第752話　お邪魔虫

「ソフィ！」

　ソフィが屋敷の中に入るとリーネが笑顔で出迎えてくれた。
　近づいてくるリーネを抱きしめようとするが、自分の背丈が子供の姿だという事を忘れていた。リーネはそれを見て背を低くしながら、ソフィの首に手を回してくれた。

「……すまなかったな。組織の件が片付いたら、すぐに迎えに来るつもりだった」

「分かっているわ、貴方は魔王様ですもの。忙しい中でもこうして、会いに来てくれただけでも私は嬉しいわ」

「そうか」

　そう言うと二人は、抱き合ったままキスをする。

　ベアの体躯では屋敷の中に入れなかった為、外から中を覗いていたが、二人が抱き合ったあたりから空気を読んで庭の方へ戻っていった。互いに無言で抱き合っていたが、やがてリーネが口を開いた。

「組織の件が片付いたって言ったけど、今後は一緒に居られるの？」

「いや、奴らに別世界へ跳ばされた我の仲間の一人の居場所が見つかりそうなのでな。もう少しこの安全な世界で待っていて欲しい」

「分かった。本当の意味で全てが終わったら貴方の傍に居させてね」

「うむ。我もお主に傍にいて欲しい」

「ソフィ」

　そのまま二人は寝室の方へと歩いて行き、これからというところで玄関から声が聞こえてきた。

「ソフィ！　この世界に帰ってきたというのは真ですか！」

「ソフィ」

　言葉にすれば先程と同じセリフであったが、今度は不・満・そ・う・に・名前を呼ぶリーネであった。

「この声はエルザか、仕方なあるまい」

　ソフィがそう言うと、久・し・ぶ・り・の・二・人・の・時・間・を楽しみにしていたリーネは大きく溜息を吐いた後、ソフィの顔を見て頷くのだった。

　再び二人で玄関までエルザの元へ歩いていくのだった。

　ソフィの顔を見たエルザは嬉しそうな顔をする。

「おお！　本当に戻ってきたのだな！」

「よく我が戻ってきたという事が分かったな。魔力なども発してはおらぬ筈だったのだが」

「ああ！　もうソフィが戻ってきたという噂はラルグ魔国中に広まっているぞ。ラルグの塔の中にまで、情報が入ってきているしな」

　この世界に来たことを直接伝えたのは、レイズ魔国に居るシスだけであり、それ以外ではこの屋敷のある『ゼグンス』の街の住民だけの筈だが、既にラルグ中に知れ渡っているらしい。

　一体どこからそんなに広まるのだと、この世界の情報伝達力に驚かされるソフィであった。

「すまないがソフィ。ラルグの塔の方にも顔を出してくれないだろうか。レルバノン様にソフィを連れてきて欲しいと頼まれたのだ」

「分かった。今すぐの方がよいか？」

「ん？　そうだな、出来れば急いでほしいが、ト・イ・レ・に・行・き・た・い・の・な・ら・、行・っ・て・き・て・く・れ・て・構・わ・な・い・ぞ・」

　魔族であるエルザだが、人間で言えばまだ十代に差し掛かろうという年齢で、と・て・も・純・粋・であった為に、ソフィとリーネの様子から心中を察する事は出来なかったようである。

　ソフィはリーネと顔を合わせて苦笑いを浮かべたが、やがてリーネは困り顔を浮かべながらも『行ってあげて。』とばかりにウィンクを送ってくれた。

「すまないな、レルバノンに挨拶をしたらまた戻って来る」

「ええ。待ってるわね」

　ソフィは最後に再びリーネにキスをして外に出ようとするが、そこで顔を真っ赤にしたエルザが目に入る。

「どうしたのだ？」

「え……？　い、いや……！　お、お前たちは、め、夫・婦・だもんな」

「？」

「よ、よし！　準備が出来たなら『ラルグの塔』へ行くぞ、そ、ソフィ！」

　どうやら照れている様子のエルザは慌ててそう言うと、一人で外に出て行くのだった。

「行ってらっしゃい」

「うむ、行ってくる」

　そこでソフィは屋敷を出るのだった。

　庭に居たベアや配下の魔物達がソフィの元へ寄って来る。

「すまぬがこれから我は『ラルグの塔』へと行く事になった。リーネを頼んだぞ」

「お任せください」

「グルルル！」

　ベアに続いてベイルやサーベル達も任せてくれとばかりに声をあげて、キラーやクラウザーも承知したとばかりに頭を下げて返事をするのだった。

　こうしてソフィはエルザに連れられて、レルバノンが居るラルグの塔へと向かう事となるのであった。