最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第825話 妖魔召士の町ケイノト

 その頃、タクシンに命令されたミカゲは自身の『式』である巨体な犬の背に、意識を失っているタシギを乗せながら全速力で駆けていく。目指している場所は、自分達の住む人間達の町『ケイノト』である。

 『ケイノト』はただの人里や町というワケでは無く、ミカゲやその同胞達である『退魔士』達が多く居る大きな町であり、ケイノトには『退魔組衆たいまぐみしゅう』が至る場所に詰めている。

 既に加護の森からはかなり離れており、ケイノトは目と鼻の先という所まで来ている。だが、ミカゲは何度も立ち止まると後ろを確認しながら、誰かがついてきていないかを確認している。

 タクシンという『退魔士』は『退魔組衆たいまぐみしゅう』の中でも指折りの魔力持ちで、上の方々から『特別退魔士とくたいま』と名乗るのを許される程の男であった。普段であれば妖魔を討伐する時にタクシンが居てくれれば、何も心配すること無く任せられるのだが、今回のあの『黒羽』を持つ人型の二人組だけは油断ならないとミカゲは考えていた。

 何やら黒羽達が『自分達は妖魔ではない』などと言っていた気もするが『擬鵺ぎぬえ』がやられた時の衝撃で、ミカゲの耳にはほとんど何も入ってはいなかった。

 ひとまず今のミカゲがやるべき事は、現在の『退魔組衆たいまぐみしゅう』を束ねる頭領と、その『退魔組衆たいまぐみしゅう』を創設した『妖魔召士ようましょうし』の長である『ゲンロク』に加護の森に現れた二人組の存在を伝える事である。

 タクシン様が二人組をそのまま倒してくれると信じてはいるが、ミカゲは嫌な予感から胸騒ぎを止められないでいるのだった。もう何度目になるだろうか。背後を気にしてしまってその場で振り向き確認する。

 その度に『式』も足を止めてしまうが、どうしてもミカゲは気になってしまうのだった。やがて森を抜け出してから数十分の時が経ち、ミカゲの視界に『ケイノト』の町の景色が見えた頃、ようやくミカゲは安堵の溜息を吐いた。

 ケイノトの入り口には、妖魔から町を守る門人の『中位退魔士』達が数人程立っていた。ミカゲとそのミカゲの『式』である犬に乗せられている『タシギ』の姿を確認した門人は、直ぐにこちらに向かって走って来る。

「み、ミカゲ様! それにタシギ様も!」

 慌ててこちらに走ってきた門人は三人。その内の一人が、驚いた様子で声を出した。

「お前達、すまないがすぐに中に入れてくれ」

 既にミカゲの『式』を飛ばした事で『退魔組たいまぐみ』の仲間達には、危機が迫っているという事は伝わっているだろうが、一体どういう規模なのかは伝えられてはいない。急いで何があったかを伝えなければならなかった。

「わ、分かりました! オイ、直ぐに開けろ!」

 門人の一人が声を掛けると町の入り口に居た別の門人は頷き、慌てて入り口の大きな扉を開き始めるのだった。

「しかしタシギ様程の方が、これ程の傷を負われるとは……。一体何があったのですか? ミカゲ様!」

「お前達にも事情は後で話す。それよりも今は早く退魔組に向かい、頭領のサテツ様のところに行かねばならない!」

 自分よりも立場が数段上のミカゲが慌てているのを見て、事情は分からないが余程のことなのだと判断した門人達はそれ以上は何も聞かず、直ぐに頷いて道を開けるのだった。

「いいか! 直ぐにここを通る事になるかもしれない。施錠をせずに扉をいつでも開けられるようにしておくのだ」

「わ、分かりました! ミカゲ様!」

 返事を聞かずにミカゲは走り出した。目的地はここから直ぐにある『ケイノト』の表通りにある屯所である。

 その屯所には同胞達である『退魔士たいまし』達が多く詰めており、目的の人物である『退魔組衆たいまぐみしゅう』の頭領である『サテツ』と呼ばれる『妖魔召士ようましょうし』がいるのである。

 ミカゲはまず先に自分の所属している退魔組衆の頭領である『サテツ』に事情を説明し、その後はサテツの方から『妖魔召士ようましょうしの里』にいる『妖魔召士』の長『ゲンロク』へと話を通してもらうつもりなのであった。

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