最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第762話 幼女の向上心と負けず嫌い

 真っすぐにレイズ魔国に向かっていたレアだったが、ようやくレイズの国境に入るのだった。

「この身体で出せる全力でも、やっぱり本体には遠く及ばないわねぇ」

 『高速転移』で空を飛翔するレアは、自分の今の出せる速度を確かめていた。
 現在のレアは『代替身体だいたいしんたい』の身である。

 彼女の配下であり側近でもあった『ジーヌ』という魔族が『ヌー』に操られてしまい、その心を許していたジーヌに隙を突かれて心臓を貫かれてしまい、レアは絶命してしまったのである。

(※『九大魔王』編 第282話『見えざる攻撃』)

 大魔王領域に達していたあの頃のレアであれば、今の移動速度とは雲泥の差であっただろう。

 しかし『代替身体だいたいしんたい』の今の彼女が『高速転移』を使ってようやく大魔王達の通常移動の速度に、だった。

 死んだ魔族が一度でも『代替身体だいたいしんたい』に魂を移し、元の身体から本人の魔力が消え去ってしまえば、再び元の身体に魔力を戻すには数千年はかかる。

 しかしそれでも本体の損壊率がそこまで高く無ければ、いずれは自らの本体の身体に戻る事が可能となる。

 当然、新たな身体であっても、元の身体の十分の一の魔力と戦力値は継承が出来る為、新たな身体を鍛えて新たな人生を歩み、元の身体よりも強くなった魔族も多い。

 そういった道を選ぶ者は、元々が魔王や真なる魔王領域の魔族に多いのだが、新たな身体の方が適正があり、成長著しい事を悟った大魔王領域の者が、一から新たな身体で鍛え直して再び大魔王領域になる者も少なからず居るのである。

 どちらにしても長い時間を掛ける必要がある為、新たな身体に移った時点で今後どうするかをじっくり決める事が重要になるのである。

(※当然元の身体が完全に消滅していたり、使い物にならなくなるほどの損壊率であれば、戻りたくても戻れなくなる)

 レアの場合はいずれは元の身体に戻るつもりで今を生きているが、だからといって今の『代替身体だいたいしんたい』の身でありながらも毎日の鍛錬や研鑽は欠かしてはいない。
 どんな状態であっても彼女は、父親であるフルーフの教えを尊守する。
 フルーフに全幅の信頼と信用をしているレアは、きっとそれが自分の為になると理解しているからである。

 レパートの世界の魔族達は、支配者フルーフの影響を受けている所為かもしれないが、強くなる事に真面目で誠実な者が多い。

 特に『魔』に関しては『レパート』の世界の魔族程に、勤勉な者は他世界では少ないだろう。

 フルーフやレアだけでは無く、ユファや今は亡きレインドリヒも真剣に研鑽を続けていた。
 『魔』のみに焦点を合わせれば『アレルバレル』の世界よりも『レパート』の世界の方が優れているだろう。

 しかし常に死と隣り合わせであり『魔』だけでは無くあらゆる分野で『生きる』という事に必死な『アレルバレル』の世界の魔族達には『レパート』の世界の魔族は一歩届いていない。

 しかし強くなれたからといって、生き残る為に毎日戦い続けなければならなかった『アレルバレル』の世界の魔族達は、誰もが幸福だとは思っていないだろう。

 特に顕著なのはやはり、たった二人で魔境である『アレルバレル』の世界の『魔界』を生きてきた『リーシャ』と『エイネ』だろう。

 レアは『高速転移』で空を飛びながら『リーシャ』や『エイネ』の強さを思い出していた。

(あの頃はまだリーシャは私より弱くて、エイネは私よりは強かったけど、決して追いつけない事は無かった)

 魔族にとっても三千年は決して短く無い期間だが、出会った頃には既に『リラリオ』という一つの世界を支配して見せていたレアと、出会った頃にはまだ五歳で『魔王』領域にさえ届いてなかったリーシャが、僅か三千年の間にその差は逆転して、生半可では埋められない程の差が、レアとリーシャには出来た。

 毎日の研鑽を怠っていないレアでさえ、それだけの差が生まれるのである。
 あの世界で生き抜く事がどれ程の地獄か火を見るより明らかであろう。

 その上レアは『代替身体だいたいしんたい』にその身を宿す事となり、さらにエイネやリーシャとは『』が出来てしまっている。今から追いつくには、相当の時間を要するだろう。

 しかしそれでもレアは強くなる事に諦めたり挫折をしない。
 それはもちろんフルーフの教えがあるという理由もあるのだが、決定的な理由は彼女の心の根底のところにあった。

 彼女は相当の『』なのである。
 他者がそれを聞けば、それだけの事かと笑うかもしれないが、レアの負けず嫌いは筋金入りなのである。

 幼少の頃から絶望に絶望を重ね耐え抜いてきたレアは、もう何があっても心が折れないのではないかと他人が思うほどに

(※そんなレアであっても大魔王ソフィとの戦いを経験した時に彼の見せた邪悪な笑みには、一度は屈したのだが)

 自分より弱かったリーシャが、いつの間にかもう自分の手が届かない場所に行ってしまった今でも、毎日の研鑽を怠らずに『いずれは越えてやるぞぉ!』という気持ちを抱いている。

 そしてレアのその本質を理解したソフィは、今はもうレアをとても気に入っている。

 実際にソフィはレアに対して『金色のメダル』を渡したいと思っている程である。

 ――レアはレイズ魔国に向かう速度を気にしながらも、その顔はしっかりと前を見つめているのだった。

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