましょうし』を見つめる事しか出来なかった。

「どうしたのかな？　君はこの町の『予備群よびぐん』だろう？」

　無言になったコウゾウに、早く会わせろとばかりにヒュウガは告げる。

「貴方がたは『妖魔召士ようましょうし』なのだろう？　そうであればうちとそちらでの事情は、当然知っている筈だと思うのだが、まさか何も知らされていないとでもいうのか？」

　内心ではそんな筈がないと理解はしつつも、目の前の『妖魔召士ようましょうし』達がどういうつもりなのか、さっぱり分からないコウゾウはそう告げるしかなかった。

「ははははっ！　そ・ん・な・筈・が・無・い・だ・ろ・う・？　そもそも事情を知らなければ、この旅籠にチアキ達が捕らえられている事すら分かる筈がないじゃないか？　何もかも知った上でこ・の・町・の・『予・備・群・』で・あ・る・君・に・会わせて欲しいと言っているのだよ」

「あんた俺達を馬鹿にしているのか？　屯所に捕らえた『妖魔召士ようましょうし』達は、俺達『妖魔退魔師ようまたいまし』に属する『予備群よびぐん』を襲った所為でこの町に捕らえられているんだ。そんな奴らをあんたら『妖魔召士ようましょうし』に会いたいからと言われて会わせられる筈がないだろう？」

　どういうつもりなのか理解が出来ないままできっぱりとコウゾウが断ると、今まで喋っていたリーダーらしき『妖魔召士ようましょうし』は、チェーンの付いた眼鏡を外して布で丁寧に拭き始めた。

　コウゾウは目の前の『妖魔召士ようましょうし』の意図が全くわからず、悠長に眼鏡を拭き始めたのを見て呆れて溜息交じりに嘲笑する。

「全く……。事情とかそんな事はどうでもいいんですよ。私が会わせろと言ったのですから、君は素直に案内すればいいのですよ」

　すっと眼鏡を付け直した男はそんな事を口にしたかと思うと、反論しようとしたコウゾウに向けて『魔瞳まどう』を放った。

「ぐっ……！」

　ヒュウガの目が青くなったかと思うと、コウゾウは金縛りにあったように動けなくなった。

「どうされますか？　ヒュウガ様」

　他の『妖魔召士ようましょうし』達が、コウゾウを動けなくしたヒュウガに向けて口を開くと、ヒュウガは屯所の方に視線を送りながらゆっくりと言葉を吐いた。

「彼らが素直に案内してくれないというのだからしょうがないですね。貴方達は中に入って『キネツグ』と『チアキ』を探し出してきて下さい」

「分かりました……。抵抗されたら手を出しても構いませんか？」

「それも仕方ないでしょうねぇ、逆・ら・え・ば・皆・殺・し・に・し・て・差・し・上・げ・な・さ・い・」

「分かりました」

　動けないコウゾウの前で信じられない言葉が交わされたかと思うと、数人の『妖魔召士ようましょうし』達は、コウゾウを素通りしてそのまま屯所の方へと向かっていく。

　コウゾウは全身に力を入れて彼らを止めようと足掻くが全く動けない。

「貴方が素直に案内してくれていれば、誰も死なせるつもりは無かったのですがねぇ。まぁ頑なに会わせられないと言われるのですから仕方がありません。貴方はコウゾウという名前でしたかね？　優秀な『予備群よびぐん』だったと記憶していますが選択を間違えましたねぇ。所詮『妖魔召士ようましょうし』の前では貴方達『予備群よびぐん』は何を出来ない、路・傍・の・石・程・度・の・存・在・でしかないのです。この場で仲間が殺されていくところを想像しながらずっとその場で後悔していなさい」

（そ、そんな……！　ま、待ってくれ！）

　コウゾウはヒュウガの『魔瞳まどう』である『青い目ブルー・アイ』によって、自身の身体を自由に動かせなくなってしまうのであった。