最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第862話 残酷な契約
「何処から説明をするべきかな」
『妖魔召士』が『式』に施す契約の説明しようとするエイジだが、どこから説明をするかで悩んでいるようであった。
「我はサイヨウからは悪に染まった者に徳を積ませて更生させて、来世で善にするのがサイヨウのような『妖魔召士』の使命。と言っていたのを聞いたことがあるのだが、それは何か『式』にする事に対して関係がある事なのか?」
サイヨウが言っていた事を口にするソフィに、エイジは耳を傾けて軽く頷いた。
「それはかつて『妖魔召士』の心得だったことなのだ。この世界では人間を襲う妖魔が昔からいた為に、それを止めようとした人間が悪い事をする妖魔を更生させてもう人間を襲わせないように従わせようと考えたのだ」
エイジが口を開く前に、今度はシュウが説明をしてくれた。
「そう。小生達『妖魔召士』が編み出した『式』という術式はそう言った目的で編み出された物なのである」
「ふむ……。成程」
「昔は自分よりも弱い妖魔のみを『式』とする事が出来た為『式』にしようとする妖魔より強い者しか『妖魔召士』になることは出来なかったのだ」
「それが今では、誰でも出来るようになったという事か?」
「誰でもというワケでは無いが、敷居が大きく下がったのは紛れもない事実だ。この新たに生まれた術式は『式』にしたい妖魔に対して、一時的に力を制御させる事の出来る術式なのだが、当然かなりの魔力が必要となる為にほとんどの退魔士は使えない。一定以上の魔力がある者達、退魔組の連中達で言えば『特別退魔士』と呼ばれる者達以上であれば使える術式だな」
どうやらその新たに作られた術式が動忍鬼達の言っていた話に繋がっているのだろうと、ソフィはアタリをつけるのだった。
「妖魔から人間を守る退魔士が、かつてより増えてくれたのはいい事なのだ。小生も『妖魔召士』では無い『退魔士』が『式』を扱う事に関しては、思うところはあれども反対というわけではない」
エイジがそこで一度口を閉ざすと、シュウが代わりに口を開く。
「エイちゃんは他の『妖魔召士』とは違い、まだこの町の『退魔組』の連中や『サカダイ』に居る者達に対して一部分を除いてだが、認めて理解を示しているのだ」
「一部分を除いて?」
シュウの言葉に頷きを見せていたソフィだったが、含みのある言葉につい言葉を挟んでしまうのだった。
「小生とて仲間や町の者達を守る為に、退魔士達が戦う術を身につけてくれた事は、大いに感謝しているし、その気概は立派なモノだと認めているのだが、先程の新たな術式が問題なのだ……」
シュウがソフィの疑問に答えようとしたが、本人が口を開いた為に今度はシュウが口を閉ざして、エイジの言葉に頷く。
「それはどう言った術式なのだ?」
「弱らせた妖魔を強制的に自我を失わせて強引に自らの『式』へと契約させる事だ」
エイジの言葉を聞いたソフィは、動忍鬼の言っていた事は間違いなくこの術式の事だと思い当たるのだった。
「この新たな術式の元となったモノは、元々『妖魔召士』が使っていた手印の術なのだが、それを今の【退魔士】達にも使えるように『ゲンロク』という男が改良を加えたモノが、今の『退魔組』が使っている術式なのだ」
「意思なく契約させて、成立するものなのか?」
「新たな術式とは言ったが『契約術式』そのものは『妖魔召士』の使っている真っ当な契約方法なのだ。契約に至るまでの過程をすっ飛ばして、意識を失わせるまでが、この新しい術式で、契約紙帳に名を記した後は、如何に妖魔に記憶が無かろうと、納得をせぬとしてもそんな事は関係がなくなる」
「そんな方法が問題にならずにまかり通っておるのか……?」
「当然『妖魔召士』の多くは認めてはおらぬし、そもそも『妖魔召士』の適正が無かったものが『退魔士』と名乗る事すら不愉快に思っている者もいる。だが、問題視はしているが誰も何も出来ないのが現状だ」
「それは、前提にあるものが人間を守る為だからか?」
ソフィの言葉に重苦しい溜息を吐きながら、首を縦に振って頷くエイジであった。小声でヌーがテアと会話をしている声が聞こえた。どうやらテアの方からどういう話をしているのかをヌーに聞いたのだろう。今までのエイジの話をテアに通訳していた。
しかしソフィはそんなヌーとテアの会話よりもエイジの言葉を聞いた事によって、何故『動忍鬼』が『タクシン』と『式』の契約を結んでいたのか、その説明がついて合点がいったのだった。
(あやつは……、あやつらは望まぬ契約を結ばせられた挙句に、自我を失わされて嫌々戦わされていたのか……)
ソフィは今の話を聞いた上で、動忍鬼の辛そうな顔を思い出した。
(つまりあやつは仲間達が強引に従わされていたのを知っていて、それを助けようとして逆に自分も捕まってしまった)
動忍鬼が『タクシン』に『式』にされてからどれくらいの期間が経っていたのかまでは、ソフィには分からない。しかし『式』の呪縛から解放された時に動忍鬼は言っていた。
――『あの人間の寿命が終わるあと数十年は、我慢しないといけないと思っていた』と。
苦しんでいる同胞を救えず、自分もまた同じく望まぬ契約をさせられて、自我を失わされた挙句、戦いたくもない戦いを強いられていた。それも戦わされる相手は、動忍鬼と同じ妖魔なのである。
もしかしたら自分の記憶が無い間に、彼女の友人や仲間を殺させられていたかもしれない。
(我はあの時なんと惨い事をあやつに言ってしまったのだろうか)
ソフィがあの時に『動忍鬼』に言った言葉は決して間違いではない。
――『成し遂げたい思いがあるのであれば、それを叶えられるだけの力を持て』
この言葉は間違いでは無い。しかし間違いでは無いが理屈では無いのだ。無念で無念でどうしようもなく、悲しく辛い日々を過ごさせられていたのだ。
それがようやくソフィ達に出会う事で、幸運にも『式』の呪縛から解放された。
そうであるならば今直ぐにでも同胞達を無理矢理従わせている人間達の元に向かい、これまでの無念と恨みを晴らす為に、その手を振るいたかった事だろう。
「おいてめぇ……。そのツラは何だよ?」
テアに『式』の術式の説明を行っていたヌーは、ふと恐ろしい形相を浮かべていたソフィに気づいて声を掛ける。
しかしそのヌーの問いかけにソフィは答えない。今ソフィはその余裕が無い。
――今ソフィの胸中では、とある感情が渦巻いていたのである。
「おい、ソフィ! 聞いていやがるの……かっ……よ」
――ソフィは声は出さなかった。
別にヌーに何かをしたわけでは無かった。単に顔をあげてヌーの方を見ただけだった。
しかしたったそれだけだったというのに、ソフィと視線が合ったヌーとその横でソフィの目を見てしまったテアは同時に竦み上がった。
「すまぬが少し待ってくれ……。気持ちの整理をつけたい」
先にテアがソフィの視線で縮こまっていた体が動いたようで、慌てて何度も頷きながら横に居るヌーの頭に手を置いて、強引にその頭を掴んで下げさせる。
テアは契約主であるヌーを守る為にそういった行動に出たのだが、ペコペコと頭を下げさせるように何度も何度もテアがヌーの頭を掴んで上下に振ってきたことで、動けるようになったヌーはブチギレた。
「て、てめぇ! テア! 何しやがる!」
「――!」(ば、馬鹿! てめぇの命を守ってやろうと思ったんだよ! この御方を怒らせるな! 何かやべぇっ!!)
そのテアとヌーの様子にシュウは笑っていたが、エイジはそちらを見ずにソフィを見て感心していた。
どうやら先程の話で、ソフィの抱いた感情を理解したのだろう。
彼らは『流石はサイヨウ様と友人だけの事はある』とばかりに、ソフィを認めるような視線と頷きを見せるのであった。
『妖魔召士』が『式』に施す契約の説明しようとするエイジだが、どこから説明をするかで悩んでいるようであった。
「我はサイヨウからは悪に染まった者に徳を積ませて更生させて、来世で善にするのがサイヨウのような『妖魔召士』の使命。と言っていたのを聞いたことがあるのだが、それは何か『式』にする事に対して関係がある事なのか?」
サイヨウが言っていた事を口にするソフィに、エイジは耳を傾けて軽く頷いた。
「それはかつて『妖魔召士』の心得だったことなのだ。この世界では人間を襲う妖魔が昔からいた為に、それを止めようとした人間が悪い事をする妖魔を更生させてもう人間を襲わせないように従わせようと考えたのだ」
エイジが口を開く前に、今度はシュウが説明をしてくれた。
「そう。小生達『妖魔召士』が編み出した『式』という術式はそう言った目的で編み出された物なのである」
「ふむ……。成程」
「昔は自分よりも弱い妖魔のみを『式』とする事が出来た為『式』にしようとする妖魔より強い者しか『妖魔召士』になることは出来なかったのだ」
「それが今では、誰でも出来るようになったという事か?」
「誰でもというワケでは無いが、敷居が大きく下がったのは紛れもない事実だ。この新たに生まれた術式は『式』にしたい妖魔に対して、一時的に力を制御させる事の出来る術式なのだが、当然かなりの魔力が必要となる為にほとんどの退魔士は使えない。一定以上の魔力がある者達、退魔組の連中達で言えば『特別退魔士』と呼ばれる者達以上であれば使える術式だな」
どうやらその新たに作られた術式が動忍鬼達の言っていた話に繋がっているのだろうと、ソフィはアタリをつけるのだった。
「妖魔から人間を守る退魔士が、かつてより増えてくれたのはいい事なのだ。小生も『妖魔召士』では無い『退魔士』が『式』を扱う事に関しては、思うところはあれども反対というわけではない」
エイジがそこで一度口を閉ざすと、シュウが代わりに口を開く。
「エイちゃんは他の『妖魔召士』とは違い、まだこの町の『退魔組』の連中や『サカダイ』に居る者達に対して一部分を除いてだが、認めて理解を示しているのだ」
「一部分を除いて?」
シュウの言葉に頷きを見せていたソフィだったが、含みのある言葉につい言葉を挟んでしまうのだった。
「小生とて仲間や町の者達を守る為に、退魔士達が戦う術を身につけてくれた事は、大いに感謝しているし、その気概は立派なモノだと認めているのだが、先程の新たな術式が問題なのだ……」
シュウがソフィの疑問に答えようとしたが、本人が口を開いた為に今度はシュウが口を閉ざして、エイジの言葉に頷く。
「それはどう言った術式なのだ?」
「弱らせた妖魔を強制的に自我を失わせて強引に自らの『式』へと契約させる事だ」
エイジの言葉を聞いたソフィは、動忍鬼の言っていた事は間違いなくこの術式の事だと思い当たるのだった。
「この新たな術式の元となったモノは、元々『妖魔召士』が使っていた手印の術なのだが、それを今の【退魔士】達にも使えるように『ゲンロク』という男が改良を加えたモノが、今の『退魔組』が使っている術式なのだ」
「意思なく契約させて、成立するものなのか?」
「新たな術式とは言ったが『契約術式』そのものは『妖魔召士』の使っている真っ当な契約方法なのだ。契約に至るまでの過程をすっ飛ばして、意識を失わせるまでが、この新しい術式で、契約紙帳に名を記した後は、如何に妖魔に記憶が無かろうと、納得をせぬとしてもそんな事は関係がなくなる」
「そんな方法が問題にならずにまかり通っておるのか……?」
「当然『妖魔召士』の多くは認めてはおらぬし、そもそも『妖魔召士』の適正が無かったものが『退魔士』と名乗る事すら不愉快に思っている者もいる。だが、問題視はしているが誰も何も出来ないのが現状だ」
「それは、前提にあるものが人間を守る為だからか?」
ソフィの言葉に重苦しい溜息を吐きながら、首を縦に振って頷くエイジであった。小声でヌーがテアと会話をしている声が聞こえた。どうやらテアの方からどういう話をしているのかをヌーに聞いたのだろう。今までのエイジの話をテアに通訳していた。
しかしソフィはそんなヌーとテアの会話よりもエイジの言葉を聞いた事によって、何故『動忍鬼』が『タクシン』と『式』の契約を結んでいたのか、その説明がついて合点がいったのだった。
(あやつは……、あやつらは望まぬ契約を結ばせられた挙句に、自我を失わされて嫌々戦わされていたのか……)
ソフィは今の話を聞いた上で、動忍鬼の辛そうな顔を思い出した。
(つまりあやつは仲間達が強引に従わされていたのを知っていて、それを助けようとして逆に自分も捕まってしまった)
動忍鬼が『タクシン』に『式』にされてからどれくらいの期間が経っていたのかまでは、ソフィには分からない。しかし『式』の呪縛から解放された時に動忍鬼は言っていた。
――『あの人間の寿命が終わるあと数十年は、我慢しないといけないと思っていた』と。
苦しんでいる同胞を救えず、自分もまた同じく望まぬ契約をさせられて、自我を失わされた挙句、戦いたくもない戦いを強いられていた。それも戦わされる相手は、動忍鬼と同じ妖魔なのである。
もしかしたら自分の記憶が無い間に、彼女の友人や仲間を殺させられていたかもしれない。
(我はあの時なんと惨い事をあやつに言ってしまったのだろうか)
ソフィがあの時に『動忍鬼』に言った言葉は決して間違いではない。
――『成し遂げたい思いがあるのであれば、それを叶えられるだけの力を持て』
この言葉は間違いでは無い。しかし間違いでは無いが理屈では無いのだ。無念で無念でどうしようもなく、悲しく辛い日々を過ごさせられていたのだ。
それがようやくソフィ達に出会う事で、幸運にも『式』の呪縛から解放された。
そうであるならば今直ぐにでも同胞達を無理矢理従わせている人間達の元に向かい、これまでの無念と恨みを晴らす為に、その手を振るいたかった事だろう。
「おいてめぇ……。そのツラは何だよ?」
テアに『式』の術式の説明を行っていたヌーは、ふと恐ろしい形相を浮かべていたソフィに気づいて声を掛ける。
しかしそのヌーの問いかけにソフィは答えない。今ソフィはその余裕が無い。
――今ソフィの胸中では、とある感情が渦巻いていたのである。
「おい、ソフィ! 聞いていやがるの……かっ……よ」
――ソフィは声は出さなかった。
別にヌーに何かをしたわけでは無かった。単に顔をあげてヌーの方を見ただけだった。
しかしたったそれだけだったというのに、ソフィと視線が合ったヌーとその横でソフィの目を見てしまったテアは同時に竦み上がった。
「すまぬが少し待ってくれ……。気持ちの整理をつけたい」
先にテアがソフィの視線で縮こまっていた体が動いたようで、慌てて何度も頷きながら横に居るヌーの頭に手を置いて、強引にその頭を掴んで下げさせる。
テアは契約主であるヌーを守る為にそういった行動に出たのだが、ペコペコと頭を下げさせるように何度も何度もテアがヌーの頭を掴んで上下に振ってきたことで、動けるようになったヌーはブチギレた。
「て、てめぇ! テア! 何しやがる!」
「――!」(ば、馬鹿! てめぇの命を守ってやろうと思ったんだよ! この御方を怒らせるな! 何かやべぇっ!!)
そのテアとヌーの様子にシュウは笑っていたが、エイジはそちらを見ずにソフィを見て感心していた。
どうやら先程の話で、ソフィの抱いた感情を理解したのだろう。
彼らは『流石はサイヨウ様と友人だけの事はある』とばかりに、ソフィを認めるような視線と頷きを見せるのであった。
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