最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第828話 退魔組衆の総本山

 イツキが部屋から姿を消した後、ミカゲは襖が取り払われた部屋の中に入っていき、テーブルを挟んで両向かいに置かれている長椅子の方へ歩いてくる。慌てて近くに居た退魔士達はミカゲに場所を譲るとミカゲはどかりと腰を下ろした後に溜息を吐いた。

 加護の森からここまではそこまで離れてはいないが、あれだけの戦いがあった後に、急いでケイノトまで来たのである。精神的にも肉体的にも疲労困憊と言った様子でミカゲは、目を瞑って長い長い溜息を再び吐いた。

 他の『退魔士衆たいまししゅう』達はここまで疲弊しきっているミカゲに、加護の森がどうなったか詳細を聞きたいところだったが、皆一様に顔を見合わせるだけで、ミカゲに直接話しかける者は居ない。

 今のミカゲは見るからに機嫌が悪い。少し前にミカゲの『式』である鳥が、屯所の周囲を飛び回りながら奇声をあげた事で、それが危険を知らせる合図であり、更には森へは近づくなという事前に取り決めてあったミカゲの『式』からのサインを受け取ったのだが、何があったのかは厳密には何もわかってはいない。

 『特別退魔士とくたいま』であるタクシンや『妖魔召士ようましょうし』クラスの者が従えている『式』であれば、人型に化けることも出来る者や、人間の言葉を理解して話す事も可能な妖魔も居る。だが、あくまで『上位退魔士じょうたいま』であるミカゲの『式』ではそこまで伝達に明るい妖魔は居なかった。

 それでも戦闘に於いては、呪詛で相手を無力化出来る『擬鵺ぎぬえ』を従えているミカゲは『上位退魔士じょうたいま』の中でも、指折りの存在であることは間違いは無い。

 ミカゲは椅子に座って自分の足の上に手を置きながら黒羽を生やしていた青年と、その青年よりも背の高く邪悪な顔をした者の二人組を思い出しながら舌打ちをしている。

 まさか自分の持つ『式』の中で最上の妖魔であった『擬鵺ぎぬえ』を失う事になるとは思わなかったのである。彼ほどの魔力があれば、他にも強い妖魔を『式』にして従わせる事は可能ではあるのだが『擬鵺ぎぬえ』程の力量を持つ妖魔自体が稀であり、今後も直ぐには従えることは出来ないだろう。

 『妖魔団の乱』と同じような規模の襲撃が再び起こり、一斉に捕獲できるような事があれば話は別ではあるが――。

 そんな事を考えていたミカゲだったが、部屋の奥からイツキと背が高く筋肉も隆々の厳つい顔をした男が現れた事で、ミカゲは直ぐに現実へ呼び戻されるのであった。

 ――そしてこの男こそが、この退魔組衆の頭領の『サテツ』である。

「よう、ミカゲ。今のオレが機嫌が悪いのはお前も存じているよな。その上で緊急の用事があるってのは、間違っちゃいねぇか?」

 姿を見せて開口一番にそう言う『サテツ』だった。その所為で屯所の畳部屋にとても重苦しい空気が流れる。他の退魔士達も辛そうにしながらサテツに頭を下げている。

 だが、他の同志達よりも直接名指しで呼ばれた『ミカゲ』の方が重圧は酷く掛かっている。しかしそれでも顔を背けたりはせず、タクシンの言伝を伝える為に必死に我慢をして口を開くのだった。

「わ、分かっていますが、聞いて下さい頭領! タクシン様から言伝を預かっております!!」

 つまらない用であれば承知しないぞと、そう言われているような程の『サテツ』の放つ重圧に負けじと、大声でそう告げるミカゲだった。

「タクシン? そういえば顔を見せてねぇな」

 サテツは定例の会合に出ていた為に、屯所に知らせに来ていた『ミカゲ』の『式』のサインを確認してはいない。何があったかを話せと告げたサテツに、再びミカゲは口を開いて見せた。

「『加護の森』に張ってある結界に大きな魔力を持った二人組を感知した為、対応の為に私とシクウを含めた『退魔組衆』が森へ向かいましたが、その二人組によってやられてしまいました……。後に私がタクシン様とタシギ様に伝令を送り、森へ来ていただいたのですが、タシギ様もその二人組の片割れであるにやられてしまい、今はタクシン様が一人で戦場に居ます! タクシン様は直ぐにこの事を『サテツ』様と『ゲンロク』様にお伝えするようにと……」

 起こった出来事を最初から話をしていたミカゲだったが、恐ろしい程の怒気をサテツから向けられてしまい、結局最後まで話をすることが出来なかった。

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