最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1040話 空気の差

「この生意気な新入りがっ!死ねやぁっ!」

「こっちは今取り込んでんだよ、邪魔してんじゃねぇっ!!」

 何とセルバスは前を向いたまま、背後から迫って来る男の顎を右肘で突き上げると、男が突き出してきていた刃物を持った右手を脇で強引に挟み込んで思いきり力を入れて、刃物を地面に落とさせるのだった。そしてそのままセルバスは、背後を振り向くと同時に刃物を持った男の首を掴みあげる。

「うぐっ……!」

 この場に突如現れた刃物を持った男は『旅籠町』でミヤジが管理していた酒場に居た男で『煌鴟梟こうしきょう』の組員であった。

 セルバスを刃物を持った男から守ろうと動きかけたシグレは、どうやらその必要は無いようだと判断して、ゆっくりと息を吐いた後に置いていた岡持ちを再び担ぐように持つ。

「ん? てめぇは確か屯所を見張るようにと指示されていた『煌鴟梟こうしきょう』のか?」

「ぐっ……! お、降ろせ! こ、この……」

 セルバスに首を掴まれて動けない男は、宙に浮かされた状態で足をぶらぶらとさせながら、必死に文句を言う。


「チッ!」

 セルバスは事情を聞く為に掴んでいた男の首から手を離すと、もがき苦しんでいた刃物男は、どさりと音を立てながら地面に尻餅をついた。

「お前まだこの町に居たのかよ。もう『煌鴟梟こうしきょう』はボスごと全員捕えられて壊滅したぞ?」

 セルバスがそう言っても刃物男は、特に驚く様子を見せない。どうやら『煌鴟梟こうしきょう』の者達がこの町に連行されてきた所を見ていたのだろうか。

「う、うるせぇっ! この裏切りもんが! あとから入って来た癖しやがって、でかい面して上から見下ろしてんじゃねぇよ!!」

 そう言って再び地面に転がる刃物を掴むと男は、セルバスの胸をその刃物で突こうと両手で握りしめながら立ち上がった。

 再びセルバスが男を制止しようとするがその前にシグレが動いた。両手に力を込めて意識をセルバスに向けているのを確認して、相手が一歩前に踏み出した瞬間を狙ってその刃物を持った男の足の内側にシグレは自分の足を入れて、掬い上げるように相手の足を刈った。

 重心を前に出していた男は、突然の別口からの力の働きによって、あっさりと天を仰ぐような体勢で転びそうになる。

 シグレの目は力が抜けている男の両手をゆっくりと追いかけ続けた後、刃物を持った手が片手になった瞬間に、その刃物を持っている利き手の手首を裏から掴んで思いきり力を入れて、男の手首を手前に引いて捻じる。

「ぐ、ぐおおっ!!」

 一瞬の事で何が起きているか分からない男は、唐突に手首に激痛が走り、持っていた刃物が男の手から離れて落ちる。

 そのままシグレに右手を持たれた状態で男は尻餅をついたが、更にシグレは相手の首後ろに自分の腕を回して、相手の身体を抱き抱えるようにして、男の身動きを取れなくするのであった。

「くっ、は、はなせ……」

「動かないでくださいねぇ? それ以上動くと首を絞め落としますよ」

「ぐぅっっ!!」

 男は強引に藻掻いてシグレから離れようとしたが、関節を極められながらそう告げられて渋々と大人しくなるのであった。

 どうやら『予備群よびぐん』であるという事を知っていたのか、もう抵抗しても自分ではどうしようもないと悟ったようで刃物男は、なすがままにシグレと密着した状態で動きを止めるのであった。

(この野郎……)

 そしてセルバスは最初はこの襲ってきた男の事を考えていたのだが、男がシグレに密着されて、組み伏せられているを見たセルバスは、何やら刃物男に不機嫌そうな視線を向けた後、落ちていた刃物を手に取って『終焉の炎エンドオブフレイム』で燃やし尽くすのであった。

 ……
 ……
 ……

 その頃『旅籠町』の屯所内ではソフィが張った結界の中で、魔神がにこにことソフィを見てその見目麗しい顔を綻ばせていた。

 当初は神格持ちのテアに魔神と会話をさせようとソフィは呼んだのだが、今はその気持ちが薄れており、苦笑いを浮かべているエイジとソフィは視線を合わせていた。

 ――その理由は、隣に居るヌーとテアの所為であった。

 テアの食べる魚の身をとってあげていたヌーが、皿をテアに戻した後、美味しそうに食べ始めたテアに何度も美味いだろう、そうだろうとご機嫌な様子で『アレルバレル』の世界では、対するテアも『美味しい、美味しい』と顔を綻ばせて魚を食べていて、二人が魚の話をしながら、

 こんなに楽しそうにしている二人の邪魔をする事がソフィには出来ず、せっかく来てもらった『魔神』に申し訳ないという気持ちが芽生えていたのだが、その事を魔神に言うと、と、そういう言葉が返ってきてしまい、何とも言えない表情を浮かべると、ソフィは苦笑いを浮かべているエイジと顔を合わせているのであった。

 ……
 ……
 ……

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