最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第833話 面倒な奴

 シクウがソフィ達から離れてそのままケイノトの門の前まで向かっていった。そこでシクウに気づいた町の門人達は、何やら驚いた様子でシクウを出迎えている。

 何やら門人の一人がシクウに問答を行っているようだが、そのまま門を開けて問答を行っていた門人がケイノトの町の中に入っていく。残されたシクウは別の門人と何やら会話をしているようだが、この位置からでは流石に何を話しているかまでは分からない。

 少しして先程町の中に入っていった門人が、同じ狐面をつけた男を連れて戻ってきた。どうやらミカゲと呼ばれていた男が言っていた『退魔組衆』とやらだろうか。森で会った者達と同じ面をしている為、ソフィ達はそう判断するのだった。

 再び門の前で会話を続けていたが、それを丘の上で見ていると、ふいにヌーがソフィに声を掛けてくるのだった。

「そういえば今更なんだがな……。お前『隠幕ハイド・カーテン』は使えないのか?」

 隠幕とは姿と気配を完全に消す魔法の事であり、フルーフが考案して開発した『レパート』の世界での独自の魔法である。

「『隠幕ハイド・カーテン』は身を隠す魔法の事か? 我は使えぬな。あやつから伝授された魔法でよく使うのは『呪縛の血カース・サングゥエ』や『魔力吸収の地アブソマギア・フィールド』くらいかもしれぬな」

 ソフィの告げた二つの魔法や呪文名前は、どちらもフルーフが編み出した新開発の技法であり、非常に強力な部類の物たちである。

 アレルバレルの世界では『魔力吸収の地アブソマギア・フィールド』通称『死の結界』と呼ばれるものであり、ソフィはこの魔法を自身の魔王城の最下層にあるで常時使用している結界の類である。

 この『魔力吸収の地アブソマギア・フィールド』の影響下にある場所では、術者の魔力を上回る魔力を持って強引に結界を破壊するか、フルーフが『ダール』の世界の牢の中で行ったように、既に効力が発動している『魔力吸収の地アブソマギア・フィールド』の詠唱元である『発動羅列』を具現化させて羅列の文字を正しく理解した後、その羅列の文字を作り替えて強制解除を行う他に逃れる術はない。

 詠唱者も膨大な魔力を消費して行わなければならない為、大魔王と呼ばれる魔族であっても、魔王城に張っている『魔力吸収の地アブソマギア・フィールド』程の規模を維持する事は容易では無い。魔力値が数千万から数億程度であれば、持って数日といったところだろう。

「ちっ、仕方ないか……。しかし貴様はあれだな……。何でも出来る非常に厄介な存在の癖に、ここ一番で使野郎だな」

 ヌーは非常にダルそうな表情を浮かべながら、ソフィに向かってそう言うのであった。

「むっ……。中々言うでは無いか。我が使えない魔族だと言いたいのか?」

 ヌーの物言いに少しだけソフィは傷ついたのか、いつもであれば聞き流すヌーの言葉に食って掛かるのだった。

「そもそも貴様程の魔力があるならば、想像を絶する程の神域魔法や『時魔法タイム・マジック』から覚えるのが常だろうが! 何故『次元防壁ディメションアンミナ』が使えるのに、同じ『時魔法タイム・マジック』の『概念跳躍アルム・ノーティア』が使えねぇんだ。それに『レパート』の世界の魔法で『呪縛の血カース・サングゥエ』や『魔力吸収の地アブソマギア・フィールド』を覚える癖に比べる事も馬鹿馬鹿しい『隠幕ハイド・カーテン』が使えないってのはどういう事なんだ?」

 信じられないとばかりに吐き捨てるように、ソフィにそう言って聞かせるのだった。横で話を聞いていたテアは、ソフィの話す言葉は理解していないが、契約者であるヌーの言葉を理解出来る為、二人の会話がヌーの言葉から何となくだが理解が出来ている。そして今にも喧嘩を始めそうなヌーの勢いに巻き込まれて、自分が戦えと告げられたら困るとばかりにテアは慌て始めるのだった。

「使えぬ物は仕方が無いでは無いか。我とて『レパート』の『ことわり』から『概念跳躍アルム・ノーティア』の魔法は羅列から勉強して毎日研鑽を続けているのだ」

 ブツブツとソフィにしては珍しい愚痴を吐きながら、フルーフにも不思議がられた『概念跳躍アルム・ノーティア』の魔法の発動についてソフィは考え始めるのだった。

「ちっ、てめぇが『世界間移動』を出来るならば、俺がいつまでもここに居なくてもすんだのによ」

 ボヤいていたソフィだが、ヌーが今言った言葉を聞いて唐突にニヤリとするのだった。

「何笑ってやがる? 気味が悪い野郎だな」

「クックック、いやいや何でもない。さて、シクウの奴も町の中に入っていって時間が経つ。我たちもそろそろ向かおうでは無いか?」

「そうだな、さっさと行くぞ」

 そう言ってヌーはソフィを先導するように歩き始めるのだった。その後ろを慌ててテアがついていく。

 そしてその場に最後に残されたソフィは先程のヌーの言葉に、驚きと嬉しさが入り混じった感情を実感していた。

(クックック、お主は気づいて居らぬようだが、数千年前とは比較にもならない程に、が芽生えておるでは無いか。これはあのミラという人間と長きに渡って行動を続けた影響か?)

 かつての『アレルバレル』の世界のNo.2であった頃のヌーであれば、面倒事を抱えた瞬間に放棄してソフィと別行動をとろうと画策していた事だろう。

 しかし今は文句を言いながらでも、解決策を共に見つけようとする姿勢が見える。ただそれだけの事でもこれまで『アレルバレル』の世界に長く君臨してきた魔王は、ヌーが偶然では無く本当に成長しているという事に確信を持つのであった。

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