最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第804話 擬鵺の放つ呪詛の声
黒い煙に包まれたソフィと『擬鵺』の姿は周囲には見えない。しかし聞く者に不安と、どこか落ち着かなくさせる悲痛な擬鵺の鳴き声が響き渡っている。
「一体、何だと言うんだ」
大魔王『ヌー』は険しい目をしながら、両手を自分の耳にあてて黒い煙の中を窺う。
『擬鵺』の放っているこの悲痛な声には呪詛の効力がある。少し離れた場所に居るヌーには、悍ましい声にしか聞こえないが、擬鵺と同じ黒煙の中に居るソフィを狙って放たれたこの呪詛は、耳から離れない呪いの声が響き渡り続けて、その脳に直接働きかける攻撃は直接聞く者に精神を狂わせて恐ろしい幻覚を見せさせる。
(よし、あの距離で直接聞いたのであれば、人間でなく『擬鵺』と同じ妖魔であってもまともではいられまい)
ミカゲと呼ばれていた『退魔士』は、まず一体片付けたとばかりに、笑みを浮かべ始める。
そして徐々に煙が晴れて行き、ようやく黒煙に包まれていた『擬鵺』とソフィの姿が見え始める。
『擬鵺』の声を直接聞かされたあの妖魔は白目を剥いて倒れているか、最低でも全身を震わせながら精神が狂わされているだろうと、ミカゲは信じて疑わなかった。
「む……。ようやく辺りが見えるようになったな」
しかし煙が晴れて見えたソフィの姿はいつも通りであった。それも何もなかったかの如く、平然と呟いているのだった。
「な、何……? どうして普通に意識を保っていられている!」
ミカゲはソフィの変わらぬ様子に数秒驚いていたが、やがて目の前に敵がいるというのに、動きを見せない『擬鵺』に眉を寄せる。
「『擬鵺』! 何をしている! 目の前に居る妖魔を喰い殺せ!!」
『式』を使役しているミカゲのその声が聞こえた以上、使役させられている『式』は、嫌でも命令に従わなければならない。
だが、ミカゲの声が届いているにも拘らず、擬鵺は動きを見せない。
「残念だが、こやつにはもうお主の声は届かぬぞ。少しばかり意識を遮断させてもらったからな」
ソフィがそう言うと『擬鵺』の眉間を軽く指でトンッと押す。するとあっさりとその虎の胴体をした『擬鵺』は、ドサリッと音を立てて倒れるのだった。
「!?」
「クックック、どうやら化け物対決は、ソフィに軍配が上がったようだな?」
信じられない現実にミカゲは、倒れた擬鵺とその相手であるソフィを見比べながら目を丸くする。
そして対照的に大魔王『ヌー』はソフィを化け物と呼びながら、予測出来た現実に笑い始めるのだった。
「な、何故だ……? 『擬鵺』の呪詛は、鵺の最上位である『本鵺』とまではいかないが、私たち『上位退魔士』ですらあっさりと狂わせる程の力を持つ筈だ『鬼人』や『仙狐』級でもない単なる妖魔が耐えられる程、甘くはないはずだ!!」
「ハッ! 妖魔だか何だか知らんが、俺達『大魔王』が、あんな程度のゴミにやられるわけが無いだろう?」
いつの間に移動したのかヌーは、邪悪な笑みを浮かべながら、信じられない現実を目の当たりにしている『ミカゲ』の前に現れてそう口にするのだった。
そしてヌーはどうやら『ミカゲ』と呼ばれていた人間を物言わぬ骸に変えるつもりなのだろう。魔力を集約させた右手を『ミカゲ』の顔の前に翳す。
「ククククッ! 死ね、屑が!」
「……まぁ待つのだ。ヌーよ」
魔法を放とうとしていたヌーの横に一瞬で姿を見せたソフィは、そのヌーの肩に手を置いて静かにそう呟くのだった。
「ちっ……! 仕方ねぇな」
舌打ちをしながらもヌーは、素直に手を下ろす。どうやら驚きすぎて九死に一生を得たという事に気づいてすらいないが、虚ろな目をしながらミカゲはその目でゆっくりと視線をソフィに移す。
「もう我達に敵わぬというのは理解出来ただろう。そろそろこちらの話を聞いてもらいたいのだが、聞いてもらえるかな?」
悪い事をした子を叱った後に慰めるように、優しく言って聞かせるソフィだった。
「……」
――ミカゲは何も口に出来ず視線だけをソフィに向けているのだった。
……
……
……
「一体、何だと言うんだ」
大魔王『ヌー』は険しい目をしながら、両手を自分の耳にあてて黒い煙の中を窺う。
『擬鵺』の放っているこの悲痛な声には呪詛の効力がある。少し離れた場所に居るヌーには、悍ましい声にしか聞こえないが、擬鵺と同じ黒煙の中に居るソフィを狙って放たれたこの呪詛は、耳から離れない呪いの声が響き渡り続けて、その脳に直接働きかける攻撃は直接聞く者に精神を狂わせて恐ろしい幻覚を見せさせる。
(よし、あの距離で直接聞いたのであれば、人間でなく『擬鵺』と同じ妖魔であってもまともではいられまい)
ミカゲと呼ばれていた『退魔士』は、まず一体片付けたとばかりに、笑みを浮かべ始める。
そして徐々に煙が晴れて行き、ようやく黒煙に包まれていた『擬鵺』とソフィの姿が見え始める。
『擬鵺』の声を直接聞かされたあの妖魔は白目を剥いて倒れているか、最低でも全身を震わせながら精神が狂わされているだろうと、ミカゲは信じて疑わなかった。
「む……。ようやく辺りが見えるようになったな」
しかし煙が晴れて見えたソフィの姿はいつも通りであった。それも何もなかったかの如く、平然と呟いているのだった。
「な、何……? どうして普通に意識を保っていられている!」
ミカゲはソフィの変わらぬ様子に数秒驚いていたが、やがて目の前に敵がいるというのに、動きを見せない『擬鵺』に眉を寄せる。
「『擬鵺』! 何をしている! 目の前に居る妖魔を喰い殺せ!!」
『式』を使役しているミカゲのその声が聞こえた以上、使役させられている『式』は、嫌でも命令に従わなければならない。
だが、ミカゲの声が届いているにも拘らず、擬鵺は動きを見せない。
「残念だが、こやつにはもうお主の声は届かぬぞ。少しばかり意識を遮断させてもらったからな」
ソフィがそう言うと『擬鵺』の眉間を軽く指でトンッと押す。するとあっさりとその虎の胴体をした『擬鵺』は、ドサリッと音を立てて倒れるのだった。
「!?」
「クックック、どうやら化け物対決は、ソフィに軍配が上がったようだな?」
信じられない現実にミカゲは、倒れた擬鵺とその相手であるソフィを見比べながら目を丸くする。
そして対照的に大魔王『ヌー』はソフィを化け物と呼びながら、予測出来た現実に笑い始めるのだった。
「な、何故だ……? 『擬鵺』の呪詛は、鵺の最上位である『本鵺』とまではいかないが、私たち『上位退魔士』ですらあっさりと狂わせる程の力を持つ筈だ『鬼人』や『仙狐』級でもない単なる妖魔が耐えられる程、甘くはないはずだ!!」
「ハッ! 妖魔だか何だか知らんが、俺達『大魔王』が、あんな程度のゴミにやられるわけが無いだろう?」
いつの間に移動したのかヌーは、邪悪な笑みを浮かべながら、信じられない現実を目の当たりにしている『ミカゲ』の前に現れてそう口にするのだった。
そしてヌーはどうやら『ミカゲ』と呼ばれていた人間を物言わぬ骸に変えるつもりなのだろう。魔力を集約させた右手を『ミカゲ』の顔の前に翳す。
「ククククッ! 死ね、屑が!」
「……まぁ待つのだ。ヌーよ」
魔法を放とうとしていたヌーの横に一瞬で姿を見せたソフィは、そのヌーの肩に手を置いて静かにそう呟くのだった。
「ちっ……! 仕方ねぇな」
舌打ちをしながらもヌーは、素直に手を下ろす。どうやら驚きすぎて九死に一生を得たという事に気づいてすらいないが、虚ろな目をしながらミカゲはその目でゆっくりと視線をソフィに移す。
「もう我達に敵わぬというのは理解出来ただろう。そろそろこちらの話を聞いてもらいたいのだが、聞いてもらえるかな?」
悪い事をした子を叱った後に慰めるように、優しく言って聞かせるソフィだった。
「……」
――ミカゲは何も口に出来ず視線だけをソフィに向けているのだった。
……
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