最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第884話 本鵺の呪詛
サカダイの管理する森の中でイダラマの一派に襲われて、逃げ惑っていた退魔組の者達は、そのまま逃げる事が叶わずに次々と意識を失って倒れて行く。
上手く難を逃れたとばかりに最初に逃げ出した者達もまた、遠くの森の方で痙攣させながら苦しみ始め、やがては涎を垂らしながら意識を失って倒れるのであった。
かなり距離のある場所であっても『本鵺』の鳴き声の範囲は、ほぼこの森の全域と言っていい程に広い。
『ミカゲ』が使役していた『擬鵺』と似た種類の妖魔ではあるが『本鵺』は『擬鵺』とは根本から違う妖魔といえる。
そもそものランクが『擬鵺』と『本鵺』では違いすぎる。
『擬鵺』はランク『2』の妖魔であり『縛呪の行』を使ったとしても精々がランク『3』である。
当然ランク『3』と言えば『上位退魔士』の身に余る程のランク帯だが、イダラマが使役している式神の『本鵺』は、通常状態の身でありながらそのランクは『3』クラス。
見た目は人型でも無い妖魔だが『本鵺』はかつて、この『ノックス』の世界中で恐れられた歴史を持つ妖魔である。
今発している『呪詛』と呼ばれる鳴き声は、当然通常の人間では耐えられぬモノであり、上位の退魔士であるミカゲでさえも、見てわかる通りに意識を失って倒れる程の威力である。
戦力値が2000億を越える『スー』でさえ、意識を保つことは当然可能ではあるが、それでもこの呪詛の中で五体満足に戦う事は本来は不可能である。
しかし今は『イバキ』という『特別退魔士』が放つ『青い目』と結界の影響下にあるおかげで、先程までと同じように戦う事が可能な状態を保ち続けられるのであった。
本鵺の鳴き声によって既にこの場は死屍累々と化している。イダラマの一派たちはもう『退魔組』の者達に手を出さずに、この場でまだ余力を残している二人を遠巻きに見つめていた。
だが、そんな満身創痍のスーとイバキの元に近づく人型の妖魔が現れる。その妖魔は額から角を生やした人型を保つ妖魔。
――『鬼頼洞』であった。
「イバキ。アイツは相当に不味い」
「イダラマは『妖魔召士』だ。当然に従えている妖魔も俺やタクシン達『特別退魔士』より上だろうね」
イバキは結界の内側から周囲を見渡してみる。
すでに数十名と居た退魔士達は、そこら中に転がっている。全員が死んでいるとは言わないが、ここからでは生死は不明である。
「前方はイダラマ達に護衛の剣士たち。背後にはさっきの大男に君が戦っていた剣士。どうやら退路は完全に断たれたとみていいだろうね」
イバキは退魔組に属する『特別退魔士』の中でも力を有する側の者であり『青い目』すらも開眼している稀有な『退魔士』である。
だが、それでも『妖魔召士』が相手では分が悪すぎる。それもイダラマという『妖魔召士』だけでは無く、護衛剣士もまた多く残っている。
元々の人数はイバキ達『退魔組』も負けてはいなかったが、退魔組の者達は『式』を使役するどころか、戦う意思を見せたのは結局ミカゲくらいなものであった。
「我先にと逃げた連中達がもう少し使える奴らであったならば、この場を逃げ切る事も可能だったかもしれねぇが、それはもう言っても仕方ねぇか」
剣を構えて油断無く妖魔やイダラマに視線を向けたまま、スーはイバキにそう告げる。イバキは既にこの森に来る前から『退魔組』の退魔士達に失望の念を抱いていた。
しかしそれでも自分達の身に危険が迫れば、戦闘の意思を見せてくれるとイバキは信じていた。いや厳密には信じたいという願望に近いものだったかもしれないが。
『妖魔召士』や『妖魔退魔師』に選ばれる器で無ければ、戦場へ立つ事すら許されなかった過去と違い『ゲンロク』のおかげで自分達も『退魔士』として戦う事の出来ない人間達を守る事が出来る存在になれた。
『退魔組』は自分と同じ志を持った誇りある『退魔士』の集団で、力を合わせて有事の際には、背中を任せられると本気でイバキは思っていた。
だが、彼らは自分と同じ志を持つ同志では無いと、もう今は自信をもって断言できるのだった。
そしてそんな事を考えていたイバキだったが『鬼頼洞』が遂に、イバキ達の前で立ち止まった。
「イバキ。劉鷺はいつ頃戻る?」
「何だって? 何で今『劉鷺』の事を聞くんだ?」
イバキが敵の妖魔が目の前に現れた事で戦う為に目に力を込め始めた時、唐突に伝言を頼んだ自分の『式』の事を聞かれて不思議そうにそう問い返すのだった。
「いいから答えるんだ」
「あ、ああ。あいつの速度ならば、今頃はもうこちらに戻ってきてもおかしくはないよ」
「そうか……。よし!」
何かを決心したような覚悟を決めた顔を『スー』は『イバキ』に見せるのだった。
……
……
……
上手く難を逃れたとばかりに最初に逃げ出した者達もまた、遠くの森の方で痙攣させながら苦しみ始め、やがては涎を垂らしながら意識を失って倒れるのであった。
かなり距離のある場所であっても『本鵺』の鳴き声の範囲は、ほぼこの森の全域と言っていい程に広い。
『ミカゲ』が使役していた『擬鵺』と似た種類の妖魔ではあるが『本鵺』は『擬鵺』とは根本から違う妖魔といえる。
そもそものランクが『擬鵺』と『本鵺』では違いすぎる。
『擬鵺』はランク『2』の妖魔であり『縛呪の行』を使ったとしても精々がランク『3』である。
当然ランク『3』と言えば『上位退魔士』の身に余る程のランク帯だが、イダラマが使役している式神の『本鵺』は、通常状態の身でありながらそのランクは『3』クラス。
見た目は人型でも無い妖魔だが『本鵺』はかつて、この『ノックス』の世界中で恐れられた歴史を持つ妖魔である。
今発している『呪詛』と呼ばれる鳴き声は、当然通常の人間では耐えられぬモノであり、上位の退魔士であるミカゲでさえも、見てわかる通りに意識を失って倒れる程の威力である。
戦力値が2000億を越える『スー』でさえ、意識を保つことは当然可能ではあるが、それでもこの呪詛の中で五体満足に戦う事は本来は不可能である。
しかし今は『イバキ』という『特別退魔士』が放つ『青い目』と結界の影響下にあるおかげで、先程までと同じように戦う事が可能な状態を保ち続けられるのであった。
本鵺の鳴き声によって既にこの場は死屍累々と化している。イダラマの一派たちはもう『退魔組』の者達に手を出さずに、この場でまだ余力を残している二人を遠巻きに見つめていた。
だが、そんな満身創痍のスーとイバキの元に近づく人型の妖魔が現れる。その妖魔は額から角を生やした人型を保つ妖魔。
――『鬼頼洞』であった。
「イバキ。アイツは相当に不味い」
「イダラマは『妖魔召士』だ。当然に従えている妖魔も俺やタクシン達『特別退魔士』より上だろうね」
イバキは結界の内側から周囲を見渡してみる。
すでに数十名と居た退魔士達は、そこら中に転がっている。全員が死んでいるとは言わないが、ここからでは生死は不明である。
「前方はイダラマ達に護衛の剣士たち。背後にはさっきの大男に君が戦っていた剣士。どうやら退路は完全に断たれたとみていいだろうね」
イバキは退魔組に属する『特別退魔士』の中でも力を有する側の者であり『青い目』すらも開眼している稀有な『退魔士』である。
だが、それでも『妖魔召士』が相手では分が悪すぎる。それもイダラマという『妖魔召士』だけでは無く、護衛剣士もまた多く残っている。
元々の人数はイバキ達『退魔組』も負けてはいなかったが、退魔組の者達は『式』を使役するどころか、戦う意思を見せたのは結局ミカゲくらいなものであった。
「我先にと逃げた連中達がもう少し使える奴らであったならば、この場を逃げ切る事も可能だったかもしれねぇが、それはもう言っても仕方ねぇか」
剣を構えて油断無く妖魔やイダラマに視線を向けたまま、スーはイバキにそう告げる。イバキは既にこの森に来る前から『退魔組』の退魔士達に失望の念を抱いていた。
しかしそれでも自分達の身に危険が迫れば、戦闘の意思を見せてくれるとイバキは信じていた。いや厳密には信じたいという願望に近いものだったかもしれないが。
『妖魔召士』や『妖魔退魔師』に選ばれる器で無ければ、戦場へ立つ事すら許されなかった過去と違い『ゲンロク』のおかげで自分達も『退魔士』として戦う事の出来ない人間達を守る事が出来る存在になれた。
『退魔組』は自分と同じ志を持った誇りある『退魔士』の集団で、力を合わせて有事の際には、背中を任せられると本気でイバキは思っていた。
だが、彼らは自分と同じ志を持つ同志では無いと、もう今は自信をもって断言できるのだった。
そしてそんな事を考えていたイバキだったが『鬼頼洞』が遂に、イバキ達の前で立ち止まった。
「イバキ。劉鷺はいつ頃戻る?」
「何だって? 何で今『劉鷺』の事を聞くんだ?」
イバキが敵の妖魔が目の前に現れた事で戦う為に目に力を込め始めた時、唐突に伝言を頼んだ自分の『式』の事を聞かれて不思議そうにそう問い返すのだった。
「いいから答えるんだ」
「あ、ああ。あいつの速度ならば、今頃はもうこちらに戻ってきてもおかしくはないよ」
「そうか……。よし!」
何かを決心したような覚悟を決めた顔を『スー』は『イバキ』に見せるのだった。
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