最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第957話 続・おとり捜査

 アレルバレルの世界で『九大魔王』の『リーシャ』に敗れてしまった『セルバス』だが『代替身体だいたいしんたい』を利用して何とか生き永らえる事が出来ていた。

 総帥ミラの招集の前にこの世界に目をつけていた為、この世界に作って置いておいた『代替身体だいたいしんたい』を利用して復活を果たす事が出来たが、あそこまで本体をリーシャに切り刻まれて、使えなくされた以上は、もう本体の身体に戻るという事をするには余りにも現実味が無く、ひとまずはこの用意した『代替身体だいたいしんたい』で、力を取り戻していかなければならなくなるだろう。

 『煌聖の教団こうせいきょうだん』は数多の世界の大魔王達が集まる一大組織であり、生半可な力で『アレルバレル』の世界に戻ったところで、再びセルバスが元の地位に戻る事は難しいだろう。

 ひとまず大魔王『セルバス』はこの世界の実効的な支配の足掛かりを作る為に『煌鴟梟こうしきょう』の組織に入り込みながら当面の生活を安定させようと考えるのだった。

 彼はこの世界にヌーやソフィが居る事など分かる筈もなく、何の警戒もせずにソフィ達の居る屯所へ向かう事となるのであった。

 ……
 ……
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 そして護衛隊の屯所に居るソフィ達は、捕らえた『煌鴟梟こうしきょう』の男を使ってテア達を襲った組織の者達をおびき寄せようと作戦を決行するが、当然こちらも『煌聖の教団こうせいきょうだん』の生き残りがこの世界に居るとは思ってはいない為、図らずも偶然に別世界で滅ぼした組織の生き残りと再び出会う事になるのであった。

 ……
 ……
 ……

 そしてソフィの言いだした作戦通り、捕らえた男を『煌鴟梟こうしきょう』の仲間達に喧嘩沙汰で拘束したと思わせる為に、三日間屯所で過ごさせた翌日の朝となった。

「よし、ではこれからお前を釈放する。分かっているとは思うが、仲間達に俺達が見張っている事を気づかせるなよ?」

「あ、ああ……勿論だ! お、俺だってまだ死にたくねぇし、組織の連中には人攫いだった事はバレてねぇと言って、喧嘩沙汰で捕らえられたと伝えるよ」

 コウゾウの言葉を受けて、隣に立つヌーを一瞥しながら慌てて、そう告げる人攫いの男であった。どうやらヌーの顔を見た時の男の怯える様を見るに、余程『ヌー』に仲間達を殺されたことがトラウマになっているらしい。

 早くこの場から去って、もう二度と関わり合いになりたくないとこの『煌鴟梟こうしきょう』の男は、態度で告げていた。

「よし、お前は釈放された後に直ぐに組織の連中が接触しやすいような、人気ひとけの無い場所へ移動しろ」

「分かっているさ『ミヤジ』の兄貴か組織の連中に声を掛けられた時点で、あんた達に合図を送るから、その後はアンタ達に任せるからよろしく頼むよ」

「すでに護衛隊の腕利きの連中が、旅籠町の隅々に配備されている。旅籠町を出る前に、お前に近づく男は全員マークさせてもらう」

 この町の護衛隊はただの人間達ではない。全員がサカダイの『妖魔退魔師ようまたいまし』と呼ばれる組織の『予備群よびぐん』であり、謂わば『アレルバレル』の世界の魔族達のような連中である。

 『煌鴟梟こうしきょう』の組織の者達が、どれ程の力量を持っているかは知らないが、彼らであれば問題無く捕らえられるだろう。ソフィはコウゾウ達を見ながら、そう考えるのであった。

 ――問題はこの『煌鴟梟こうしきょう』の連中を捕らえた後にあるだろう。

 あくまでソフィ達はヌーのやり過ぎた行為を償う意味を兼ねて、逮捕に協力をする事となり、横に居るヌーも渋々とだが協力に合意した。

 だが、問題は『煌鴟梟こうしきょう』のボスとやらまで捜査の手が進んだ場合、ヌーがどういった行動に出るかが予測が出来ない。それ程までに、ヌーはテアを大事に想っているようなのである。

 ソフィは最初『ケイノト』の町で食事をしていた時に見た、ヌーの行いはあくまで気まぐれを起こした程度に考えていたのだが、その後のヌーのテアに対する行いを見ていたり、エイジから酒場でのヌーとのやり取りを聞いたソフィは、テアをどうやら単に気まぐれで溺愛のように可愛がっているのではなく、どこか頼りにしているような、家族やそれに近しい物をテアに抱いていると、そんな印象を受けているのであった。

 そしてそんなテアを攫おうとした連中をこれまでのヌーを知っているソフィが、屯所の地下で行った行為で終わらせるとは思えなかった。

 あくまであれは、実行犯に対する仕置きであり、実行を促した連中が見つかり次第、再びヌーは処刑に動き出すだろう。どう転ぶかはその時になってみないと分からない。

 しかしソフィはあくまで今回の協力は『煌鴟梟こうしきょう』を見つけ出すまでと考えている。コウゾウには悪いが、自分がもしヌーの立場となって考えた場合、が人攫いの対象となったりでもしたらと考えた時に、決してただではすまさないだろうなとソフィ自身が思い至った。

 その同じ気持ちを抱いているヌーに対して、ソフィは止める事は出来ない。もしもソフィであったならば彼自身でさえ何をするか分からないからである。

 今回ばかりはソフィは、ヌーがどういう行動にでようとも静観すると決めたようであった。

(しかし、テアもヌーも互いをここまで想い合っておるとはな)

 テアの気持ちも宿で魔神を通して聞いたソフィは、互いの関係性を理解しており、これまでのヌーを知るソフィ自身がどこか安堵している事に気づいて、よく分からない感情を抱く自身に笑みを浮かべるのであった。

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