最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第994話 ユウゲの結界

 セルバス達の案内で煌鴟梟のアジトへ向かうソフィ達。旅籠町付近もそこまで栄えている様子ではなかったが、この辺は見渡す限り道が続いているだけで何一つ景色が変わらない。

 広大で自然豊かな場所といえば聞こえはいいが、内情は妖魔が溢れかえってしまったせいで、人の手が入らなくなってしまったというところだろう。

 商人が護衛を雇って町と町を渡って商売を続けているというが、確かにこんな場所で妖魔に襲われてしまえば、普通の人間達は逃げ切る事など出来ず一溜まりも無いだろう。

 今はまだ昼という事もあり、道の先を見渡せるだけマシだが、ひとたび夜になればこんな場所は危険すぎて歩けないところである。

「在った! あれが『煌鴟梟こうしきょう』のアジトです!」

 捕らえられていた『煌鴟梟こうしきょう』の男が、指を差す方向には廃墟のような施設があった。ヌーがちらりとセルバスを見るが、セルバスに変わった様子は無い。どうやら嘘では無く本当にここがテアを襲おうとした連中のアジトで間違いはないのだろう。

「そうか。道案内ご苦労だったな」

 そう言うとヌーはその場で突然魔力を開放し始める。ヌーは手を前に突き出しながらスタックさせた魔力を込めて、セルバスに放った時の魔法『万物の爆発ビッグバン』とは比較にすらならない『神域領域』の極大魔法を無詠唱で発動させた。

 ――神域魔法、『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』。

 バチバチという音と共にヌーの手元が光ったかと思うと、次の瞬間にはその光が施設に放たれて、コンマ数秒後には大爆発を起こした。

 『煌鴟梟こうしきょう』のアジトとその周囲一帯は、ヌーの『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』の爆発によって砂塵さじんが舞い上がり何も見えなくなった。

 アジトを見た感想とかそういった物は何一つなく、何の確認もしないままに『ヌー』は『煌鴟梟こうしきょう』のアジトを攻撃したのであった。

「なっ!?」

 道案内をした『煌鴟梟こうしきょう』の捕らえられた男は、突然の出来事に素っ頓狂な声をあげる。

 セルバスやソフィ達はヌーがこうするかもしれないと薄々と感じていた為に、そこまでの驚きは無かった。ヌーの放った規模の極大魔法であれば、当然『煌鴟梟こうしきょう』のアジトはその内部に至るまで、その全てが破壊されてしまっていると思わせる程であった。

 ――が、しかし……。

 砂煙が晴れていき一般の人間である『煌鴟梟こうしきょう』の男の目にも、その『煌鴟梟こうしきょう』のアジトを見渡せるようになった頃、施設を覆い隠す光が明滅している状態ではあったが、廃墟に見える『煌鴟梟こうしきょう』のアジトは、ヌーが魔法を放つ前と何も変わっていなかった。

「ちっ! ここもあの場所と、似たような結界が張ってやがるのか」

「一介の強盗や人攫いの集団が、こんな『結界』を張れるのか?」

「う、そ……だろ?」

(金色を纏ってはいない状態であっても『真なる魔王』程度の魔族ならば、一気に数十体が木っ端微塵になる程の威力だったろ!?)

 アレルバレルの世界出身の魔族にして『煌聖教団』の幹部であったセルバスは、今のヌーが放った『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』の威力で施設が粉々になっていない事に驚き、ソフィとヌーは一度だけこの『結界』と、同規模の結界を目の当たりにしている為に驚きはしたものの、一度目よりはその驚きは少なく、むしろ結界の効力よりもこの『結界』を張った存在が居る方に驚くのであった。

 険しい表情で各々が施設に張られている『結界』の明滅を見ていると、死神のテアが施設に向けて歩いていき右手を天に向け始めた。

 すると次の瞬間、何も無い空間から自分の背丈よりも大きな鎌が出現する。
 テアは構えをとるとそのまま具現化した死神の鎌を施設に張られている結界に向けて、思いきり振り切る。

 ――カァンッ。

「――?」(硬い、物質?)

 一度の振り切りでどういった物かを判断したテアは、そのまま構えを再度取り始めると恐るべき速度で鎌を振り回し始めた。

 ただの人間である『煌鴟梟こうしきょう』の男には、目にも止まらぬ程の速度でテアが鎌で結界を壊そうと攻撃を加えていく。

 ――カァンッ、 ――カァンッ、 ――カァンッ。 ――ピシッ、 ――カァンッ、 ――カァンッ、 ――ピシッ!

 高速で攻撃を加えていくテアの攻撃に結界は何度も弾き返していくが、何度目かの攻撃の後にその『結界』の何度も叩いていた所に小さな亀裂が入っていき、やがてその亀裂が少しずつ大きくなっていった。

 そして拳大程の大きさにまで広がった亀裂に目掛けて一歩下がったテアは、軸足に力を思いきり力を入れて、そのまま前に踏み出しながら、大鎌を振り切った。

 ――ピシッ、――ピシッ、 ――パリィンッ!

 広がった亀裂を含んだ箇所の横一線にテアの力が込められた大鎌によって切り開かれて、最後には結界は明滅する事なく、そして割れる音と共に消え去った。

「――?」(どんなもんよ?)

 テアはヌーの元まで戻って行くと胸を張りながら、ふふんっと得意げな顔をして見せる。

「ちっ……! 俺の魔法で結界が弱っていたんじゃねぇのか?」

「――」(本当にこいつは、認めるって言う事を知らねぇ!)

 ヌーが詰まら無さそうにそう告げるとテアは、途端に頬を膨らませて不機嫌そうに言葉を吐き出すのだった。

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