最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1064話 サカダイの見える橋の前にて

「ソフィ殿、ヌー殿、もうすぐそこがサカダイだ」

 エイジの案内で旅籠町からそれなりに歩いて来たソフィ達だったが、どうやらようやく『サカダイ』の場所に辿り着いたようであった。

「おお、何というかこれまでとは趣が違うようだ」

 徐々にサカダイに近づいていくソフィ達は、サカダイの町の周りが池に囲まれているのを確認するのだった。そしてサカダイの町の前に渡されている長い橋の前まで辿り着くと、そこで背後から歩いていたエイジの足が止まった。

「橋を渡ればその先に門がある。そこまで行けば『サカダイ』の町の門番が立っているはずだ。後はコウゾウ殿から預かった書簡の事を門番に話せば、町の中を案内してくれるだろう」

 橋の前で足を止めて説明を始めるエイジは、どうやらサカダイの町まで入るつもりはない様子であった。

「お主は町の中に入らぬのか?」

 ソフィがそうエイジに訊ねると、こくりと頷いて口を開いた。

「ああ、小生はまだ『妖魔召士ようましょうし』を辞めたわけではないからな。お主らとこのまま歩いていれば、何か要らぬ勘繰りをされてしまう可能性もある。極力お主達の足を引っ張る事だけは避けておきたいのだ。それに元々ゲンロクの里までの案内のつもりだったからな、シュウに任せているとはいっても、家に一人残しているゲインはまだ子供だ。早く戻って会いに行ってやりたいのだ。すまぬなソフィ殿」

「そうか、そうだったな。長い間、付き合わせてしまってすまなかった。本当にお主のおかげで、色々と助かったぞエイジ殿」

 ソフィはエイジが自分の子供の事が心配だという言葉に偽りは無いのだろうが、それ以上にこのサカダイの町に入る事に対して何か抵抗があるように感じられた為、無理に引き留めるような真似はせず、ここまで案内してくれたエイジに感謝をするのだった。

「小生の方こそ、お主達と楽しい旅をさせてもらった。またケイノトの町に来ることがあれば、是非裏路地に顔を見せにきてくれ。お主達ならばいつでも大歓迎だ」

 そう言ってエイジはにこりと笑顔を見せて手を差し出してきた。ソフィもその差し出された手を握って握手を交わす。
 次いでヌーが一歩前へと足を踏み出すと、エイジの前に立った。

「俺も。旅籠町の酒場で

 そう言ってヌーもエイジと握手を交わしたが、その様子を見たソフィとセルバスは、無意識に顔を見合わせて驚く。

「クックック、これは驚いたな」

「え、ええ……!」

 ヌーが誰かに感謝の言葉を皮肉以外に言っているところを『アレルバレル』の世界でこれまで見た事が無かった為、ソフィもセルバスも信じられない物を見る目でヌーを見たのであった。

「お、お前本当にヌー何だろうな。タヌキかキツネが、お前に化けてんじゃねぇのか……!?」

 セルバスはヌーの背中にしっぽがついてないかとばかりに背後に回ってジロジロと見始めるが、そのセルバスの腹を足で蹴り飛ばす。

「うぐっ……!!」

 セルバスはヌーに蹴り飛ばされて、池の中へと頭から突っ込んでいった。

「ぶはっ……! て、てめぇ、何しやがんだ!!」

 池の中に落とされたセルバスは慌てて池から顔を出して、ヌーに文句の言葉を言うのであった。

「てめぇが気持ち悪い視線を向けて来るからだろうが、おいテア。お前、アイツの魂奪ってやれ」

「――!」(何で私がそんな事をしなきゃいけないんだよ!)

「クックック! 全くお主らはどこでも同じ事をやらなければ気がすまぬのだな」

 そう言いつつも楽しそうに笑うソフィであった。

 エイジもつられて笑っていたが、やがてこの場に居る者達の顔を目に焼き付けるかのように見渡していった。そして一度視線を切った後、また違う種類の笑みを浮かべ始めるのだった。

 …………

「ソフィ殿、エヴィ殿を無事に見つけて元の世界へ戻った後、もしサイヨウ様に会う機会があれば言伝を頼みたいのだが」

「む? それは構わぬぞ」

 ヌー達の言い争いを見て楽しそうにしていたソフィは、エイジの言葉に頷きを見せるのだった。

「感謝するぞ、ソフィ殿」

 …………

 そしてソフィに言伝を頼んだ後に、エイジは踵を返して来た道を再び歩いて帰っていくのだった。
 赤い狩衣を着たエイジの後ろ姿を見送るソフィの目には、何やら長い間抱えていた悩みが解決したような、それはそれは堂々とした足取りに映るのであった。

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