最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1060話 派閥と内部分裂

「げ、ゲンロク様!!」

 『妖魔召士ようましょうし』の長であるゲンロクに向けて、魔瞳である『青い目ブルー・アイ』を放っているヒュウガを見て、この場に駆け付けた『妖魔召士ようましょうし』達は、ヒュウガを取り押さえようと彼らも『青い目ブルー・アイ』を発動させ始める。

 ――しかしその更に背後から数人の『妖魔召士ようましょうし』達が現れたかと思うと、加勢をしようとしていたゲンロク派の『妖魔召士ようましょうし』達に攻撃を加え始める。

 ――捉術、『空空妨元くうくうぼうげん』。

 ゲンロク派を狙って背後から『ヒュウガ』派の『妖魔召士ようましょうし』数人が目を青くさせて『捉術そくじゅつ』を用い始める。

 どうやらこの場に来る前に『捉術そくじゅつ』を使う為の『魔瞳まどう』の準備を終えていたのだろう。

 ヒュウガ派の数人の『妖魔召士ようましょうし』達が、ゲンロク派の『妖魔召士ようましょうし』数人に使った『捉術そくじゅつ』は対象者の空間に直接の干渉を引き起こして、強引に行おうとしていた対象者の行動を覆す働きを示す『捉術そくじゅつ』であった。

 他人の目には変わった様子が分からないが『空空妨元くうくうぼうげん』を仕掛けられた、ゲンロク派の『妖魔召士ようましょうし』達の見えている視界は、全くの虚偽空間へと変貌を遂げさせられた。

 簡単にいえば詠唱者の『妖魔召士ようましょうし』に催眠状態にさせられたような物であるが、意識自体は失わされてはいない為、ゲンロク派の『妖魔召士ようましょうし』は、術を施されたという認識はしっかりと持っている。

 しかしこの『空空妨元くうくうぼうげん』の影響を解かなければ、視界に映る物が定かかどうか本人には分からない為、現実に起きている事が真実かどうかが分からなくなる。

 この『空空妨元くうくうぼうげん』という『捉術そくじゅつ』は、恐るべき力を持っているが、掛けられる前に結界等で防ぐ事も容易く、相手が油断をしている状態でなければ、そうそう掛けられる事は無いのだが、今のように意識がゲンロクに向けられていた時にすでに『魔瞳まどう』の準備を終えて、ヒュウガ派の『妖魔召士ようましょうし』が最初から使う気で迫って来られた為に『捉術』の餌食になってしまったようである。

 一番最初にこの部屋に入って来た数人のゲンロク派の『妖魔召士ようましょうし』数人は、後から入って来たヒュウガ派の『妖魔召士ようましょうし』達にほぼ無力化させられるのだった。

「お、お前達……!」

 ゲンロクは目の前で攻撃態勢に入ろうとしている『ヒュウガ』から自分を助けにきた同胞の『妖魔召士ようましょうし』達に視線を移すのだった。

「ちょうどいい機会だ! ゲンロク、あんたはここで組織の長の座を退いてもらう!」

 啖呵を切った『ヒュウガ』は隙を見せているゲンロクに対して『青い目ブルー・アイ』で魔力圧を生み出してゲンロクへと放つのであった。

 ドンッという衝撃音が響くと同時、ゲンロクは視線を再びヒュウガに戻した後、こちらも『青い目ブルー・アイ』で結界を生み出してヒュウガの魔力圧から身を守る。

 しかし当然『結界』を張る事を予測していたヒュウガの次の行動は早い。ヒュウガは隣に立っていたキクゾウの襟首を掴んだ後、自分とゲンロクの間へと立たせて盾にしようとする。

「えっ? えっ……!?」

 キクゾウも立派に上位の『妖魔召士ようましょうし』と呼べる程の『魔力』を有してはいるが、ゲンロク達と共に今の里へ移住してからは、前線を離れて会議に顔を出す程度の活動しかしておらず、咄嗟の事に直ぐに対処が出来ない様子で『妖魔召士ようましょうし』同士の戦いの場に、突然放り込まれてしまい、視線を泳がせながら右往左往と慌て始める。

 自分の前に『妖魔召士ようましょうし』の壁を作ったヒュウガは、ゲンロクの膨大な魔力による暴力で一撃で沈められる事を避ける事に成功した。

 類まれなる魔力を有する実力者であるヒュウガではあったが、流石に現在の『妖魔召士ようましょうし』の中で長となったゲンロクは、その

 そんなゲンロクを正面きって潰すには、一対一では歯が立たない事は誰よりもゲンロクの側近であったヒュウガが一番理解をしていた。

「ひゅ、ヒュウガ様……!?」

 ゲンロクの迸る魔力の前に曝されたキクゾウは、ようやく『青い目ブルー・アイ』を使って、この場に立っていられる程の軽減に成功したが、まだよく状況を理解出来ていない為か、必死に盾にしてきたヒュウガの名を呼んで真意を確かめようとする。

「貴方は黙ってそのまま『結界』を張り続けていなさい! ゲンロクがその気になったら貴方が一番最初に、あの世に行く事になりますよ」

「そ、そんな……!」

 望まぬ戦闘の場にヒュウガと共に立たされたキクゾウは、泣きたくなるような心情を抱えながら前を向くが、その視線の先では苛立ちを隠し切れないゲンロクが『青い目ブルー・アイ』を輝かせながら、ヒュウガ達を視線で射貫いているのであった。

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