最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第875話 それは忠誠心か、はたまた信仰心か
「さて、まずこの子の持っている情報を得るとしようか」
エヴィがそう言うと血だまりの中で意識を失い、気絶している『退魔組』のリクの髪を掴みあげた。
「おい、起きろ」
エヴィは掴みあげたリクの顔に右手で二、三度平手を打つ。
「うっ……!」
リクは呻き声をあげながらゆっくりと、目を覚ますのだった。
「え……? お、俺は一体……、ここ、は?」
「僕の目を見ろ」
「!?」
エヴィの目が金色に変わったかと思うと、キィイインという甲高い音が周囲に響き渡った。朧気に目を覚ましたばかりのリクだったが、言われるが儘にエヴィの目を見ると、そのまま意識が再び遠のいた。
「よし『イダラマ』。こいつは今洗脳状態にある。何でも好きに聞いていいよ」
「ああ、分かった……」
別に今更エヴィの能力を疑うわけでは無いが、こんなにも簡単で術式も何もないのに、人を一人簡単に操った事に思うところがあるのか、言葉を出すまでに少し間を置いて口を開くのだった。
「聞こえるか? お前は何をしにこの森へ来た?」
「俺達は『サテツ』様の……め、命令で『加護の森』に現れたという……、二人組の討伐に……き、……た」
リクの目は虚ろのままでイダラマの顔を見ていない。どこか虚空を見つめたままで、口だけが違う生き物のように勝手に話し始めているようだった。
「二人組? 何だそれは。もっと詳しく最初から分かっている事を全部言え」
「?」
だが、今度はリクは何も言わずに虚空を見つめたままだった。
「どうした? 分かっている事を全部言えと言っているんだ!」
しかしそれでも何の反応を見せないリクに、イダラマは『金色の目』で操った張本人であるエヴィを一瞥する。どう言う事だとばかりに、視線で言葉を告げてくるイダラマを見て、やれやれとばかりに、溜息を吐きながら今度はエヴィが声を掛ける。
「二人組とは何だ?」
エヴィはイダラマが言った質問をリクにをもう一度繰り返す。
「二人組は『加護の森』に現れた妖魔……の事だ」
「君達はその二人組の妖魔を倒す為に来たのか?」
「……そ、うだ」
エヴィは掴んでいたリクを離すと立ち上がった。自分の力で立てない状態のリクは、目を虚ろのままにして血だまりの中で虚空を見つめ続けていた。
「どうやらコイツらはイダラマを捕まえに来たのではなく『加護の森』とやらに現れた二人組の妖魔を討伐しに来たそうだよ」
リクから聞き出した内容を纏めて、イダラマにそう告げるエヴィだった。
「そうか。しかし一つ聞きたいのだが、何故お主の質問の時だけこいつは答えたのだ?」
先に同じ質問を投げかけたイダラマだったが、その時にはリクは何も答えなかった。しかし、その後に同じ質問を繰り返したエヴィにだけは細やかに詳細を告げてみせた。その事がどうにも腑に落ちなかったイダラマはエヴィにそう尋ねたのだった。
「ああ『金色の目』は、あくまで操る側の身体状況に応じた洗脳しか出来ない。こいつは先程まで意識を失っていた状態だっただろう? 覚醒したばかりで茫然としている状態で分かっている事を最初から細かく話せと言われても頭が働いていなかったのだろう。だから考えさせるような聞き方では無く、簡単に思い出せる内容を逐一話させる聞き方にしただけだよ」
「成程、お主の使う『金色の目』とやらの効果は万全な洗脳では無く、その者の現在の身体状況に応じて催眠状態にさせた上で暗示をかけるというような感じなのだな」
魔族のエヴィが使う『魔瞳』である『金色の目』を細かく分析して自分なりの解を示して説明をするイダラマであった。
どうやら彼は『妖魔召士』としての知識分析で『金色の目』を自分なりの解釈で分析したようだった。
「んー難しい事は分からないけど、多分そう言う事だね。こいつがさっきまで気絶していなくて、普段通りの状態だったらもっと難しい質問をしても答えられただろうけどね。意識が朦朧としている状態で操ったから難しい事には答えられなかったみたいだ」
「成程。理解したよ」
(どうやらエヴィが使う『金色の目』という『魔瞳術』とやらは、退魔士達の『縛呪の行』のような万能性は無く、あくまで簡易な『催眠術』の類という事だ)
退魔士達が妖魔に使う『縛呪の行』や『解放の行』は妖魔の健康状態に左右されず、強制的に従わせる事が出来る。つまり『行』の方がより強力だといえるとイダラマは結論を出すのだった。
「ああ、そうそう『イダラマ』」
少しだけエヴィの声から鋭い悪意のような物を感じたイダラマは、自分の考察を少し頭から除外して、エヴィに視線を向ける。
「言っておくけど、僕はあくまで意識操作だけの支配を目的としてこの子をまだまだ利用するつもりで『金色の目』を使っただけだからね。壊すつもりなら、強制的に従わせる事も可能だから、僕たち『魔族』を見下すような勘違いだけはしないでね?」
言葉遣いはそこまで強いものでは無かったが『魔族』とやらを見下すのは許さないという、確固たる決意が聞き取れるイダラマだった。
彼がここまで魔族に対して、強い自尊心を持つには理由がある。それは彼の主である『ソフィ』が自分と同じ『魔族』だという事である。
――大魔王『ソフィ』という存在に、大魔王『エヴィ』は強い尊敬と畏敬の念を抱いている。
他の『九大魔王』達もソフィという主人に対して同じような思いを抱いているのだろうが、エヴィもまたその思いに負けない程の感情を抱いている。そしてそれは神に向ける信仰に近い感情である。
自分が貶されるだけならどうでもいいが、同じ魔族である『ソフィ』が貶されると、想像しただけでも許せないのであった。
「ああ……。もちろんそんなつもりは無いさ。そもそもお主を認めておるからこそ、俺はこの場に招き入れたのだからな」
「それだったらいいんだ」
今ニコリと笑うエヴィは年相応の子供の笑みだった。しかし先程の『魔族を見下すな』と告げた時の少年の目は、まるで殺戮を平然と行えるようなそんな目を見せていた。
どちらが本当の彼の性格なのだろうかと、イダラマはリクを再び操ろうとしている姿を傍目に、そんな事を考えるのだった。
エヴィがそう言うと血だまりの中で意識を失い、気絶している『退魔組』のリクの髪を掴みあげた。
「おい、起きろ」
エヴィは掴みあげたリクの顔に右手で二、三度平手を打つ。
「うっ……!」
リクは呻き声をあげながらゆっくりと、目を覚ますのだった。
「え……? お、俺は一体……、ここ、は?」
「僕の目を見ろ」
「!?」
エヴィの目が金色に変わったかと思うと、キィイインという甲高い音が周囲に響き渡った。朧気に目を覚ましたばかりのリクだったが、言われるが儘にエヴィの目を見ると、そのまま意識が再び遠のいた。
「よし『イダラマ』。こいつは今洗脳状態にある。何でも好きに聞いていいよ」
「ああ、分かった……」
別に今更エヴィの能力を疑うわけでは無いが、こんなにも簡単で術式も何もないのに、人を一人簡単に操った事に思うところがあるのか、言葉を出すまでに少し間を置いて口を開くのだった。
「聞こえるか? お前は何をしにこの森へ来た?」
「俺達は『サテツ』様の……め、命令で『加護の森』に現れたという……、二人組の討伐に……き、……た」
リクの目は虚ろのままでイダラマの顔を見ていない。どこか虚空を見つめたままで、口だけが違う生き物のように勝手に話し始めているようだった。
「二人組? 何だそれは。もっと詳しく最初から分かっている事を全部言え」
「?」
だが、今度はリクは何も言わずに虚空を見つめたままだった。
「どうした? 分かっている事を全部言えと言っているんだ!」
しかしそれでも何の反応を見せないリクに、イダラマは『金色の目』で操った張本人であるエヴィを一瞥する。どう言う事だとばかりに、視線で言葉を告げてくるイダラマを見て、やれやれとばかりに、溜息を吐きながら今度はエヴィが声を掛ける。
「二人組とは何だ?」
エヴィはイダラマが言った質問をリクにをもう一度繰り返す。
「二人組は『加護の森』に現れた妖魔……の事だ」
「君達はその二人組の妖魔を倒す為に来たのか?」
「……そ、うだ」
エヴィは掴んでいたリクを離すと立ち上がった。自分の力で立てない状態のリクは、目を虚ろのままにして血だまりの中で虚空を見つめ続けていた。
「どうやらコイツらはイダラマを捕まえに来たのではなく『加護の森』とやらに現れた二人組の妖魔を討伐しに来たそうだよ」
リクから聞き出した内容を纏めて、イダラマにそう告げるエヴィだった。
「そうか。しかし一つ聞きたいのだが、何故お主の質問の時だけこいつは答えたのだ?」
先に同じ質問を投げかけたイダラマだったが、その時にはリクは何も答えなかった。しかし、その後に同じ質問を繰り返したエヴィにだけは細やかに詳細を告げてみせた。その事がどうにも腑に落ちなかったイダラマはエヴィにそう尋ねたのだった。
「ああ『金色の目』は、あくまで操る側の身体状況に応じた洗脳しか出来ない。こいつは先程まで意識を失っていた状態だっただろう? 覚醒したばかりで茫然としている状態で分かっている事を最初から細かく話せと言われても頭が働いていなかったのだろう。だから考えさせるような聞き方では無く、簡単に思い出せる内容を逐一話させる聞き方にしただけだよ」
「成程、お主の使う『金色の目』とやらの効果は万全な洗脳では無く、その者の現在の身体状況に応じて催眠状態にさせた上で暗示をかけるというような感じなのだな」
魔族のエヴィが使う『魔瞳』である『金色の目』を細かく分析して自分なりの解を示して説明をするイダラマであった。
どうやら彼は『妖魔召士』としての知識分析で『金色の目』を自分なりの解釈で分析したようだった。
「んー難しい事は分からないけど、多分そう言う事だね。こいつがさっきまで気絶していなくて、普段通りの状態だったらもっと難しい質問をしても答えられただろうけどね。意識が朦朧としている状態で操ったから難しい事には答えられなかったみたいだ」
「成程。理解したよ」
(どうやらエヴィが使う『金色の目』という『魔瞳術』とやらは、退魔士達の『縛呪の行』のような万能性は無く、あくまで簡易な『催眠術』の類という事だ)
退魔士達が妖魔に使う『縛呪の行』や『解放の行』は妖魔の健康状態に左右されず、強制的に従わせる事が出来る。つまり『行』の方がより強力だといえるとイダラマは結論を出すのだった。
「ああ、そうそう『イダラマ』」
少しだけエヴィの声から鋭い悪意のような物を感じたイダラマは、自分の考察を少し頭から除外して、エヴィに視線を向ける。
「言っておくけど、僕はあくまで意識操作だけの支配を目的としてこの子をまだまだ利用するつもりで『金色の目』を使っただけだからね。壊すつもりなら、強制的に従わせる事も可能だから、僕たち『魔族』を見下すような勘違いだけはしないでね?」
言葉遣いはそこまで強いものでは無かったが『魔族』とやらを見下すのは許さないという、確固たる決意が聞き取れるイダラマだった。
彼がここまで魔族に対して、強い自尊心を持つには理由がある。それは彼の主である『ソフィ』が自分と同じ『魔族』だという事である。
――大魔王『ソフィ』という存在に、大魔王『エヴィ』は強い尊敬と畏敬の念を抱いている。
他の『九大魔王』達もソフィという主人に対して同じような思いを抱いているのだろうが、エヴィもまたその思いに負けない程の感情を抱いている。そしてそれは神に向ける信仰に近い感情である。
自分が貶されるだけならどうでもいいが、同じ魔族である『ソフィ』が貶されると、想像しただけでも許せないのであった。
「ああ……。もちろんそんなつもりは無いさ。そもそもお主を認めておるからこそ、俺はこの場に招き入れたのだからな」
「それだったらいいんだ」
今ニコリと笑うエヴィは年相応の子供の笑みだった。しかし先程の『魔族を見下すな』と告げた時の少年の目は、まるで殺戮を平然と行えるようなそんな目を見せていた。
どちらが本当の彼の性格なのだろうかと、イダラマはリクを再び操ろうとしている姿を傍目に、そんな事を考えるのだった。
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