最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1090話 旅籠町に到着するヒュウガ達

 コウゾウは見回りを終えて屯所の近くまで来ると、感慨深そうにもう一度振り返ってこれまで何度も歩いた町並みを見渡す。

(今後はシグレが隊長となって、俺の代わりにこの町を守って行ってくれる筈だ。彼女が副隊長だったおかげで俺は随分と助けられた。今度は隊長となる彼女を支えてくれる者が出てくる事を祈るばかりだ)

 この町に居る護衛隊の『予備群よびぐん』達も頼りになる者達ではあるが、戦闘という面においては十代半ばのシグレに誰も敵わない。有事の際に全ての事に隊長が対応にあたるわけにも行かない。出来れば一人でランク『3.5』以上から『4』クラスの『妖魔』と渡り合える人間が欲しい。そこまで考え始めたコウゾウだったが、一人首を振って考える事をやめた。

(次の副隊長を決めるのは、次の隊長になるシグレの仕事だ。もう俺が決める事じゃない。それにシグレに任せておけば問題はないだろう)

 コウゾウはシグレの優秀さをよく知っている為、これ以上は彼女に任せようと判断して、再び前を向き直る。

 そしてコウゾウは残すところ、あと数回となるであろう見回りを終えて屯所の中へ戻ろうと足を前に出し始めた。

 ふと、そこでコウゾウは屯所の近くの旅籠町の入り口に、赤い狩衣を着た数人の『妖魔召士ようましょうし』達の姿を見かけるのだった。

 その『妖魔召士ようましょうし』達は旅籠町の中に入って来ると、一直線にこれからコウゾウが向かおうとしていた屯所へと向かってくる。やがて『妖魔召士ようましょうし』達の一団は、コウゾウが居る場所の近くまで来ると足を止めた。

「おや、キミの顔は何処かで見た事があるな。確か『予備群よびぐん』の者だと記憶していたが、合っているかな?」

 チェーンが付いた特徴的な眼鏡を掛けた男が、コウゾウにニコリと笑い掛けながらそんな事を告げてきた。

「あ、ああ、確かに俺は『妖魔退魔師ようまたいまし』の組織に属する『予備群よびぐん』だ。貴方がたの服装を見るに『妖魔召士ようましょうし』の方々だと思うが、ここに何か御用ですかな?」

 こんな辺鄙な旅籠町に生粋の『妖魔召士ようましょうし』が三人も訪れた事に驚いたコウゾウは、訝しそうな表情を浮かべながら、こちらを見て微笑んでいる眼鏡の男に尋ねた。

「ははははっ! これは異なことを言われるじゃないか。我ら『妖魔召士ようましょうし』が長旅の疲れを取るために旅籠に寄る事がそんなにおかしな事だったかな?」

 特徴的な眼鏡を掛けた『妖魔召士ようましょうし』は笑みを浮かべたままでそう告げるが、コウゾウはしまったといった様子で頭を下げた。

 目の前の特徴的な眼鏡を掛けた『妖魔召士ようましょうし』を一目見た時から胡散臭さを感じていたコウゾウは、この町に来た理由を探ろうと無意識に表に出してしまったようだ。

 確かに先程の言葉は失言だったと、コウゾウは謝罪の気持ちを抱いて頭を下げたのだった。

「いやいや『予備群よびぐん』は町の護衛を最優先に考える者達だという事は、我々『妖魔召士ようましょうし』もよく知っている。確かにいきなりワシらがくれば、そのように訝しまれても仕方はないだろうな」

 なぁ? とばかりに眼鏡を掛けた男が隣に居た『妖魔召士ようましょうし』の仲間に話を振ると、声を掛けられた『妖魔召士ようましょうし』は、笑みを浮かべたままで首を縦に振って相槌を打つ。

「しかし丁度いい時に君に出会ったものだ。少し尋ねたい事というか、君に頼みたい事があるのだがいいかな?」

「は、はぁ……」

 コウゾウは少しだけ目の前の男の空気が変わったのを感じ取り、無意識に視線を他の『妖魔召士ようましょうし』達に移しながら右手を刀の腰鞘近くに持っていく。

「この旅籠に捕らえられている二人の『妖魔召士ようましょうし』である『?」

 ……
 ……
 ……

「ふぅっ、疲れました……。こんな山のようにある仕事が一日の分量だなんて信じられませんね。いつも平然とこなしていた隊長は本当に凄いお人ですよ……」

 机に座ってこれまでコウゾウがしていた仕事を引継ぐという事で代わって行っていたが、その膨大な仕事量に目に手をやりながら溜息を吐いて愚痴を零した。

「もうこんな時間ですか。今日の隊長の見回りは、いつもより輪をかけて長いですねぇ」

 いつもなら帰ってきている時刻になってもまだ戻ってきてないコウゾウに、この旅籠町を離れる事を名残惜しんで旅籠町を見渡しているのだろうと考えた。

 屯所に捕らえられている『妖魔召士ようましょうし』二人を取り返す為に、ヒュウガ達がこの旅籠町に出向いてきており、既に屯所の前でコウゾウと会話をしているとは予想だにしないシグレは、コウゾウが本部に戻ってもまた、自分達に会いに来てくれたら嬉しいなとばかりに思いを馳せているのであった。

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