最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1075話 妖魔山に関しての互いの思惑

 ゲンロクを含めた『妖魔召士ようましょうし』達が謝罪を行う為に下げていた頭をあげるのを見計らい、ミスズは再び口を開いた。

「今回の一件の取り決めを行う前にゲンロク殿達に伺いたいのですが、この隣に居るヒノエが前回、この里で提言をした事について、どういう結論に至ったのかを述べて頂きたいのですが、差し支えなければ今、お答えいただいても宜しいでしょうか?」

「それは前回ヒノエ殿が言っていた『妖魔山ようまざん』の管理をそっちへ渡すか、サテツ達の首を差し出すかという回答の事かね?」

「その通りです、ゲンロク殿。後者を選んだ場合はそちら側が提示した『コウヒョウ』の件も当然お忘れのないようにお願いします」

 先程まであの笑顔を見せていた者とは、まるで別人のような表情を見せるミスズにゲンロクは、難儀な女が『妖魔退魔師ようまたいまし』には多い事だと、彼女の隣に居る『ヒノエ』を見比べながら心の中で思うのであった。

 ちらりと急に視線を向けられた張本人のヒノエは、小さく首を傾げながら眉を寄せてゲンロクを見るのだった。

「その前に一つ聞きたいのだが、何故そこまで妖魔山の管理にこだわるのだね? これまでの取り決めでお主らは、山の事など口にも出してこなかった筈じゃ」

 直ぐに結論を言わずに逆に質問をしながら先延ばしをするようなゲンロクの態度に、ミスズは数秒程笑みを浮かべながら無言だった。

 とくに文句を言うでもなく、不機嫌さを表すような素振りも無いが、このまるで乾いたような笑みを見せる時のミスズは、彼女をよく知る者達であれば相当に機嫌が悪くなっている時だと悟っていた。

「それは私が求めたからだ」

 腕を組んで事の成り行きを見守っていた『妖魔退魔師ようまたいまし』の総長シゲンが、遂に口を開いてそう言った。

「ほう『妖魔退魔師ようまたいまし』の総長であるシゲン殿が、妖魔山に興味を持っていたとは驚きだ。これまでそちら側の先代や、先々代までの方々はうちが山の管理をする事に口出しをせず、むしろ妖魔が蔓延るあの山の事は、煙たがって話題にすらしなかったというのに、当代の妖魔退魔師トップのシゲン殿は中々に物好きなのですな」

「ゲンロク殿、今はそんな事を気になさっている場合ではないでしょう? それに元々この『妖魔山』の話は、そちら側のイダラマ殿から……」

 横からミスズがゲンロクに口出しをするが、シゲンは構わないといった様子でミスズを一瞥する。

 シゲンの視線を見たミスズは、口を閉じて軽く頷くのだった。

(……イダラマだと?)

 シゲンの視線に口ごもった副総長ミスズの言葉を耳聡く聞いていたゲンロクは、この里を襲撃に来て『転置宝玉』を盗んでいった『妖魔召士ようましょうし』イダラマの姿が頭を過るのだった。

「『妖魔山』の奥深くには『禁止区域』があるのはご存じだろう?」

 そのシゲンの言葉にゲンロクは目を細めた。

「待て、シゲン殿。我らが妖魔山の管理をそちらに任せる事になったとしても『禁止区域』に入るという事は、安易に認められる事ではないぞ」

 ゲンロクはシゲンの目を見ながら、それは認められないとばかりに釘を刺すのであった。しかし今度はシゲンがゲンロクの言葉に反論を返す。

「もう『禁止区域』が指定されてから数百年は経っている。だが我々の両組織は、未だに共にランク『9』以上の妖魔が居る場所が現状どうなっているのか分かっていない。そろそろ中がどうなっているか一度調べておく事こそが、この世界の安寧の為だと私は思うのだがな」

 その場に居る『妖魔召士ようましょうし』達は『妖魔山』の『禁止区域』の事を告げたシゲンに、厄介事に巻き込まれたくないとばかりに、一様に恐れ慄くような表情を浮かべる。

「ならぬ! それだけは決してならぬぞシゲン殿! 下手に禁止区域に入る事で奥に居る妖魔達が、表に出て来るような事になれば、どうなるかくらいシゲン殿なら分かるだろう!?」

 これまで冷静な態度であったゲンロクは、山の『禁止区域』の話が出た瞬間に堰を切ったかのように捲し立て始める。

 どうやら妖魔山の奥にある『禁止区域』の話題は、ゲンロクにとっては禁句の様子であるらしい。

 そしてこれだけ騒ぎ立てるという事は、何かシゲンが知らない山の情報をゲンロクが持っているのだろうと、シゲンはあたりをつけるのであった。

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