最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第830話 ニアミス

 ソフィ達はようやく『加護の森』を出た後、西へと道なりに進んでいく。
 今歩いている所のすぐ傍には、ガードレールのような柵があるが、その先は崖となっている上に見通しが悪く、空を飛べない人間であれば、あまり崖傍に近づく事は無いだろうと判断出来た。

 ソフィは少しだけ柵から崖側に顔を出して崖下を覗いて見る。どうやら崖下は川が流れているようだが、ただの人間がこの高さから落ちた場合に、非常に危険だとソフィは判断するのだった。

 そして崖の下を覗いていたソフィが顔をあげた先に、今自分達が歩いてきた森とは別の森が視線の先に見えた。単にここからは繋がっていないだけで同じ森なのかもしれないが、ソフィにはこちらの森には結界の類が感じられず、加護の森とは少し違う印象が感じられた。

「あちら側は『ケイノト』とは違う町に住む者達の管轄の場所でしてね。ケイノトの退魔士達が入る事を禁じられている為、結界などは張ってはいないのです」

 どうやらソフィの考えている事が顔に出ていたのだろう。そんなソフィが考えていた疑問に先に答えるシクウであった。

「ふむ、近くであってもそう言う場所があるのだな」

 アレルバレルの世界でも似たような場所はいくつもあるし、大陸と大陸の狭間にある離島であっても別の大陸同士でその離島を巡って諍い戦争が起きた事もある。たとえ隣町のような近さであっても、その町の者達と仲がいいとは限らない。ノックスの世界は何も情報が無い為、下手に話題に出すものでは無いかとソフィは考えて、別段その森の事を気にすることなく『ケイノト』への道を再び歩き始めるのだった。

 しかしこの時まだ『ソフィ』は気づいてはいなかったが、崖の向こう側の森に実は、ソフィが探しているがとある【妖魔召士ようましょうし】達と行動を共にしていたのであった。

 もしこの時にソフィが先程の戦闘中の形態を維持しており、視界の先に見えた森に対して『漏出サーチ』を使っていたならば『イダラマ』の張っている結界を貫通して、エヴィの魔力を感知出来た事だろう。

 だが、そんな事など今のソフィにわかる筈もなく、気づかずにそのまま目的の人物から遠ざかっていくのだった。

 ……
 ……
 ……

 ソフィ達の居た場所から見えた崖を挟んだ向こう側の森の先『イダラマ』達が現在の居を構えている洞穴の中でエヴィはふと顔をあげる。

「気のせいかな。今あのお方の視線を感じたような気がした」

 突然エヴィがそう言うと、近くに居た大男がエヴィに話しかけてきた。

「そいつはお主が元の世界とやらに居た時の主の事か?」

 エヴィはちらりと大男の方を見る。
 その大男はもう一人の長いピアスを耳に付けた男とエヴィが、この洞穴に来た時に争いを止めた狐面をつけた男であった。今はその時の狐の面を外しており、細めの目が露となっており、エヴィに笑顔を向けてきていた。 

「そうだよ。あの方はとてもで、だ」

 そう言って青髪をした少年は、ソフィの事をこれ以上ないという程に褒め称える。
 もしこの場にヌーが居たならばエヴィを見て、と、感じていたかもしれない。

 それ程までに青髪の少年『エヴィ』は、喜々として周りにソフィの事を話すのだった。洞穴の奥にある一定の広さを保っている空間だが、当然話し声はその場に居る者達の耳に入る。エヴィの話を聞いていたイダラマは感心した様子だった。

(この恐ろしいまでに冷徹で何を考えているか分からない少年が、ここまで他者を褒めるとは、どうやら余程に器の大きな男らしい。昔からのしきたりに拘り全く新たな事柄に耳を貸さない器の小さなケイノトの『妖魔召士ようましょうし』達にも聞かせてやりたい話だな)

 腕を組んで洞穴の入り口の方を眺めながら、イダラマという男はそう考えるのだった。

 ……
 ……
 ……

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品