第857話　ゲインの力量

「ちょっと！　人の家の戸を壊しておいて謝罪もなしかい！　何を揉めてるか知らないけどねぇ、この裏路地でエイジさんと揉めるなら、あたしらが承知しないよ！」

「むっ！」

　もう少しでソフィ達の居場所がバレるといったところで『エイジ』の家の向かいにある長屋から何やら住人が騒いで出て来るのだった。すると別の長屋からも次々と住人が顔を出し始める。

「何だ、また『退魔組』の連中が来やがったのか！　でかいツラして町を歩きやがって、さっさと帰りやがれ！」

「そうだそうだ！　帰れ！！」

「「か、え、れ！　か、え、れ！」」

　気が付くと裏路地に面したほぼ全ての長屋から住人が出てきては、イバキとスーに向けて怒鳴って追い返そうとするのだった。

「何故、人除けの『結界」の中でこれだけ集まってこれる？」

　イバキは自分達を取り囲み始めて、騒いでいる住民たちを見渡しながら、自分の結界が破られている理由を探し始めるのだった。

「くっ……！　イバキ、今はひとまず退こう。ここの者達を敵に回すと非常に厄介な事になるぞ！」

　原因を探っていたイバキだったが、護衛の剣士『スー』の慌てる様子とその声に、軽く舌打ちをしながら頷いた。

「エイジさん、事情は説明しましたよ？　我々退魔組は『加護の森』を優先して、二人組を探さなければなりません。貴方は『妖魔の山』から下りて来る妖魔達が来た場合に備えて町人たちを守る努力。そして協力をお願いします」

　そう言った後にイバキとスーは、踵を返して表通りへと戻っていくのであった。

　イバキ達の姿が見えなくなった後、喧騒が鳴り止んだ裏路地の通りに、ひょっこりと向かいの長屋からエイジの息子の『ゲイン』が笑顔を向けながらソフィ達の元へ戻ってくるのだった。

「成程、あやつの結界を解除したのはお主か」

　ソフィがゲインの頭を撫でながらそう言うと、ゲインはソフィの言葉にコクリと頷くのだった。

「兄ちゃん達、父上の味方なんでしょう？」

　少年の屈託の無い笑みを向けられたソフィは、即座に頷きを返すのだった。

「うむ。お主の父は我の友人の知り合いみたいだからな。それにしてもよくあやつの結界を解除出来たな」

「へへ！」

　どうだと言わんばかりに、ソフィに褒められて自慢気になるゲインだった。

　ソフィとゲインたちが会話していた頃、エイジは周囲に集まってきていた長屋の仲間達に声を掛けられていた。

「戸を壊してすまなかった。少し奴らの言動に我慢ならなかったものでな」

「そんな事は気にしなくていいが、またアイツラ余計な事をするつもりなのか？」

「エイジ。あいつらとやり合うなら俺達はいつでも手を貸すからよ」

　エイジ達の移住区の通りに面した長屋の住人達が次々と集まってきて、去っていったイバキ達の方を見ながら、エイジにそう声を掛けるのだった。

「ああ、その時は頼む。とりあえず当面は奴等も忙しいらしく、当分はここには来ないだろう。また何かあったら頼らせてもらう」

　エイジがそう言った後、ソフィと息子のゲインの方を見ると、長屋の住人たちもエイジにつられてソフィ達を見る。

「彼らは『退魔組』の連中じゃないんだな？」

「ああ、彼らは私の師の友人たちだ。どうやら退魔組の『サテツ』達に目をつけられているようでな。当面は私の家で匿おうと思っているが、何かあったら協力してやってくれ」

　エイジがそう言うと住民たちは一様に頷くのだった。そこに向かいの長屋からもう一人出てきた男が、エイジに声を掛ける。

「エイちゃんの師ってことは、サイヨウさんの客人かい？　そりゃあ協力させてもらうよ」

　ソフィはゲインを撫でながらもエイジと裏路地の住人達の話に耳を傾けている。裏路地の居住区の者達は一様に、どうやらこの町の平和を守っている筈の『退魔組』よりもその組織に属していないエイジを支持しているようだった。

　ヌーは住人達やエイジを方を見ておらず、去っていったイバキ達の向かった先を見ているのだった。

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