最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第876話 背後からの声

 イバキ達は『ケイノト』に戻る為に『加護の森』の出口へ向かっている。こうして引き返しながらもイバキの胸中は複雑だった。一体何をしにこの場所へ来たのかとか、そう言う事では無い。これまで表立って妖魔と戦う事が出来なかったイバキだが『退魔組』という組織が『ケイノト』に設立された事で色々と『妖魔召士ようましょうし』が行ってきたを手にする事が出来た。

 これまではどんなに『サテツ』という上の立場の人間に自分が煙たがられていても『仲間』と共に町の弱き者達を守っていけるならば、いくらでも耐えられるとそう信じていた。

 自分はどうやら『妖魔召士ようましょうし』とまでは名乗れる程の力は無いが『退魔組』という新たな組織の『退魔士』としてであれば、そこそこ戦える才能はあったようだった。

 勿論これまでの歴史で活躍をされてきた『妖魔召士ようましょうし』とは、比べ物にならない程に、矮小な存在に変わりはない。

 しかし自分と志を同じくする同志達と力を合わせれば、いつも美味しい食事を食べさせてくれる食事処の主人や女将。他にも自分の住む町で、必死に生きている者達を守っていける。

 だが、目の前を歩く志を同じくとする仲間達だと思っていた者達が、実は自分の事しか考えていないという現実を目の当たりにした事で、こうして自分の前に居るを信用出来なくなっていたのである。

 列の最後尾をフラフラと歩いて危なっかしく歩くイバキを彼の護衛であるスーは心配そうに見つめる。古い関係であるスーは、今のイバキの心情を正しく理解出来ている。

 しかし組織のいち隊士同然の自分達が出来る事は無い。中途半端な慰めの言葉は逆効果であるとも分かっている。だから今は茫然自失状態の危なっかしいイバキを無事に『ケイノト』まで送る事くらいしか出来ない。

 そこまで考えたスーは首を振って顔をあげる。それこそが護衛である自分の正しい仕事だと、そう思う事にするスーであった。

 そしてスーがイバキに対して何か話題が無いかと考え始めた矢先に、最後列に居る自分達の背後から足音が聞こえてきた。

「ん?」

 その足音に気づいたイバキも背後を振り返る。

「た、助けてくれぇ!! よ、妖魔が……!! 妖魔が現れて、仲間達がやられたぁっ!!」

 その言葉に町に帰れると安心しきっていた退魔士達が、一斉に顔を青くし始めた。退魔組の退魔士達が何かを言う前に、俯いていたイバキが声をあげた。

「何処に現れた! 皆、直ぐに向かうぞ! 俺が最前線に立つから、皆援護してくれっ!!」

 そう言って返答を待たずにイバキは駆け出していく。そしてその後ろ姿を追いかけるようにスーを追いかけて行く。

「ま、待ってください! 私も行きます!!」

 そして少し遅れて『ミカゲ』も二人の後を追い始めると、町に戻ろうとしていた他の退魔士達は互いの顔を見た後、渋々とイバキ達を追いかけるのだった。

 自分達よりも上の立場の人間達を置いて逃げ帰ったとなれば『サテツ』に対して心証が悪くなると思ったのだろう。嫌々ながらも彼らは、森の奥へと引き返すのだった。

 ……
 …… 
 ……

 そして彼らが入ってきた西側の入り口とは反対方向。広大な森を抜けて少し開けた場所に出たイバキ達。ずっと森の中を走ってきた彼らだったが、ようやく先頭を走っていた『リク』が足を止めた。

「妖魔は『加護の森』に出たわけでは無いのか?」

 息を整え直した後にイバキはここまで案内してきたリクにそう言うと、リクは前を向いていた顔をこちらに向けながら口を開いた。

「こ、この先の森なのです! な、仲間が囮になってくれて、イバキ様達を呼んでくるようにと!」

「そ、そうか……! とりあえず君だけでも無事でよかった。ここからは私が先頭に立とう。君はスーの後ろへ」

「あ、ありがとうございます」

 リクとイバキが話をしていると、ミカゲやスーそれに後続達も追いついてくる。その様子を見ながらリクはイバキに礼を告げた。

「イバキ。この道の先にある森はだぞ?」

「ああ。しかし今は同志達の命がかかっている。そんな事を言っている場合じゃないよ。先を急ごう」

 そう言って遂に彼らは『加護の森』の結界の及ばぬ地。イダラマの待つへとその足を踏み入れるのだった。

 ――彼らにとって、悪夢が待っているとも知らずに

 ……
 ……
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